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64 アランとマリア
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朝食の後、アランとマリア王女をエヴァン様の部屋に呼びました。
私は彼らの卒業式以来です。
「失礼します」
アランが先に入ってきました。
その後にマリア王女が続きます。
「お久しぶりです、マリア殿下、アラン様」
「本当に久しぶりだね。そして今回の件では本当に迷惑をかけてしまった。申し訳ない」
二人は深々と頭を下げました。
「今回の件では確かに多大な被害を被りましたが、二人の責任ではないですよ。お二人も被害者でしょう?」
マリア殿下が口を開きました。
「そう言ってくれると助かるわ。でもそもそも私の行動がトリガーになってるのだから、私は全面的に被害者というわけでは無いと自覚しているの。エヴァン卿、そしてローゼリア嬢には心からお詫び申し上げます」
エヴァン様と私は目を合わせて頷きました。
「そう、反省しているなら良かったよ。それで?二人の仲は修復できたのかな?」
アランがおずおずと口を開きます。
「僕に勇気がないばかりに彼女にも悲しい思いをさせてしまいました。ローゼリアはもちろん、両親をあれほど泣かせてまで共にあろうとしたはずなのに、異国の地で平民として生きる事を舐めていました。心が折れてしまった…僕は意気地のない男です。わけがわからないうちにノース国に連れてこられて、いきなり樽に詰められて…もう殺されるんだと覚悟していたら、いきなり目の前にマリアがいて。もう混乱してしまって…よく見たら僕以上にマリアはぼろぼろで。それなのに僕のことを気遣ってくれて、再会を喜んでくれて…。でも僕は罪悪感からその手を取れず…情けないです」
泣き始めたアランの背を擦りながらマリア王女が話し始めました。
「あれから二人で話し合いました。私たちは罪人です。たくさんの人の心を踏みにじりました。そんな私たちがみんなに祝福されるような幸せなんて手にできるはずも無かったのです。本当に愚かで我儘な行動を…恥ずかしです」
エヴァン様がとても優しい声で言いました。
「そう。やっとそこまで考えられるようになったんだ。良かったよ。それは本心だって信じていいね?」
「もちろんです」
「うん、わかった。信じよう。それでいいかな?ローゼリア」
私は強く頷きました。
エヴァン様が続けます。
「それで?マリア殿下は平民のアランとどうしたいの?」
「私は殿下などと呼ばれる立場にはありません。できれば私も平民として…アランと一緒に生きていきたいと思っています…ごめんなさいローゼリア嬢」
「マリア殿下…いえ、マリア様。謝ってもらう必要は無いですよ。本当にもう過去のことです。それでアランはどうなの?」
「もし君が許してくれるなら、王女という立場を捨ててでもという覚悟をしてくれたマリアと一緒に生きたいと思っているよ。でも僕たちはワイドル国にも戻れないから、どこかの国へ二人で行くしかないんだ」
「その覚悟があるの?」
「ああ、今度こそ逃げないよ。何でもするさ」
「そう。それなら…ねえ?エヴァン様」
エヴァン様が笑顔で頷きました。
「ねえ、アラン。その覚悟があるなら君に紹介したい仕事があるんだ。絶対に僕たちを裏切らないと誓えるなら話すけど、どうかな?」
「もちろんです。二度とお二人の信頼を裏切るようなことはしません。でもそれはその仕事の話とは別のことです。たとえ異国の地で二人並んで野垂れ死のうとも、決して裏切ることはありません」
「その言葉を聞いて安心したよ」
そう言うとエヴァン様は昨日私に話してくれた代官の話をしました。
二人は心から驚いていましたし、恐縮していましたが、最後には期待に応えると誓ってくれました。
マリア様も平民として一からやり直す覚悟を見せてくれました。
これなら安心ですね。
「今はハイド伯爵達に代官を任せているから、ハイド伯爵から仕事を習ってくれ。彼はとても真面目に取り組んでくれているから、とても安定した収入が見込めるんだけど、いかんせん年齢的にそろそろ引退させてあげないと可哀想だろう?そこで提案なんだが、イーリス国に帰ったら二人はすぐに入籍しなさい。まずは平民夫婦としてワンド領に住むんだ。そして引継ぎを受けて伯爵から合格がもらえたら、彼らの養子に入ると良い。領地無しの伯爵家だし、仕事は代官という雇用される立場となるが、どうだろうか?」
「それほどの優遇を受けるわけには…」
「まあそう言うな。伯爵とは名ばかりの貧乏貴族となるが、爵位があった方が仕事の交渉もスムーズに進むだろう?その方がいいよ」
「ありがたき幸せです」
二人は深々と頭を下げて退出していった。
エヴァン様と二人になった部屋で、私はなぜか心が温かくなって涙がこぼれました。
「どうも我が愛しの妻は涙もろいようだ」
「こんなに泣くなんて自分でも驚いています。エヴァン様、本当にありがとうございます」
「良かったね、ローゼリア。それにしてもそろそろ夫婦らしく敬語は止めようよ。僕のことはエヴァンと敬称無しで呼んでほしい。君は…ロージー?」
「まあ懐かしい!父は私をそう呼んでいました」
「そう?じゃあロージーで決まりだ。さあ、ロージーこっちに来て?」
「はいエヴァン様…じゃなくて、エヴァン?」
「うん、そうだ」
エヴァン様は満面の笑みで手を広げて私を抱き寄せました。
私は彼らの卒業式以来です。
「失礼します」
アランが先に入ってきました。
その後にマリア王女が続きます。
「お久しぶりです、マリア殿下、アラン様」
「本当に久しぶりだね。そして今回の件では本当に迷惑をかけてしまった。申し訳ない」
二人は深々と頭を下げました。
「今回の件では確かに多大な被害を被りましたが、二人の責任ではないですよ。お二人も被害者でしょう?」
マリア殿下が口を開きました。
「そう言ってくれると助かるわ。でもそもそも私の行動がトリガーになってるのだから、私は全面的に被害者というわけでは無いと自覚しているの。エヴァン卿、そしてローゼリア嬢には心からお詫び申し上げます」
エヴァン様と私は目を合わせて頷きました。
「そう、反省しているなら良かったよ。それで?二人の仲は修復できたのかな?」
アランがおずおずと口を開きます。
「僕に勇気がないばかりに彼女にも悲しい思いをさせてしまいました。ローゼリアはもちろん、両親をあれほど泣かせてまで共にあろうとしたはずなのに、異国の地で平民として生きる事を舐めていました。心が折れてしまった…僕は意気地のない男です。わけがわからないうちにノース国に連れてこられて、いきなり樽に詰められて…もう殺されるんだと覚悟していたら、いきなり目の前にマリアがいて。もう混乱してしまって…よく見たら僕以上にマリアはぼろぼろで。それなのに僕のことを気遣ってくれて、再会を喜んでくれて…。でも僕は罪悪感からその手を取れず…情けないです」
泣き始めたアランの背を擦りながらマリア王女が話し始めました。
「あれから二人で話し合いました。私たちは罪人です。たくさんの人の心を踏みにじりました。そんな私たちがみんなに祝福されるような幸せなんて手にできるはずも無かったのです。本当に愚かで我儘な行動を…恥ずかしです」
エヴァン様がとても優しい声で言いました。
「そう。やっとそこまで考えられるようになったんだ。良かったよ。それは本心だって信じていいね?」
「もちろんです」
「うん、わかった。信じよう。それでいいかな?ローゼリア」
私は強く頷きました。
エヴァン様が続けます。
「それで?マリア殿下は平民のアランとどうしたいの?」
「私は殿下などと呼ばれる立場にはありません。できれば私も平民として…アランと一緒に生きていきたいと思っています…ごめんなさいローゼリア嬢」
「マリア殿下…いえ、マリア様。謝ってもらう必要は無いですよ。本当にもう過去のことです。それでアランはどうなの?」
「もし君が許してくれるなら、王女という立場を捨ててでもという覚悟をしてくれたマリアと一緒に生きたいと思っているよ。でも僕たちはワイドル国にも戻れないから、どこかの国へ二人で行くしかないんだ」
「その覚悟があるの?」
「ああ、今度こそ逃げないよ。何でもするさ」
「そう。それなら…ねえ?エヴァン様」
エヴァン様が笑顔で頷きました。
「ねえ、アラン。その覚悟があるなら君に紹介したい仕事があるんだ。絶対に僕たちを裏切らないと誓えるなら話すけど、どうかな?」
「もちろんです。二度とお二人の信頼を裏切るようなことはしません。でもそれはその仕事の話とは別のことです。たとえ異国の地で二人並んで野垂れ死のうとも、決して裏切ることはありません」
「その言葉を聞いて安心したよ」
そう言うとエヴァン様は昨日私に話してくれた代官の話をしました。
二人は心から驚いていましたし、恐縮していましたが、最後には期待に応えると誓ってくれました。
マリア様も平民として一からやり直す覚悟を見せてくれました。
これなら安心ですね。
「今はハイド伯爵達に代官を任せているから、ハイド伯爵から仕事を習ってくれ。彼はとても真面目に取り組んでくれているから、とても安定した収入が見込めるんだけど、いかんせん年齢的にそろそろ引退させてあげないと可哀想だろう?そこで提案なんだが、イーリス国に帰ったら二人はすぐに入籍しなさい。まずは平民夫婦としてワンド領に住むんだ。そして引継ぎを受けて伯爵から合格がもらえたら、彼らの養子に入ると良い。領地無しの伯爵家だし、仕事は代官という雇用される立場となるが、どうだろうか?」
「それほどの優遇を受けるわけには…」
「まあそう言うな。伯爵とは名ばかりの貧乏貴族となるが、爵位があった方が仕事の交渉もスムーズに進むだろう?その方がいいよ」
「ありがたき幸せです」
二人は深々と頭を下げて退出していった。
エヴァン様と二人になった部屋で、私はなぜか心が温かくなって涙がこぼれました。
「どうも我が愛しの妻は涙もろいようだ」
「こんなに泣くなんて自分でも驚いています。エヴァン様、本当にありがとうございます」
「良かったね、ローゼリア。それにしてもそろそろ夫婦らしく敬語は止めようよ。僕のことはエヴァンと敬称無しで呼んでほしい。君は…ロージー?」
「まあ懐かしい!父は私をそう呼んでいました」
「そう?じゃあロージーで決まりだ。さあ、ロージーこっちに来て?」
「はいエヴァン様…じゃなくて、エヴァン?」
「うん、そうだ」
エヴァン様は満面の笑みで手を広げて私を抱き寄せました。
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