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5  友達

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 昨夜の残り物で朝食を済ませたクロスは、ロビンとルナと共に畑の草抜きに勤しんでいる。

「初めてやったが、これはかなりの重労働だな。腰がまっすぐに伸びなくなった」

 ルナが笑う。

「慣れだよ、慣れ。そんなふうに前かがみになって猫背にしたら痛くなるだけだもん。ほら、こうやるんだよ」

 ルナがクロスの横で草抜きの正しい姿勢を教えてやる。

「なるほど、人間の知恵は凄いものだな。元々腰は過労気味だったのだが、これなら確かに楽だ」

 ルナが重ねて聞く。

「腰が過労気味って、どんなお仕事をしてたの?」

 クロスが目を丸くする。

「仕事? 仕事などはしたこともないさ。腰が痛かったのは大人の事情というやつだ」

「ふぅ~ん」

 黙って草を抜いていたロビンが声を出す。

「喋るのは勝手だが、手が止まるなら黙って働け」

「はぁ~い」

 ルナとクロスは肩を竦めて笑い合った。
 台車に野菜を載せたトムじいさんとヘルメが畑に顔を出した。

「では行ってくるよ。昼にはこっちに来なさい」

 トムじいさんに続いてヘルメが言う。

「私は必要な生活用品を揃えてきます」

「ルナも行く~」

 古びたエプロンで指先の土を拭ったルナが駆けだした。

「あっ! ルナ!」

 ロビンが呼び止めようと立ち上がったが、ルナはさっさとトムじいさんの台車に座ってしまった。

「ちぇっ! 僕だって草抜きより店番の方がいいよ……」

 ロビンの独り言にクロスが声を出した。

「店番ってなんだ?」

「おじいさんはここで作った野菜を市場で売っているんだ。そうやって稼いだ金で食材を買って僕たちを育ててくれているんだよ」

「へえ……ロビンとルナは親がいないのか?」

「……僕たちは親無しさ。母さんが病気で死んで、父さんは僕たちを連れてここに戻ってきたんだよ。でもすぐに父さんも死んじゃった」

「そうか、大変だったな。親ってのはいると煩いし面倒だと思うことはあるが、いないなんて考えられない存在だもんな……でもじいさんが良い人で良かったな」

「うん、だから僕は早く稼げるようになりたい。おじいさんに楽をさせてやりたい。ルナにも新しい服を買ってやりたい……」

 クロスが何度も頷く。

「ロビン、お前は良い奴だ。今日から友達になってやる。僕を頼れ。僕は神だから、お前の望みを聞いてやろう。今は聞くだけで何もできんが、誰かに話すのは悪いことじゃない。ロビンの望みはなんだ?」

 ポカンとした顔でロビンが笑いだす。

「だから僕の望みはおじいさんを……」

 ロビンが言い終わる前にクロスが言葉を重ねた。

「そうじゃない。お前自身の望みだ。お前がお前のために何をしてやりたいかだよ」

「僕の? 僕の……僕は学校に行きたかった」

「学校? なんだそれ」

「教会でやっている学校だよ。知らないの? 僕ぐらいの子供を集めて読み書きとか計算とかを教えてくれるんだ」

「ロビンは読み書きとか計算ができるようになりたいのか?」

「うん、その方がたくさん稼げるし、騙されることも無いだろう? それに学校なら友達もできるだろうし……」

「友達なら今僕がなったが?」

 ロビンが草抜きの手を止めてクロスを見た。

「あ……ああ、そうだったな。クロスは僕の友達だ。初めてできた友達だよ」

 クロスが嬉しそうな顔でロビンを見た。

「そうだ、僕はロビンの友達第1号か。悪くない響きだ。後は読み書きと計算か……良ければ教えようか? ヘルメが」

「え? クロスじゃなくてヘルメが?」

「ああ、僕よりあいつの方が勉強はできる。僕はどちらかというと肉体派なんだ。いつだったか女性に言われたことがあるんだ。あなたって脳筋ねってな。ヘルメは僕の頭には泥が詰まっているというが、その女性に言わせると詰まっているのは筋肉らしい。どちらでも良いが泥より筋肉の方が尊い」

「クロス……お前ってめちゃ面白い奴だ」

 ロビンが腹を抱えて笑っていると、たくさんの荷物を抱えたヘルメが戻ってきた。

「サボらずにやっていますか?」

 クロスは握っていた草の束をザルに入れて、泥だらけの手でサムズアップしてみせた。
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