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27 エヴァン様の長期視察

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 川沿いのテラスが素敵なカフェで、私の向かいで真剣な顔をするエヴァン様。

「何かあったのですか?」

「うん、実はねワイドル国のマリア王女がノース国に嫁ぐことになって、皇太子が結婚式に参加するんだ。私も側近として同行しなくてはいけないんだけど、ノース国は遠くてね。片道だけでも一か月はかかる。しかも国王からそこまで行くなら近隣諸国も回って顔を売ってこいって言われてね。皇太子も参ってるけど私も参ってるよ」

「まあ大役を仰せつかったのですね。どのくらいかかるのですか?」

「たぶん一年位じゃないかな」

「そんなに?」

「嫌だろう?」

「でも仕事でしょう?」

「嫌って言ってよ」

「言ってもいいのですか?」

「うん。すぐに仕事を辞めてロゼと結婚する」

「エヴァン様?」

「はぁぁぁ~冗談です。すみません。でもね、帰ったら結婚式を挙げよう。ロゼがそれを承諾してくれたら頑張って行く」

 私は真っ赤な顔になっていたと思います。
 口は動きますが言葉が出てきません。

「ローゼリア?」

 私はただ何度も頷きました。
 そんな私を抱きしめて、エヴァン様は嬉しいと言ってくださいました。
 その日のうちにドイル伯爵夫妻に報告し、こちらでもとても喜んでいただきました。
 ララは私に抱きついて泣いてしまい、ジョアンはニコニコしながら私に一番大切にしている真っ黒な石をくれました。

 皆さんにお祝いされて本当に幸せですが、一年もエヴァン様と会えないのは寂しいです。
 それにマリア王女が嫁がれるって言ってましたが、アランはどうなったのでしょう。
 その夜、寮まで送ってくださるエヴァン様に馬車の中で聞きました。

「エヴァン様、ちょっと気になってしまって。マリア王女が嫁がれるってことはアランとはダメになったってことですか?」

「ああ、そうだよね。気になって当然だし、黙ってないで私に聞いてくれたってことは嬉しいよ。彼らは帰国してからあまり会ってはいないようだ。留学して男を連れて帰ったマリア王女を女王と王配は許さなかったんだ。しかもロゼのこともあっただろう?」

「別れたんですか?」

「うん、表面上はね。っていうかアランがあまり積極的でないという話だ。それでマリア王女もだんだん冷静になったのだろう。でも廃嫡までされちゃってるから今更戻すこともできず、結局王配の温情で王宮の文官になっている。マリア王女は後妻として嫁ぐんだよ。少々好戦的な国だから、婚姻で歯止めにしたいという思惑もあるのだと思う」

「王族って大変ですね」

「そうだね。だからみんな愛人を持つのかな?私には絶対に無理だね」

「そうですよね。やっぱり夫婦は仲良しでなくてはダメですよ」

「私たちは仲良しな夫婦になろうね」

「はい。よろしくお願いします」

「こちらこそ。皇太子の出立はひと月後だから、バタバタしてあまり時間は取れないけど、何度かは会えるようにするから。ロゼも時間を合わせてね」

「もちろんです。連絡してくださいね」

 私たちは他愛もないおしゃべりをしながら、ずっと手をつないでいました。

 お互いに忙しく、あっという間にエヴァン様出発の日が来ました。
 私は所長にお願いしてお休みをいただき、ララと一緒に王宮まで見送りに行きました。
 なぜか朝からエスメラルダが離れないので、所長の許可を得て連れてきています。

 ドイル伯爵夫妻とジョアンも来ていますので、エスメラルダはジョアンと手をつないでいい子にしていました。
 皇太子が乗った馬車にエヴァン様も同乗するようです。

 エヴァン様は家族のもとに笑顔を浮かべて歩いてきました。
 リリアナ夫人と私は涙目になっています。
 順番に抱擁を交わし、ジョアンとエスメラルダの頭を優しくなでた後、私の前に来たエヴァン様は、じっと見つめてくれました。

「ロゼ、必ず無事に帰るから絶対に待っていてね。愛してるよロゼ。君だけを愛している。毎日私のことを思ってくれ。私も毎日ロゼのことを思うよ」

「エヴァン様。待っています。絶対にご無事で帰ってきてくださいね。私もエヴァン様を…愛しています」

 エヴァン様が満面の笑みで私を抱きしめて、ポケットから小さな箱を取り出しました。
 渡されたそれは指輪でした。
 
「婚約指輪。渡してなかったから」

 そう言ってエヴァン様は珍しいほど照れていました。

「エヴァン様」

 私がそう言うと、エヴァン様は私の左の薬指にそっと指輪をはめました。
 よく見るとエヴァン様の左の薬指にも指輪がありました。
 紫のサファイアと濃紺のサファイアが仲よく並んでいるデザインです。

 二人の瞳の色が並んだ結婚指輪。
 周りを囲んでいた皆さんが拍手をしてくださいました。

「ローゼリア、行ってくるね」

「はい、エヴァン様。ご無事をお祈りしております」
 
 私は何日もかかって仕上げた刺繡入りのお守りをエヴァン様に渡しました。
 そのお守りを受け取ったエヴァン様は、笑顔で馬車に乗り込み、窓から手を振ってくれました。

 私はその日からずっとその指輪をして仕事をしています。
 暇さえあれば指輪を触っているようで、サリバン博士に笑われてしまいましたが、これに触れているとなぜか安心するのです。

 それからの毎日は、寮と研究所の行き来だけのような生活です。
 たまには顔を見せろという手紙がララから来て、月に一度程度ジョアンと一緒にドイル家に帰ります。

 エヴァン様からは週に一度手紙が来ますが、移動ばかりの毎日のようで、返事は受け取れないから送らなくていいとの事でした。

 エヴァン様からのお手紙は異国の景色や食事など、興味深い内容ですが、私が書ける内容といったら子供たちの成長や発見したことなどばかりです。

 まるで業務連絡か報告日報のような内容の手紙ばかりが溜まっていきます。
 たまにはララを誘ってショッピングに行くことも考えなくてはいけないと痛感してしまいます。
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