一人芝居

志波 連

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 小春がゆっくり目を開けると、たくさんの心配顔が並んでいました。
 
「小春! 目を覚ました!」

「高岡さん、大丈夫? 驚いたわ、いきなり倒れたから」

 よほど焦ったのか、市長の髪が乱れています。

「英子、市長さん、みんなも……」

 そこに会館備え付けのAEDを持った五辻先生が駆け込んできます。

「おお、高岡! 大丈夫か? 誰だ心臓が止まってるなんて言ったやつは! まあよかった。大丈夫なら、本当に良かった」

 市長が立ち上がってマイクを持ちました。

「皆さん、驚かせてしまって申し訳ありません。この素晴らしい踊り手にもう一度拍手をお願いいたします」

 盛大な拍手が場内に響く中、市長が続けます。

「先ほど顧問の五辻先生が仰いましたように、400年ほど前にこの地では悲しい惨劇が起こりました。農民の反乱と言われていたこの出来事は、神社に保存されていた資料により、クーデターであったことが判明しました。私は市長として正しい歴史を伝えていくと約束します。犠牲となられた方々を思い、全員で黙祷をささげましょう」

 その声に、来場者が全員立ち上がりました。

「黙祷」

 とてもたくさんの人がいるとは思えないほど静かになった会場内に荘厳な空気が流れます。
 周りから邪気が消えさっていきます。
 小春もずっと抱えていた迷いのようなものが、きれいに消えていくような感じがしました。

 そして始業式の日。
 町内会長の家から中学へ向かう小春は大きなあくびをしました。

「今日からまた学校かぁ……まあこれで、奥さんやお師匠さんから逃げられるね」

 どうやら小春は七緒に仕込まれた舞をすっかり忘れてしまったようです。
 ふと見上げると、秋葉神社の本殿に朝日が当たり、黄金色に輝いていました。
 その輝きは懐かしいような、悲しいような……
 小春は、神社に向かってペコっと頭を下げて駆け出していきました。


 その昔、そこには確かにお転婆な姫がいる美しい城があったのです。



 おしまい





 最後までありがとうございました。
 
 志波 連
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