19 / 20
18
しおりを挟む この地には巨大な国家がいくつかあり、そしてその周囲に小国が散らばっている。
人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。
この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。
海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。
ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
この国が自らそう名乗るようになったのは、これより一世紀は前の事だった——。
♢ ♢ ♢
この世界には神の氣が満ち、それは生命の活力ともなると共に、濃すぎるその氣は命あるものにとって毒にもなる。
エーテルと呼ばれるそんな神の氣は、真那と呼ばれる清浄な氣と、そしてその状態が変った魔と呼ばれるものに分けられる。
水と氷のように、ただその状態が変わっただけで同じ神の氣であるに違いはないのだけれど、生憎と生命にとってその性質は正反対に作用してしまう。
水が命を育むように、真那は生命の活力となり。
氷が死を呼ぶように、魔は生命を蝕んだ。
元々、この世界を構成するブレーンの表面に存在するには神の氣は真那の状態である場合が多く。
ブレーンの内側には魔が多かった。
そのため、生命はそのブレーンの表面に多く生まれ、繁殖していったのだった。
真那の泡、プランクブレーンはいつしか命の源大霊を産み。
そしてその大霊から魂が産まれ、生命に宿り『意志』が目覚め。
『意志』すなわちその神のかけらは『人』と呼ばれるものとなる。
神は自らの分身でもあるその人の誕生を祝福し、彼らに加護を与えた。
しかしそれは、神による人の魂に対する、人がその全ての権能を解放し神と同等となることが無いようにする為の枷でもあった。
そうしてその能力に対して枷が嵌められた『人』は、命の終わりにまた大霊に還る。
多くの命はそうしてその円環の輪の中で、永く時を紡いできたのだった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」
亜麻色の髪の聖女フランソワは、そろそろお昼の食事の時間だなぁとのんびりしている所で、自室を訪れた王室聖女庁長官を務める王太子、シャルル・ド・アルメルセデスにいきなりそう告げられた。
一瞬あっけにとられる彼女。
それでもすぐに気をとりなおす。
「はう。何かございましたでしょうか?」
そう首を傾げる彼女。
それでなくとも冷たい目をしていたシャルル王太子、いっそう冷えた視線を聖女に向けた。
「お前のそういう所が私はずっと気に入らなかったのだ。聖魔法も碌に使えない半人前のくせに。お前のような者を聖女として迎えた事自体が誤りだったのだ!」
そう怒鳴り。
「まあいい。真の聖女が見つかった今となってはお前はもう用済みだ。荷物を纏めてとっとと実家に帰るといい!」
と続けた後、背をむけ部屋を出ていった。
♢ ♢ ♢
人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。
この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。
海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。
ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
この国が自らそう名乗るようになったのは、これより一世紀は前の事だった——。
♢ ♢ ♢
この世界には神の氣が満ち、それは生命の活力ともなると共に、濃すぎるその氣は命あるものにとって毒にもなる。
エーテルと呼ばれるそんな神の氣は、真那と呼ばれる清浄な氣と、そしてその状態が変った魔と呼ばれるものに分けられる。
水と氷のように、ただその状態が変わっただけで同じ神の氣であるに違いはないのだけれど、生憎と生命にとってその性質は正反対に作用してしまう。
水が命を育むように、真那は生命の活力となり。
氷が死を呼ぶように、魔は生命を蝕んだ。
元々、この世界を構成するブレーンの表面に存在するには神の氣は真那の状態である場合が多く。
ブレーンの内側には魔が多かった。
そのため、生命はそのブレーンの表面に多く生まれ、繁殖していったのだった。
真那の泡、プランクブレーンはいつしか命の源大霊を産み。
そしてその大霊から魂が産まれ、生命に宿り『意志』が目覚め。
『意志』すなわちその神のかけらは『人』と呼ばれるものとなる。
神は自らの分身でもあるその人の誕生を祝福し、彼らに加護を与えた。
しかしそれは、神による人の魂に対する、人がその全ての権能を解放し神と同等となることが無いようにする為の枷でもあった。
そうしてその能力に対して枷が嵌められた『人』は、命の終わりにまた大霊に還る。
多くの命はそうしてその円環の輪の中で、永く時を紡いできたのだった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」
亜麻色の髪の聖女フランソワは、そろそろお昼の食事の時間だなぁとのんびりしている所で、自室を訪れた王室聖女庁長官を務める王太子、シャルル・ド・アルメルセデスにいきなりそう告げられた。
一瞬あっけにとられる彼女。
それでもすぐに気をとりなおす。
「はう。何かございましたでしょうか?」
そう首を傾げる彼女。
それでなくとも冷たい目をしていたシャルル王太子、いっそう冷えた視線を聖女に向けた。
「お前のそういう所が私はずっと気に入らなかったのだ。聖魔法も碌に使えない半人前のくせに。お前のような者を聖女として迎えた事自体が誤りだったのだ!」
そう怒鳴り。
「まあいい。真の聖女が見つかった今となってはお前はもう用済みだ。荷物を纏めてとっとと実家に帰るといい!」
と続けた後、背をむけ部屋を出ていった。
♢ ♢ ♢
4
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
ママのごはんはたべたくない
もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん
たべたくないきもちを
ほんに してみました。
ちょっと、おもしろエピソード
よんでみてください。
これをよんだら おやこで
ハッピーに なれるかも?
約3600文字あります。
ゆっくり読んで大体20分以内で
読み終えると思います。
寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。
表紙作画:ぽん太郎 様
2023.3.7更新
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
みかんに殺された獣
あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。
その森には1匹の獣と1つの果物。
異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。
そんな2人の切なく悲しいお話。
全10話です。
1話1話の文字数少なめ。
わたしの婚約者は学園の王子さま!
久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。
氷の魔女と春を告げる者
深見アキ
児童書・童話
氷の魔女と呼ばれるネージュは、少女のような外見で千年の時を生きている。凍った領地に閉じこもっている彼女の元に一人の旅人が迷いこみ、居候として短い間、時を共にするが……。
※小説家になろうにも載せてます。
※表紙素材お借りしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる