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「マックス! マックス……どこなの」
10メートル先でおろおろとまわりを見まわしている女性がいた。
「君ってマックスっていうの?」
肩車をしている子供に聞くと、コクンと頷いた。
「あそこできょろきょろしてるのってお母さんかい?」
クロスが指さした先に視線を移した子供が急に足をばたつかせた。
「あっ! お母さん! お母さんだ」
「コラッ! 足を動かすな! 顔を蹴るな! 落ちちゃうぞ」
大声で母親を呼び続ける子供を担いままクロスは歩き出した。
「マックス! ダメじゃないの! 一人で先に行ってはダメってあれほど言ったのに」
クロスの肩から降ろしてもらいながら、マックスと呼ばれた子供が母親にしがみついた。
「良かったな、マックス。お母さんが見つかって」
クロスの声に子供を抱きしめていた母親が顔を上げた。
「あの……」
「このお兄ちゃんが一緒にお母さんを探してくれたんだ」
「まあ! ありがとうございました。本当に……本当にありがとうございました」
今にも泣き出しそうな顔でぺこぺこと頭を下げる母親に、クロスが照れながら言う。
「いえいえ、見つかって良かったですよ。では僕はこれで。マックス、もうお母さんを心配させるんじゃないぞ?」
「うん、ありがとうお兄さん」
母親が慌てて声を出した。
「あの、何かお礼を……それとお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「お礼なんて結構ですよ。僕の名前はクロスです……ああ、そうだ。もし野菜を買うならトムじいさんの屋台も覗いてみてください。それで十分ですから」
ひらひらと手を振りながら戻るクロスに、何度もお辞儀をしながら見送る母子。
「なかなか粋なことをするじゃないですか」
どこにいたのかスッとヘルメがクロスの横に並んだ。
「どこにいたの? でもまあ、見つかってよかったよ。あの子必死だったもんなぁ」
「ええ、母親も血相を変えて探していましたものね。きっと仲の良い母子なのでしょう」
すとクロスがヘルメを見た。
「そう言えばヘルメのお母さんって誰だっけ?」
ヘルメがシレッとした顔で答える。
「私の母親はマイアですよ」
クロスが素っ頓狂な声を出した。
「えっ! マイアってあのまマイア?」
「あのマイアがどのマイアかはわかりませんが、母の名前はマイアです」
クロスが真っ青な顔をしている。
なんとなく察したヘルメがポンとクロスの肩を叩いた。
「まあ、神も生きているといろいろありますよ。彼女は見た目が17歳くらいですからね」
「あ……いや、なんかゴメン」
性に奔放というより無秩序な神界のことだ。
誰が誰と何をしたかなど、昨日の夕食が何だったかと同レベルで話題になることもない。
しかし、かなりのショックを受けているクロスを見て、ヘルメは『コイツって意外と良い奴かもしれない』と思った。
「まあ、あまりお気になさらず。ちなみに父親の名前は明かせませんから聞かないでくださいね」
クロスはコクコクと首を振りつつも、自分の予想が正しくないことを祈るしかない。
その時、クロスの耳元で『ピコン』という音がした。
「ん? なんだ?」
ヘルメがニヤッと笑う。
「おめでとうございます。初ポイントゲットですね。この調子で頑張りましょう」
「え? 今のがポイントゲット音? じゃあさっきおばあさんを助けたのはポイントにならなかったてこと?」
「当たり前でしょう? 命の恩人を危険にさらして何がポイントですか。そんな下らないことで一喜一憂しないで、もうトムじいさんのところに戻りましょう」
「ああ、そうだね。トムじいさんの手伝いをしなくちゃね」
そう言ったクロスとヘルメはゆっくりと来た道を戻って行った。
人間界の市場は忙しない。
何人もの人たちとぶつかりながら、クロスは人通りの多い道での歩き方を学んだ。
「お帰り、どうだった市場探検は」
屋台で店番をしていたロビンが声を掛ける。
「ただいま。人が多くて歩きにくかったよ」
「そうだよね、でもだいたいあんな感じさ。特に今は昼前だから人も多いんだ」
ヘルメが屋台の後ろを覗き込んで聞いた。
「トムじいさんとルナはどこへ?」
「ああ、ヘルメに貰ったお金でルナの洋服を買いに行ったよ。もうずっと新しい服を買ってやれていなかったし、靴も小さくなってたからね」
「そうですか。お役に立てたのなら何よりです」
ふたりの会話を聞くともなしに聞いていたクロスは、いきなり手をきゅっと握られた。
「さっきはありがとうね、お兄さん」
「おお! マックスじゃないか。またお母さんとはぐれちゃったのか?」
「違うよ、野菜を買いに来たんだ」
マックスの後ろで母親がニコニコして立っていた。
クロスが目を見開き嬉しそうな声をあげる。
「ああそうか! ありがとうね。どうぞ見て行ってよ。全部新鮮で美味しいよ」
母子は数種類の野菜を購入し、手を振って去って行った。
その様子を見ていたロビンがボソッと言う。
「あの笑顔は反則だよね。クロスがニコッと微笑むだけで、トマトが三個余計に売れた」
10メートル先でおろおろとまわりを見まわしている女性がいた。
「君ってマックスっていうの?」
肩車をしている子供に聞くと、コクンと頷いた。
「あそこできょろきょろしてるのってお母さんかい?」
クロスが指さした先に視線を移した子供が急に足をばたつかせた。
「あっ! お母さん! お母さんだ」
「コラッ! 足を動かすな! 顔を蹴るな! 落ちちゃうぞ」
大声で母親を呼び続ける子供を担いままクロスは歩き出した。
「マックス! ダメじゃないの! 一人で先に行ってはダメってあれほど言ったのに」
クロスの肩から降ろしてもらいながら、マックスと呼ばれた子供が母親にしがみついた。
「良かったな、マックス。お母さんが見つかって」
クロスの声に子供を抱きしめていた母親が顔を上げた。
「あの……」
「このお兄ちゃんが一緒にお母さんを探してくれたんだ」
「まあ! ありがとうございました。本当に……本当にありがとうございました」
今にも泣き出しそうな顔でぺこぺこと頭を下げる母親に、クロスが照れながら言う。
「いえいえ、見つかって良かったですよ。では僕はこれで。マックス、もうお母さんを心配させるんじゃないぞ?」
「うん、ありがとうお兄さん」
母親が慌てて声を出した。
「あの、何かお礼を……それとお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「お礼なんて結構ですよ。僕の名前はクロスです……ああ、そうだ。もし野菜を買うならトムじいさんの屋台も覗いてみてください。それで十分ですから」
ひらひらと手を振りながら戻るクロスに、何度もお辞儀をしながら見送る母子。
「なかなか粋なことをするじゃないですか」
どこにいたのかスッとヘルメがクロスの横に並んだ。
「どこにいたの? でもまあ、見つかってよかったよ。あの子必死だったもんなぁ」
「ええ、母親も血相を変えて探していましたものね。きっと仲の良い母子なのでしょう」
すとクロスがヘルメを見た。
「そう言えばヘルメのお母さんって誰だっけ?」
ヘルメがシレッとした顔で答える。
「私の母親はマイアですよ」
クロスが素っ頓狂な声を出した。
「えっ! マイアってあのまマイア?」
「あのマイアがどのマイアかはわかりませんが、母の名前はマイアです」
クロスが真っ青な顔をしている。
なんとなく察したヘルメがポンとクロスの肩を叩いた。
「まあ、神も生きているといろいろありますよ。彼女は見た目が17歳くらいですからね」
「あ……いや、なんかゴメン」
性に奔放というより無秩序な神界のことだ。
誰が誰と何をしたかなど、昨日の夕食が何だったかと同レベルで話題になることもない。
しかし、かなりのショックを受けているクロスを見て、ヘルメは『コイツって意外と良い奴かもしれない』と思った。
「まあ、あまりお気になさらず。ちなみに父親の名前は明かせませんから聞かないでくださいね」
クロスはコクコクと首を振りつつも、自分の予想が正しくないことを祈るしかない。
その時、クロスの耳元で『ピコン』という音がした。
「ん? なんだ?」
ヘルメがニヤッと笑う。
「おめでとうございます。初ポイントゲットですね。この調子で頑張りましょう」
「え? 今のがポイントゲット音? じゃあさっきおばあさんを助けたのはポイントにならなかったてこと?」
「当たり前でしょう? 命の恩人を危険にさらして何がポイントですか。そんな下らないことで一喜一憂しないで、もうトムじいさんのところに戻りましょう」
「ああ、そうだね。トムじいさんの手伝いをしなくちゃね」
そう言ったクロスとヘルメはゆっくりと来た道を戻って行った。
人間界の市場は忙しない。
何人もの人たちとぶつかりながら、クロスは人通りの多い道での歩き方を学んだ。
「お帰り、どうだった市場探検は」
屋台で店番をしていたロビンが声を掛ける。
「ただいま。人が多くて歩きにくかったよ」
「そうだよね、でもだいたいあんな感じさ。特に今は昼前だから人も多いんだ」
ヘルメが屋台の後ろを覗き込んで聞いた。
「トムじいさんとルナはどこへ?」
「ああ、ヘルメに貰ったお金でルナの洋服を買いに行ったよ。もうずっと新しい服を買ってやれていなかったし、靴も小さくなってたからね」
「そうですか。お役に立てたのなら何よりです」
ふたりの会話を聞くともなしに聞いていたクロスは、いきなり手をきゅっと握られた。
「さっきはありがとうね、お兄さん」
「おお! マックスじゃないか。またお母さんとはぐれちゃったのか?」
「違うよ、野菜を買いに来たんだ」
マックスの後ろで母親がニコニコして立っていた。
クロスが目を見開き嬉しそうな声をあげる。
「ああそうか! ありがとうね。どうぞ見て行ってよ。全部新鮮で美味しいよ」
母子は数種類の野菜を購入し、手を振って去って行った。
その様子を見ていたロビンがボソッと言う。
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