聡明な彼女と透明なボクの交換日記

志波 連

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12月22日日曜日【はるかの続き】

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 11月15日金曜日

 日課のように百葉箱を覗いている私です。
 今日もありませんでした。
 きっと明日も無いのでしょう。
 ここまでディアファンさんに依存している自分に驚いています。

 今日から厚手のコートに替えました。
 もっと早くに替えたかったのですが、もう少しもう少しと思っている間に今日になってしまったのです。
 今年の冬は比較的過ごしやすいと思うのですが、透明なあなたにとってはどうなのでしょう。

 といっても、まだ日本にはいないのでしょうからわかりませんよね。
 小学校は順調です。
 なんでも話し合うという風潮も少しずつですが定着してきているのだと思います。

 でも率先してやっているのは私たち若手だけなのですよね……
 長年培ってきたやり方というものは、なかなか変えられないものなのでしょう。

 それはそうと、時々登校してくれるアランシオン君にお友達ができたのです。
 もしかしたらもう聞いて知っているのかしら。
 私は井上先生から聞いて、嬉しくて仕方がなかったです。

 その子は耳が少し聞こえにくく、常に最前列に座っている子なのですが、親の意向で普通クラスに通っているのです。
 私も何度か授業をしたことがあるのですが、一言も聞き漏らすまいという気迫が滲み出ていて、授業をするこちらも、身が引き締まる思いがするような児童なのですよ。

 最前列ということはアランシオン君の隣に座っているということなのですが、今までの彼は教師の口元を凝視しているので、まわりの雰囲気とかに疎かったのだと思います。
 ここからは井上先生の話です。

 ある日、珍しく登校すると連絡があったアランシオン君は、みんなより少し遅れて登校したそうです。
 ドアがガラッと開き、大きな声で『遅れてすみません』という声が響いた瞬間、クラスの雰囲気が変わったのだそうです。

 そう変わったのか。
 良い意味で緊張感が走ったと表現しておられましたから、空気が引き締まったという感じでしょうか。

 椅子が引かれ、ドサッという音がしたので、きっと着席したのだろうと思った井上先生が、アランシオン君に聞きました。

「遅刻の理由は?」

「途中で犬に吠えられちゃって、大迂回するはめになったのです」

「犬?」

「ええ、犬ってなぜかしら僕たち透明な人間を察知するんですよね。そして威嚇してくるんです。怖いから逃げる一択なのですが、今日のその犬はどこにも繋がれておらず、躊躇なく走り寄ってきたので、姉と一緒に反対方向に走って逃げました」

「ケガは無かったの?」

「ええ、途中でコンビニに飛び込んでやり過ごしたのですが、まだいる可能性もあるから大迂回しました」

「そうか。大変だったね、ケガが無かったのなら良かったよ」

 井上井先生が言うには、どこを見て話してよいのか分からないから戸惑うのだと思ったので『きっとこの辺りに顔があるはず』というイメージで話すと、上手く会話ができたとの事でした。

 これが正解かどうかはわかりませんが、私たちにとっては大発見ですし、大きな前進です。
 で、友達の件ですが、授業を再開しようとしたときに、隣に座っている大木君に「どこまで進んだの?」って聞いたのですって。
 話しかけられることが少ない大木君は、かなり戸惑ったようですがなんとか返事をしました。

「ああ、かなり進んだね。君の声はとても聞き取りやすいよ。もう少し落ち着いてゆっくり話してくれるとなお良いんだけれどね。僕のために少し努力をしてくれると嬉しいな」

「う、うん、わかった」

「いいねぇ、今のスピードで完璧だ」

 アランシオン君がそう言うと、大木君はとても嬉しそうに笑ったのだそうです。
 もちろんアランシオン君は毎日と登校するわけではありませんから、ずっと話すような仲ではないですが、彼が来ると大木君がとても嬉しそうにするのだそうです。

 何も知らない人が見ると、大木君が空中に向かって大きな声で独り言を言っているようにしか見えないでしょうけれど、彼らは確かに会話をしていると井上先生も嬉しそうでした。
 互いが理解し合うための譲歩を繰り返すことで、本当に公平な社会というものができるのかもしれませんね。

 今日はちょっと長くなっちゃいました。


::::::::::


 11月25日月曜日

 今日は不思議なことがありました。
 いつものように百葉箱のところに立ち寄った時、誰もいないはずの場所から声が聞こえたのです。

 ほら、あの百葉箱のすぐ後ろに桜の木があるでしょう?
 その幹の辺りから声がするんです。

「ディアファンは帰ってこないよ」

 すごく嫌な気分になりました。
 あなたと同じ透明な人の悪戯かもしれないけれど、質が悪すぎます。
 だから私は一言だけ言ってすぐに立ち去りました。

「絶対帰ってきますよ」

 そう言ってやりました。
 間違いないですよね?
 それともお仕事が大変で、長引くのでしょうか。

 不安な気持ちは児童たちに伝染します。
 早く切り替えなくちゃ。

 私はずっと待っていますからね。
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