一言主神の愛し子

志波 連

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37 浄化

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 今日の予定を廻り終えた四人が葛城の社に戻ったのは、きれいな月がその存在感を見せつけ始める時刻だった。

「ご苦労じゃったなぁ。かず君や、どうだったかの?」

 おじいちゃんの声に、ハクからおむすびの乗った皿を受け取りながら一真が答えた。

「とても勉強になりました。微弱ではありましたが全ての社で物の怪の気配を感じました。あ奴らが悪しき神と手を組むとは思えませんので、この戦に乗じて何やらおこぼれをと企んでいるのかもしれません」

「おこぼれか。まあその程度であれば放置もするが、どうも此度は違うような気がする」

「お教示いただいても?」

「今から千年ほど前にも同じような気配があったのじゃ。言の葉に乗せる神力が浸透せず、世の中は悪い方へと動いてしもうての。立て直すのに二百年ほどかかったかのう」

「神力が弱まる? そんなことが」

「悪しき神たちの力が強大になったわけでは無く、こちらの力が弱まったと言えば分かり易いかの? よくよく調べてみれば物の怪の仕業じゃった」

「なるほど。物の怪の姫が出てきましたか」

 おじいちゃんと一真は顎に手を当てて、うんうんと頷いている。
 一真の前に味噌汁の椀を置きながら、ハナが聞いた。

「物の怪の姫って?」

 一真が優しい声で答える。

「物の怪の姫というのはね、現世で辛く悲しい思いをした若い女性の恨みが固まってできるものなんだ。その塊に同じような目に遭った女性の生霊が取り入ると、恨みの塊が物の怪になってしまうんだよ。何て言うかな……恨みという感情が意志を持つって言うかなぁ。厄介なのはたくさんの恨みがひとつの体の中に集約されているから、なにかひとつの恨みを晴らしてやっても消えないんだ」

「今日の子供たちは消えたよね?」

「あれは恨みとかそういう感情さえ持っていない状態だったからね。あの子たちの塊はどうして良いのかわからないまま彷徨っていたって感じだね。だから天に召されなさいという道筋を立ててやれば、喜んで昇っていった。あの塊の中心は生霊では無かったけれど、強い思いを持っていたよ。とても可愛そうな娘の心が見えた」

 ハナはその子供たちの苦しみを思い俯いた。
 おじいちゃんが言う。

「憐れなことじゃが、それも一生なのじゃよ。その子らに罪はないが、己の力ではどうしようもないことだったのじゃ」

「なんか理不尽だね」

「そうじゃな、理不尽じゃな」

「どうすればそんな子がいなくなるの?」

「ヒノモトが富むしかない。国が富めば民の暮らしは楽になる。楽になれば誰も子を捨てようとは思わんよ」

「国が富むってことは戦しかないの?」

「それは最も唾棄すべき方法じゃよ。ましてや他国に攻め入るなど愚の骨頂じゃ」

 おじいちゃんが苦々しい顔をして続ける。

「悪しき神たちは戦によって生まれてしまう憎しみや悲しみを糧として吸収するのじゃが、度を超すと弾けてしまうでなぁ。良い加減のところで抜いてやらんといかん」

「吸った悪意を抜いてあげるの?」

「そうじゃよ。悪しき神々が腹に溜めているものを浄化してやる。それで均衡を保つ」

 ハナは一真の顔を見た。
 一真がおじいちゃんに聞く。

「物の怪はどう関わってくるのでしょうか」

「うん、良い質問じゃな」

 おじいちゃんはニヤッと笑って一真を見た。
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