15 / 40
15 今度は畑が
しおりを挟む
家に戻るとトムじいさんとルナがテーブルに座って壁に凭れ掛かっていた。
「ただいま、おじいさん具合はどう?」
「ああ、お帰りロビン。クロスもご苦労じゃったなぁ」
クロスがルナの頭を撫でながら言う。
「痛むところはあるかい?」
トムじいさんはゆっくりと首を横に振った。
「ヘルメが持っていた薬を塗ったら信じられんぐらいに楽になったよ。すごいなぁ、お前さんたちの国の薬は。ジンカイっていったか? どの辺にあるんじゃろうか」
クロスはまっすぐに天上を指さした。
「あっち。ヘルメが薬を塗ったんでしょ? あいつが塗ったなら水でも万能薬さ。ところでヘルメは?」
「ああ、ヘルメならワシを襲った男たちと話してくると言って出て行ったよ。料理もできとるし、風呂も沸いとる。あの男の仕事の速さと言ったらとんでもないのう。まるで神風のようじゃったよ。全く疲れも見せんしなぁ」
クロスが真顔で何度も頷いた。
「そりゃそうだろうね。あいつは現役の神だもん」
ルナとロビンが台所に立って料理を温めなおそうとしている。
そんなふたりの背中を見ながら、クロスはふとオペラとマカロの後姿を思い出した。
「あいつら晩飯食ったかな……」
クロスの言葉に振り向いたのはロビンだった。
「アンナマリーさんに貰ってたから食べていると思うよ。あの二人のような子は山ほどいるんだ。僕たちだっておじいさんが引き取ってくれなかったら、あいつらよりもっと酷い暮らしをしていたはずさ」
「そうか……ああいう子はそんなにたくさんいるのか」
トムじいさんが静かな声で言った。
「同情するのは簡単じゃ。しかし本当の意味で救ってやることは難しい。わかるかの? クロス」
「本当の意味で救う……生活を楽にするということでは無くて?」
「そうじゃのう、例えばお前さんが王様のように金持ちで、あの二人のような子供を集めて、毎日飯を食わせたとする。そういう子供はどうなるかの?」
「毎日タダで腹いっぱいになって幸せなんじゃね?」
「なるほどのう、ではその生活に慣れたころお前さんがおらんようになったら?」
「また以前の食うや食わずの生活に戻る……ああ、そうか」
「わかったかの?」
「でもその救済は時間も金もかかるよなぁ。しかも地味だから誰もその功績を認めない」
「そうじゃな。だから貴族たちはやりたがらないのじゃ。だから教会でやっている救済もその場しのぎにならざるを得ん。それは金も人手も無いからじゃが、子供たちの親の理解も無いのじゃよ。子供といえど働き手だからのう。将来より今日の飯なんじゃよ」
ヘルメが戻ってきて声を出した。
「抜本的な改革が必要だが、それができるのは王家だけだ。その王家にやる気がないんじゃどうしようもない。所詮人間は血塗られた欲望の中で生きるしかないのさ」
クロスが振り返った。
「ああヘルメ、ご苦労さん。あいつらは?」
「ペラペラと喋ってくれましたよ。ねえおじいさん、トラッド侯爵って知ってます?」
おじいさんが頷いた。
「市場を潰そうとしている貴族じゃよ。なんでもここに貴族の娯楽施設を建てたいらしいが住民たちが反対しておるのじゃ」
クロスが目を見開く。
「市場を潰す? みんな困るじゃないか。それともどこかに市場ごと移転させるのかな」
おじいさんは首を横に振った。
「後は勝手にしろという話じゃよ。少しずつじゃが店が少なくなっているのもそれが理由かもしれんのう」
その時裏庭で大きな音がした。
クロスとヘルメが駆け出し、ロビンとルナはおじいさんに抱きついた。
「誰だ!」
クロスの声に数人の男が息をのむ気配がした。
ヘルメがスッと指を翳すと、辺りが昼間のように明るくなる。
「ひいっ!」
突然の光に驚いた男たちは、手に持っていた鍬や鋤を投げ出して逃げようとしたが、足が畑に埋まって動けない。
ふと見るとクロスとロビンがあれほど苦労した畑が無残に荒らされている。
「お前ら……」
クロスの声が震えた。
ヘルメはそんなクロスの横顔を見ながら少し驚いた顔をしている。
「クロスも怒ることができるんですねぇ。うん、成長しました。うんうん」
まるで初めて自分の名前を書けた我が子を見るような目でクロスを見るヘルメ。
「ヘルメ、捕縛だ」
頷いたヘルメが指先でくるっと円を描くと、男たちの体に荊が巻き付いた。
どの男も痩せて顔色が悪い。
「どうやら目をつけられてしまったようですね」
ヘルメの言葉にクロスが頷いた。
「抜本的な改革か……」
クロスの言葉にヘルメが驚いた顔をした。
「ただいま、おじいさん具合はどう?」
「ああ、お帰りロビン。クロスもご苦労じゃったなぁ」
クロスがルナの頭を撫でながら言う。
「痛むところはあるかい?」
トムじいさんはゆっくりと首を横に振った。
「ヘルメが持っていた薬を塗ったら信じられんぐらいに楽になったよ。すごいなぁ、お前さんたちの国の薬は。ジンカイっていったか? どの辺にあるんじゃろうか」
クロスはまっすぐに天上を指さした。
「あっち。ヘルメが薬を塗ったんでしょ? あいつが塗ったなら水でも万能薬さ。ところでヘルメは?」
「ああ、ヘルメならワシを襲った男たちと話してくると言って出て行ったよ。料理もできとるし、風呂も沸いとる。あの男の仕事の速さと言ったらとんでもないのう。まるで神風のようじゃったよ。全く疲れも見せんしなぁ」
クロスが真顔で何度も頷いた。
「そりゃそうだろうね。あいつは現役の神だもん」
ルナとロビンが台所に立って料理を温めなおそうとしている。
そんなふたりの背中を見ながら、クロスはふとオペラとマカロの後姿を思い出した。
「あいつら晩飯食ったかな……」
クロスの言葉に振り向いたのはロビンだった。
「アンナマリーさんに貰ってたから食べていると思うよ。あの二人のような子は山ほどいるんだ。僕たちだっておじいさんが引き取ってくれなかったら、あいつらよりもっと酷い暮らしをしていたはずさ」
「そうか……ああいう子はそんなにたくさんいるのか」
トムじいさんが静かな声で言った。
「同情するのは簡単じゃ。しかし本当の意味で救ってやることは難しい。わかるかの? クロス」
「本当の意味で救う……生活を楽にするということでは無くて?」
「そうじゃのう、例えばお前さんが王様のように金持ちで、あの二人のような子供を集めて、毎日飯を食わせたとする。そういう子供はどうなるかの?」
「毎日タダで腹いっぱいになって幸せなんじゃね?」
「なるほどのう、ではその生活に慣れたころお前さんがおらんようになったら?」
「また以前の食うや食わずの生活に戻る……ああ、そうか」
「わかったかの?」
「でもその救済は時間も金もかかるよなぁ。しかも地味だから誰もその功績を認めない」
「そうじゃな。だから貴族たちはやりたがらないのじゃ。だから教会でやっている救済もその場しのぎにならざるを得ん。それは金も人手も無いからじゃが、子供たちの親の理解も無いのじゃよ。子供といえど働き手だからのう。将来より今日の飯なんじゃよ」
ヘルメが戻ってきて声を出した。
「抜本的な改革が必要だが、それができるのは王家だけだ。その王家にやる気がないんじゃどうしようもない。所詮人間は血塗られた欲望の中で生きるしかないのさ」
クロスが振り返った。
「ああヘルメ、ご苦労さん。あいつらは?」
「ペラペラと喋ってくれましたよ。ねえおじいさん、トラッド侯爵って知ってます?」
おじいさんが頷いた。
「市場を潰そうとしている貴族じゃよ。なんでもここに貴族の娯楽施設を建てたいらしいが住民たちが反対しておるのじゃ」
クロスが目を見開く。
「市場を潰す? みんな困るじゃないか。それともどこかに市場ごと移転させるのかな」
おじいさんは首を横に振った。
「後は勝手にしろという話じゃよ。少しずつじゃが店が少なくなっているのもそれが理由かもしれんのう」
その時裏庭で大きな音がした。
クロスとヘルメが駆け出し、ロビンとルナはおじいさんに抱きついた。
「誰だ!」
クロスの声に数人の男が息をのむ気配がした。
ヘルメがスッと指を翳すと、辺りが昼間のように明るくなる。
「ひいっ!」
突然の光に驚いた男たちは、手に持っていた鍬や鋤を投げ出して逃げようとしたが、足が畑に埋まって動けない。
ふと見るとクロスとロビンがあれほど苦労した畑が無残に荒らされている。
「お前ら……」
クロスの声が震えた。
ヘルメはそんなクロスの横顔を見ながら少し驚いた顔をしている。
「クロスも怒ることができるんですねぇ。うん、成長しました。うんうん」
まるで初めて自分の名前を書けた我が子を見るような目でクロスを見るヘルメ。
「ヘルメ、捕縛だ」
頷いたヘルメが指先でくるっと円を描くと、男たちの体に荊が巻き付いた。
どの男も痩せて顔色が悪い。
「どうやら目をつけられてしまったようですね」
ヘルメの言葉にクロスが頷いた。
「抜本的な改革か……」
クロスの言葉にヘルメが驚いた顔をした。
11
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる