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11 トムじいさんの危機
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そして翌朝、まだ暗いうちから畑に出たクロスは、昨夜習った通りに畑に畝を作る。
起きだしてきたロビンがその作業に加わり、朝食前には全ての畑で植え付け準備が完了していた。
「ほうほう! これは随分早い仕事じゃな」
畝をひとつ作る度にクロスの耳元で『チャリン』という音がする。
これだけでも随分貯まっただろうと、クロスがニヤニヤしながらヘルメを見た。
「クロスにもできることがあったのですねぇ、感心しましたよ」
クロスとロビンは自慢げな顔をしながら、体の汚れを落とすために川に向かった。
一緒に作業をしていたはずなのに、涼しい顔で指先さえ汚れていないヘルメにトムじいさんが言う。
「あんたはホントに凄いな。まるで神業じゃ」
朝食を終えた一行が市場に向かう。
いつものように屋台を組み立て、クロスとヘルメが店頭に立った。
「美味しくて新鮮な野菜はいかがですか」
クロスの声に吸い寄せられるように女性客が群がってくる。
集まってきた女性たちにヘルメがにっこり微笑むと、キャベツやトマトや人参が消えるように売れていくのだ。
周りに店を出している者たちは啞然としてその様子を見ている。
「ねえおじいさん、ちょっと傷があるくらいなら売れるんじゃない?」
ロビンの声にトムじいさんが頷いた。
「少し値段を下げれば良心も痛まんし、あの二人なら売りさばけそうじゃな」
そんなことが数日続き、トムじいさんの屋台は市場でも有名になっていった。
近くの店の者たちは波及効果で売り上げが上がったと喜んでいたが、少し離れた場所の店は閑古鳥が鳴いており、苦々しい顔でトムじいさんを睨んでいる。
「今日も売り切れちゃったの? まだ10時にもなっていないのに」
ルナが呆れた顔で言う。
「時間が空きましたから少し見て回りましょうか」
ヘルメがルナを抱き上げた。
「片づけたら僕たちも冷やかして回ろうか」
クロスがロビンを誘う。
「おお、そうすればいい。ワシは先に帰るからゆっくり遊んできなさい」
空っぽになった台車を引いてトムじいさんが言った。
「うん、なるべく早く帰るからおじいさんは少し休んでいてね」
そう言ってロビンはクロスと共に人ごみに消えていく。
もう少し生産量を増やしてみようかなどと考えながら、市場の南にある食堂街の外れまで来たトムじいさんは、二人の男に行く手を阻まれた。
「なんじゃ? お前らは……」
身の危険を感じたトムじいさんが緊張した声を出した。
「お前んとこのせいで潰れそうな店がたくさんあるんだよ!」
男たちに挟まれたトムじいさんは路地裏へと連れ込まれてしまったのだ。
その頃ヘルメたちと合流したクロスとロビンは、串焼きの屋台の前でどれを食べるか悩んでいた。
「やっぱり僕はチキンだな」
ロビンがそう言うとルナが嬉しそうな声を出した。
「私はビーフ! 玉葱が一緒に刺さってるのがいい!」
二人に串を渡して代金を支払いながらヘルメがクロスに言う。
「どれでもどうぞ。今日は私が驕りましょう」
一瞬目を見開いたクロスが嬉しそうにヘルメを見た。
「驕りなら遠慮しないぞ! 僕は……」
その時ふと横を見るとみすぼらしい襤褸を纏ったふたりの子供が立っていた。
子供たちは強請るでもなくじっと屋台を見ている。
「何してんだ?」
クロスが聞くと年嵩の男の子が小さな声で答えた。
「匂いを……」
その少年と手を繋いでいる小さな男の子は、まだ5歳くらいだろうか。
きゅりゅきゅるという腹の虫の鳴き声がクロスの耳に届いた。
「なあロビン、小さい子だとどれが良いかな」
クロスがチキンを頬張っているロビンに声を掛ける。
「僕はボリューム重視だからチキンだけど、ルナと同じようにビーフが柔らかくて旨いよ」
「じゃあビーフを二つ」
クロスが屋台のおやじに言い、受け取った串を子供たちに渡していやった。
「ケンカせずに一本ずつだ」
遠慮して手を出さない子供たちにニコニコと笑いながら串を握らせる。
「ありがとうきれいなお兄さん」
年嵩の少年がペコっと頭を下げると、幼い子も真似をして頭を下げた。
「なに、礼など言う必要はないよ。お前たちに渡した串は駄賃だからな。食ったらちょっと用事を頼まれてほしいんだ」
うんうんと何度も頷くと、子供たちは待ちきれないとばかりに肉に齧り付いた。
幼い子には大き過ぎたのだろう、嚙み切れず食べあぐねている。
「おじさん、そのお皿貸して?」
ルナが気を利かせて皿を持ってきた。
「ほら、こうやって外すと食べやすいでしょ?」
今度はロビンが借りてきたナイフで肉を小さく切り分けてやる。
「串の先で刺して食べるんだ。野菜も一緒に食べなきゃだめだよ?」
屋台のおやじが木箱を二つ出してくれた。
皿を木箱に置いて、地面にペタンと座って行儀よく食べる子供たちを見ながらヘルメが言った。
「この子たちにどんな仕事をさせるのですか?」
クロスが小首を傾げる。
「受け取りそうになかったから言っただけなんだけど……道案内でもしてもらう?」
ヘルメは苦笑いを浮かべながら、肩を竦めてみせた。
起きだしてきたロビンがその作業に加わり、朝食前には全ての畑で植え付け準備が完了していた。
「ほうほう! これは随分早い仕事じゃな」
畝をひとつ作る度にクロスの耳元で『チャリン』という音がする。
これだけでも随分貯まっただろうと、クロスがニヤニヤしながらヘルメを見た。
「クロスにもできることがあったのですねぇ、感心しましたよ」
クロスとロビンは自慢げな顔をしながら、体の汚れを落とすために川に向かった。
一緒に作業をしていたはずなのに、涼しい顔で指先さえ汚れていないヘルメにトムじいさんが言う。
「あんたはホントに凄いな。まるで神業じゃ」
朝食を終えた一行が市場に向かう。
いつものように屋台を組み立て、クロスとヘルメが店頭に立った。
「美味しくて新鮮な野菜はいかがですか」
クロスの声に吸い寄せられるように女性客が群がってくる。
集まってきた女性たちにヘルメがにっこり微笑むと、キャベツやトマトや人参が消えるように売れていくのだ。
周りに店を出している者たちは啞然としてその様子を見ている。
「ねえおじいさん、ちょっと傷があるくらいなら売れるんじゃない?」
ロビンの声にトムじいさんが頷いた。
「少し値段を下げれば良心も痛まんし、あの二人なら売りさばけそうじゃな」
そんなことが数日続き、トムじいさんの屋台は市場でも有名になっていった。
近くの店の者たちは波及効果で売り上げが上がったと喜んでいたが、少し離れた場所の店は閑古鳥が鳴いており、苦々しい顔でトムじいさんを睨んでいる。
「今日も売り切れちゃったの? まだ10時にもなっていないのに」
ルナが呆れた顔で言う。
「時間が空きましたから少し見て回りましょうか」
ヘルメがルナを抱き上げた。
「片づけたら僕たちも冷やかして回ろうか」
クロスがロビンを誘う。
「おお、そうすればいい。ワシは先に帰るからゆっくり遊んできなさい」
空っぽになった台車を引いてトムじいさんが言った。
「うん、なるべく早く帰るからおじいさんは少し休んでいてね」
そう言ってロビンはクロスと共に人ごみに消えていく。
もう少し生産量を増やしてみようかなどと考えながら、市場の南にある食堂街の外れまで来たトムじいさんは、二人の男に行く手を阻まれた。
「なんじゃ? お前らは……」
身の危険を感じたトムじいさんが緊張した声を出した。
「お前んとこのせいで潰れそうな店がたくさんあるんだよ!」
男たちに挟まれたトムじいさんは路地裏へと連れ込まれてしまったのだ。
その頃ヘルメたちと合流したクロスとロビンは、串焼きの屋台の前でどれを食べるか悩んでいた。
「やっぱり僕はチキンだな」
ロビンがそう言うとルナが嬉しそうな声を出した。
「私はビーフ! 玉葱が一緒に刺さってるのがいい!」
二人に串を渡して代金を支払いながらヘルメがクロスに言う。
「どれでもどうぞ。今日は私が驕りましょう」
一瞬目を見開いたクロスが嬉しそうにヘルメを見た。
「驕りなら遠慮しないぞ! 僕は……」
その時ふと横を見るとみすぼらしい襤褸を纏ったふたりの子供が立っていた。
子供たちは強請るでもなくじっと屋台を見ている。
「何してんだ?」
クロスが聞くと年嵩の男の子が小さな声で答えた。
「匂いを……」
その少年と手を繋いでいる小さな男の子は、まだ5歳くらいだろうか。
きゅりゅきゅるという腹の虫の鳴き声がクロスの耳に届いた。
「なあロビン、小さい子だとどれが良いかな」
クロスがチキンを頬張っているロビンに声を掛ける。
「僕はボリューム重視だからチキンだけど、ルナと同じようにビーフが柔らかくて旨いよ」
「じゃあビーフを二つ」
クロスが屋台のおやじに言い、受け取った串を子供たちに渡していやった。
「ケンカせずに一本ずつだ」
遠慮して手を出さない子供たちにニコニコと笑いながら串を握らせる。
「ありがとうきれいなお兄さん」
年嵩の少年がペコっと頭を下げると、幼い子も真似をして頭を下げた。
「なに、礼など言う必要はないよ。お前たちに渡した串は駄賃だからな。食ったらちょっと用事を頼まれてほしいんだ」
うんうんと何度も頷くと、子供たちは待ちきれないとばかりに肉に齧り付いた。
幼い子には大き過ぎたのだろう、嚙み切れず食べあぐねている。
「おじさん、そのお皿貸して?」
ルナが気を利かせて皿を持ってきた。
「ほら、こうやって外すと食べやすいでしょ?」
今度はロビンが借りてきたナイフで肉を小さく切り分けてやる。
「串の先で刺して食べるんだ。野菜も一緒に食べなきゃだめだよ?」
屋台のおやじが木箱を二つ出してくれた。
皿を木箱に置いて、地面にペタンと座って行儀よく食べる子供たちを見ながらヘルメが言った。
「この子たちにどんな仕事をさせるのですか?」
クロスが小首を傾げる。
「受け取りそうになかったから言っただけなんだけど……道案内でもしてもらう?」
ヘルメは苦笑いを浮かべながら、肩を竦めてみせた。
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