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5 ジョアンはやっぱり天才です
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ジョアンが泥だらけの手で掴んだマカロンを突き出しています。
「ロゼ」
「ありがとうジョアン。あなたは?」
「黄色」
「じゃあ私がとってあげるわね」
ジョアンの差し出したマカロンを受け取り、ハンカチでジョアンの手を拭いてから黄色のマカロンを渡しました。
「黄色」
「そうね、夏の色ね」
ジョアンがマカロンを食べている隙に、メイドがジョアンがくれた泥だらけのマカロンを新しいものに代えてくれました。
小さく目で感謝を伝え、ジョアンと一緒に食べ始めます。
「ねえジョアン、あなたにもわからない事があるでしょう?」
ララがジョアンに問いかけました。
ジョアンがララの顔を見ます。
「そんな時はどうするの?」
「調べる」
「どうやって?」
「観察」
「観察?」
「じっと見る。変化の原因は図鑑で調べる」
「図鑑に載っていなかったら?」
「載っている図鑑を探す」
「なるほど」
ララは肩を竦めました。
でも私は答えを貰ったような気がしました。
「そうよ、ララ。観察すればいいのよ」
「へ?」
ララが素っ頓狂な声をだしました。
「そうよね、ジョアン。わからなければ納得するまで観察すれば何かわかるわよね?」
「当たり前」
「決めたわ!私、アランを観察してみる。今まで邪魔をしない事が最大の協力だと思っていたけれど、会えないし話もできないことが辛くて目を背けていたような気がするの。だからこれからはアランをじっくり観察してみるわ」
「でもそれってあの二人が一緒にいるところを見続けるってことよ?辛いんじゃない?」
「うん、辛いよ。でも見続けていればアランの本当の気持ちもわかると思う。ねえジョアン?」
「当たり前」
ララが困惑したように言いました。
「冷静でいられるの?」
「だからあなたがいるんじゃない」
「はぁぁぁそういうこと?」
「そういうこと。ねえジョアン?」
「そういうこと」
ララが盛大に溜息を吐きました。
玄関の前に馬車が止まり、伯爵夫妻が降りてきました。
ジョアンが嬉しそうに母親に駆け寄っていきます。
ララと私も立ち上がりご挨拶に向かいました。
「二人ともお留守番ありがとうね。お土産に王宮のおいしいお菓子をいただいてきたわ」
伯爵夫人が侍女に持たせた籠を指さしました。
私とララの顔が輝いたのでしょう。
ドイル伯爵が笑っておられます。
「今夜もエヴァンは戻ってくると言っていたよ。あいつは早速王配に文句を言ったらしい。そのうち不敬罪で処刑されるんじゃないか?」
「あら、あの子が処刑されたら私が女王陛下に頼んで国王の首をかき切ってやりますわ。きっと女王陛下も協力してくださるでしょう」
「君を殺人者にしないためにもエヴァンには自重するように言っておこう。ロゼちゃんは今日も泊ってくれるんだよね?」
「もしお邪魔でなければ嬉しいです」
「邪魔なものか!君がいるとジョアンの機嫌が良いし、エヴァンも帰ってくるし、良いこと尽くめだよ」
「ありがたいお言葉です」
ジョアンを抱き上げたドイル伯爵は、私たちを誘って屋敷に戻りました。
ジョアンはお父様とお母様が大好きなんですね。
そっけない喋り方も彼の個性ですが、こうやって親に甘えるジョアンを見ると安心するとともに羨ましくもあります。
予想していたより早く帰宅したエヴァン様も一緒に食卓を囲みました。
いい意味でお客様扱いをしないでくれるドイル家の皆さんには本当に感謝しかありません。
「そういえば今日王配に聞いたんだけど、王配から王女に苦言を呈したそうだよ」
ララが興味津々で聞きました。
「アランとのこと?」
「ああ、あのパーティーでの衣装の件だよ」
ローゼリアの肩がぴくっと跳ねた。
「そしたら偶然だって言ったんだってさ。タイブローチは世話になる礼として渡したんだとさ。だからそれ以上は王配も言えなかったって」
「偶然?そのせいで皇后さまお抱えのお針子が二日も徹夜させられたって聞いたけど」
リリアナ夫人が片眉をあげながらため息交じりで言いました。
ララが苦虫をかみつぶした顔で言います。
「確信犯じゃない」
リリアナ夫人と私の間に座って食事をしていたジョアンがせっせと嫌いなニンジンを皿から取り出しています。
私はジョアンが出したニンジンをせっせと拾い集めながら言いました。
「今日三人でお留守番をしていた時に考えたのですが、明日からアランを観察してみようと思うのです」
「「「観察?」」」
「はい、アランが毎日どんな生活をしているかを観察して、ちょっとした変化にも気づけるようになろうと思うのです」
「でもそれはかなり辛い姿を見ることになるのではない?」
「ええ、覚悟の上です。ね?ジョアン」
「覚悟する」
「うん、ありがとうね。ジョアンもお応援してね」
「応援する」
私はにっこり笑いながらジョアンの頭を撫でました。
「ロゼ」
「ありがとうジョアン。あなたは?」
「黄色」
「じゃあ私がとってあげるわね」
ジョアンの差し出したマカロンを受け取り、ハンカチでジョアンの手を拭いてから黄色のマカロンを渡しました。
「黄色」
「そうね、夏の色ね」
ジョアンがマカロンを食べている隙に、メイドがジョアンがくれた泥だらけのマカロンを新しいものに代えてくれました。
小さく目で感謝を伝え、ジョアンと一緒に食べ始めます。
「ねえジョアン、あなたにもわからない事があるでしょう?」
ララがジョアンに問いかけました。
ジョアンがララの顔を見ます。
「そんな時はどうするの?」
「調べる」
「どうやって?」
「観察」
「観察?」
「じっと見る。変化の原因は図鑑で調べる」
「図鑑に載っていなかったら?」
「載っている図鑑を探す」
「なるほど」
ララは肩を竦めました。
でも私は答えを貰ったような気がしました。
「そうよ、ララ。観察すればいいのよ」
「へ?」
ララが素っ頓狂な声をだしました。
「そうよね、ジョアン。わからなければ納得するまで観察すれば何かわかるわよね?」
「当たり前」
「決めたわ!私、アランを観察してみる。今まで邪魔をしない事が最大の協力だと思っていたけれど、会えないし話もできないことが辛くて目を背けていたような気がするの。だからこれからはアランをじっくり観察してみるわ」
「でもそれってあの二人が一緒にいるところを見続けるってことよ?辛いんじゃない?」
「うん、辛いよ。でも見続けていればアランの本当の気持ちもわかると思う。ねえジョアン?」
「当たり前」
ララが困惑したように言いました。
「冷静でいられるの?」
「だからあなたがいるんじゃない」
「はぁぁぁそういうこと?」
「そういうこと。ねえジョアン?」
「そういうこと」
ララが盛大に溜息を吐きました。
玄関の前に馬車が止まり、伯爵夫妻が降りてきました。
ジョアンが嬉しそうに母親に駆け寄っていきます。
ララと私も立ち上がりご挨拶に向かいました。
「二人ともお留守番ありがとうね。お土産に王宮のおいしいお菓子をいただいてきたわ」
伯爵夫人が侍女に持たせた籠を指さしました。
私とララの顔が輝いたのでしょう。
ドイル伯爵が笑っておられます。
「今夜もエヴァンは戻ってくると言っていたよ。あいつは早速王配に文句を言ったらしい。そのうち不敬罪で処刑されるんじゃないか?」
「あら、あの子が処刑されたら私が女王陛下に頼んで国王の首をかき切ってやりますわ。きっと女王陛下も協力してくださるでしょう」
「君を殺人者にしないためにもエヴァンには自重するように言っておこう。ロゼちゃんは今日も泊ってくれるんだよね?」
「もしお邪魔でなければ嬉しいです」
「邪魔なものか!君がいるとジョアンの機嫌が良いし、エヴァンも帰ってくるし、良いこと尽くめだよ」
「ありがたいお言葉です」
ジョアンを抱き上げたドイル伯爵は、私たちを誘って屋敷に戻りました。
ジョアンはお父様とお母様が大好きなんですね。
そっけない喋り方も彼の個性ですが、こうやって親に甘えるジョアンを見ると安心するとともに羨ましくもあります。
予想していたより早く帰宅したエヴァン様も一緒に食卓を囲みました。
いい意味でお客様扱いをしないでくれるドイル家の皆さんには本当に感謝しかありません。
「そういえば今日王配に聞いたんだけど、王配から王女に苦言を呈したそうだよ」
ララが興味津々で聞きました。
「アランとのこと?」
「ああ、あのパーティーでの衣装の件だよ」
ローゼリアの肩がぴくっと跳ねた。
「そしたら偶然だって言ったんだってさ。タイブローチは世話になる礼として渡したんだとさ。だからそれ以上は王配も言えなかったって」
「偶然?そのせいで皇后さまお抱えのお針子が二日も徹夜させられたって聞いたけど」
リリアナ夫人が片眉をあげながらため息交じりで言いました。
ララが苦虫をかみつぶした顔で言います。
「確信犯じゃない」
リリアナ夫人と私の間に座って食事をしていたジョアンがせっせと嫌いなニンジンを皿から取り出しています。
私はジョアンが出したニンジンをせっせと拾い集めながら言いました。
「今日三人でお留守番をしていた時に考えたのですが、明日からアランを観察してみようと思うのです」
「「「観察?」」」
「はい、アランが毎日どんな生活をしているかを観察して、ちょっとした変化にも気づけるようになろうと思うのです」
「でもそれはかなり辛い姿を見ることになるのではない?」
「ええ、覚悟の上です。ね?ジョアン」
「覚悟する」
「うん、ありがとうね。ジョアンもお応援してね」
「応援する」
私はにっこり笑いながらジョアンの頭を撫でました。
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