16 / 20
15
しおりを挟む
「高岡ってあんなに慌て者だったか? 市長に言ったって、何のことやらって言われるのが落ちだぞ。そもそも会えるわけないだろうに」
「でも先生、黙祷だけでも必ずやりましょうね。3分くらいなら延長できるんでしょう?」
五辻先生が頷きます。
「ああ、そうだな。高岡の演劇の話は別にしても、この地に昔何があったかを知らせることは悪いことではない」
英子がパンパンと手を叩きながら声を出しました。
「さあ! 私たちにも時間はないよ。稽古に戻ろう!」
部員たちが再び稽古に集中し始めたころ、蒲郡市役所に飛び込んだ小春は、受付の職員と言い合っていました。
「どうして? 市民の声を聴くのが市長でしょ?」
「ですから、4階の広聴課でお話をお伺いいたしますので、そちらに話してください」
「こうちょうかって、校長先生じゃなくて市長だって言ってるじゃない」
「いやだから『校長か?』じゃなくて『広聴課』ですってば」
職員とのやり取りを聞いていた七緒が小春に言いました。
『なあ小春。市長というのは城主のことじゃな? だとするなら、民の陳情はそれを担当する家臣がまずは聞くものじゃ。それが道理というものじゃぞ?』
『家臣? そうなの? まあ、そうかも……』
七緒の言葉に納得した小春は受付職員に言います。
「すみません。その『こうちょう』とかが市長の家臣なんですね? 4階ですね?」
唖然とする職員に一礼し、小春はエレベーターに向かって駆け出しました。
「えっと……市長の家臣の方をお願いします」
怪訝な顔で対応する秘書広聴課の職員に、事情を話す小春。
黙って聞いていた職員が困ったように言いました。
「なるほど。演劇発表会の時間を延長して欲しいという事ですね? それでしたら発表会の開催については教育委員会が担当しております。そちらに話していただけますか?」
「わかんない人だなぁ。市長に会わせてって言ってるの。偉い人に言わないと意味ないの。そうやって市民を盥回しにするから役所はダメなんだって八百屋のおばさんが言ってたよ?」
「そう言われましても……」
その時小春の背後から声がかかりました。
「どうしました?」
職員が驚いた顔で姿勢を正します。
「お帰りなさいませ」
小春が振り向いた先には、凛とした中年女性が立っています。
「あ、おばさん。もしかしてこの人の上司かなんかですか? 私、市長さんに大事な話があるんです。会わせてもらえませんか?」
「いいですよ? ちょうど今なら時間がありますから」
「やったぁ! さすがおばさん! やっと話がわかる人に会えたよ」
職員が驚いた顔で声を出しました。
「でも先生、黙祷だけでも必ずやりましょうね。3分くらいなら延長できるんでしょう?」
五辻先生が頷きます。
「ああ、そうだな。高岡の演劇の話は別にしても、この地に昔何があったかを知らせることは悪いことではない」
英子がパンパンと手を叩きながら声を出しました。
「さあ! 私たちにも時間はないよ。稽古に戻ろう!」
部員たちが再び稽古に集中し始めたころ、蒲郡市役所に飛び込んだ小春は、受付の職員と言い合っていました。
「どうして? 市民の声を聴くのが市長でしょ?」
「ですから、4階の広聴課でお話をお伺いいたしますので、そちらに話してください」
「こうちょうかって、校長先生じゃなくて市長だって言ってるじゃない」
「いやだから『校長か?』じゃなくて『広聴課』ですってば」
職員とのやり取りを聞いていた七緒が小春に言いました。
『なあ小春。市長というのは城主のことじゃな? だとするなら、民の陳情はそれを担当する家臣がまずは聞くものじゃ。それが道理というものじゃぞ?』
『家臣? そうなの? まあ、そうかも……』
七緒の言葉に納得した小春は受付職員に言います。
「すみません。その『こうちょう』とかが市長の家臣なんですね? 4階ですね?」
唖然とする職員に一礼し、小春はエレベーターに向かって駆け出しました。
「えっと……市長の家臣の方をお願いします」
怪訝な顔で対応する秘書広聴課の職員に、事情を話す小春。
黙って聞いていた職員が困ったように言いました。
「なるほど。演劇発表会の時間を延長して欲しいという事ですね? それでしたら発表会の開催については教育委員会が担当しております。そちらに話していただけますか?」
「わかんない人だなぁ。市長に会わせてって言ってるの。偉い人に言わないと意味ないの。そうやって市民を盥回しにするから役所はダメなんだって八百屋のおばさんが言ってたよ?」
「そう言われましても……」
その時小春の背後から声がかかりました。
「どうしました?」
職員が驚いた顔で姿勢を正します。
「お帰りなさいませ」
小春が振り向いた先には、凛とした中年女性が立っています。
「あ、おばさん。もしかしてこの人の上司かなんかですか? 私、市長さんに大事な話があるんです。会わせてもらえませんか?」
「いいですよ? ちょうど今なら時間がありますから」
「やったぁ! さすがおばさん! やっと話がわかる人に会えたよ」
職員が驚いた顔で声を出しました。
3
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
老犬ジョンと子猫のルナ
菊池まりな
児童書・童話
小さな町の片隅で、野良猫が子猫を生み、暖かく、安全な場所へと移動を繰り返しているうちに、一匹の子猫がはぐれてしまう。疲れきって倒れていたところを少年が助けてくれた。その家には老犬のジョンがいた。
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
ベンとテラの大冒険
田尾風香
児童書・童話
むかしむかしあるところに、ベンという兄と、テラという妹がいました。ある日二人は、過去に失われた魔法の力を求めて、森の中に入ってしまいます。しかし、森の中で迷子になってしまい、テラが怪我をしてしまいました。そんな二人の前に現れたのは、緑色の体をした、不思議な女性。リンと名乗る精霊でした。全九話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる