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「市長! よろしいのですか? 私の方で対応しますよ?」
「ええ、構わないわ」
そのやり取りに驚く小春。
「し、市長? おばさんが?」
「初めまして。市長の早島璃子と申します。市民の方がわからないようでは私もまだまだですね。どうぞこちらでお話しを伺いましょう」
「は、はい(市長って女だったっけ・・・・・・)」
ゴリ押ししたことなど忘れ、どぎまぎしながら後をついていく小春。
『気圧されるでない! お前には吾がついておるぞ』
七緒の声に励まされた小春は、ソファーに座るなり話し始めました。
「さっきは失礼な事を言ってごめんさい。こうなったら全部話しちゃいますが、信じてもらえますでしょうか」
市長が苦笑いを浮かべます。
「それは話を聞いてみないとわからないわね。まずは話してみてくれる?」
小春は今までのことを全て話しました。
七緒が入ってきたことも全て、包み隠さず曝け出します。
市長はずっと黙って聞いていました。
「その七緒さんは今もあなたの中にいるの?」
「はい、います。私の中で語り掛けています。市長の許可を待っています」
「そうですか……わかりました。あなたの話を信じましょう。30分の延長を認めます。教育委員会の方には、私から話しておきます」
小春が目を見開きました。
「あっ……ありがとうございます!」
ひとつ頷いてから市長が口を開きました。
「ただし条件があります。発表会には私も参加します。そしてあなたの舞の後、私も一緒に黙祷させてください。市の代表者として、過去の悲しい出来事で犠牲になった方々に哀悼の意を表したいのです」
「もちろんです! 市長といえばこの地域のお殿様ですよね? お殿様自ら祈って下さるのなら、きっと犠牲となった方達も喜んでくれますね。そうかぁ今の時代は女性でも城主になれるんだぁ……すごいよね、七緒」
何度も頭を下げて礼を言う小春を見送りながら、市長が呟きました。
「お殿様かぁ。面白い子ねぇ」
ニヤニヤする市長に秘書が言いました。
「市長、あのような荒唐無稽な話、信じられたのですか?」
「問題はそんなことではないでしょ? あの子の眼を見ましたか? まっすぐに自分の信じたことを貫く覚悟をもった眼だったわ。あんな眼をした若者を妨げるような大人がこの国を疲弊させていくのです。私も元は教員。しかし久しぶりにあんな眼をした子をみたわね。ああいう子が増えてくれるようにますます頑張らなくちゃ」
庁舎を出ても興奮冷めやらぬ小春に七緒が話しかけます。
『小春、見事じゃ。お前のその行動力……我が家臣に迎えたいほどじゃな』
小春が照れたように言いました。
『私は七緒の気持ちを伝えただけだよ。七緒の思いがそれだけ強かったって事だね』
『何か礼をせねばならんのぅ』
『え? 何かくれるの? 昔の大判小判とか? ハハハ!』
屈託なく笑う小春に七緒は言いました。
『ことが成れば、きっと吾は成仏できるであろう。その時には必ずやお前に礼をしようそ』
『成仏? ああ……そうだよね。七緒はずっと独りぼっちだったもんね』
『独りぼっちとな? いや、吾にはお前がおったぞ? お前の中は実に心地よい』
『じゃあずっといて良いよ。私も独りぼっちだから』
その声には答えない七緒。
小春は頑張った自分が誇らしく、七緒が黙ったことに気付いてはいませんでした。
「ええ、構わないわ」
そのやり取りに驚く小春。
「し、市長? おばさんが?」
「初めまして。市長の早島璃子と申します。市民の方がわからないようでは私もまだまだですね。どうぞこちらでお話しを伺いましょう」
「は、はい(市長って女だったっけ・・・・・・)」
ゴリ押ししたことなど忘れ、どぎまぎしながら後をついていく小春。
『気圧されるでない! お前には吾がついておるぞ』
七緒の声に励まされた小春は、ソファーに座るなり話し始めました。
「さっきは失礼な事を言ってごめんさい。こうなったら全部話しちゃいますが、信じてもらえますでしょうか」
市長が苦笑いを浮かべます。
「それは話を聞いてみないとわからないわね。まずは話してみてくれる?」
小春は今までのことを全て話しました。
七緒が入ってきたことも全て、包み隠さず曝け出します。
市長はずっと黙って聞いていました。
「その七緒さんは今もあなたの中にいるの?」
「はい、います。私の中で語り掛けています。市長の許可を待っています」
「そうですか……わかりました。あなたの話を信じましょう。30分の延長を認めます。教育委員会の方には、私から話しておきます」
小春が目を見開きました。
「あっ……ありがとうございます!」
ひとつ頷いてから市長が口を開きました。
「ただし条件があります。発表会には私も参加します。そしてあなたの舞の後、私も一緒に黙祷させてください。市の代表者として、過去の悲しい出来事で犠牲になった方々に哀悼の意を表したいのです」
「もちろんです! 市長といえばこの地域のお殿様ですよね? お殿様自ら祈って下さるのなら、きっと犠牲となった方達も喜んでくれますね。そうかぁ今の時代は女性でも城主になれるんだぁ……すごいよね、七緒」
何度も頭を下げて礼を言う小春を見送りながら、市長が呟きました。
「お殿様かぁ。面白い子ねぇ」
ニヤニヤする市長に秘書が言いました。
「市長、あのような荒唐無稽な話、信じられたのですか?」
「問題はそんなことではないでしょ? あの子の眼を見ましたか? まっすぐに自分の信じたことを貫く覚悟をもった眼だったわ。あんな眼をした若者を妨げるような大人がこの国を疲弊させていくのです。私も元は教員。しかし久しぶりにあんな眼をした子をみたわね。ああいう子が増えてくれるようにますます頑張らなくちゃ」
庁舎を出ても興奮冷めやらぬ小春に七緒が話しかけます。
『小春、見事じゃ。お前のその行動力……我が家臣に迎えたいほどじゃな』
小春が照れたように言いました。
『私は七緒の気持ちを伝えただけだよ。七緒の思いがそれだけ強かったって事だね』
『何か礼をせねばならんのぅ』
『え? 何かくれるの? 昔の大判小判とか? ハハハ!』
屈託なく笑う小春に七緒は言いました。
『ことが成れば、きっと吾は成仏できるであろう。その時には必ずやお前に礼をしようそ』
『成仏? ああ……そうだよね。七緒はずっと独りぼっちだったもんね』
『独りぼっちとな? いや、吾にはお前がおったぞ? お前の中は実に心地よい』
『じゃあずっといて良いよ。私も独りぼっちだから』
その声には答えない七緒。
小春は頑張った自分が誇らしく、七緒が黙ったことに気付いてはいませんでした。
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