34 / 46
34 罠
しおりを挟む
昨夜の打ち合わせ通り、朝一番でクレマンに連絡をとった。
お昼過ぎにやってきた彼は、二人から話を聞き何度も頷きながら口を開く。
「要するにグルー商会の娘とサムという男性を離婚させたいわけですね?」
「そういうことです。ただし後腐れの無いようにしないといけないわ」
「商会をつぶすのは簡単ですが、従業員たちもいますからね。できればその我儘な娘だけがいなくなるというのがベストです。それには少々細工が要りますね」
「ええ。銀行の方から攻めていこうかと思うの。どうかしら」
「グッドチョイスです。この件に関しましてはサミュエル様にも報告をしておきましょう。期限はありますか?」
「早い方が良いけれど、それより重要なのは二度と関わってこないようにすることだわ」
「なるほど、そちらを優先ですね。了解しました。明日また伺います」
そう言うとクレマンはにこやかに去って行った。
「では私たちもできるところからやりましょうか」
ティアナとララは立ち上がり店を出た。
並んで歩きながら、ティアナがララに話しかける。
「ララはもう雑貨屋さんの購入手続きはしたの?」
「したわ。ぜんぜん値切ってないのに安くしてくれるから恐縮しちゃった」
「改装も必要よね」
「エクス元侯爵の特殊趣味は絶対に親族には内緒だったから、亡くなる前に全てのドレスを処分する必要があったのよ。それで同じ趣味仲間に売りさばいて、アクセサリー類はその時の妻が所有していたということにしたの。だからそちらはあなたの貸金庫に入れてある」
「私の? 貴方のものにすればいいじゃない」
「私はドレス代だけで十分よ。仲間にした執事にも口止め料として少し渡したけれど、大半は手元にあるわ。遺産分与をって言われたけれど、さすがに申し訳ないかなって思ったから固辞したの。逆に感謝してくれたわよ」
「そうね、なんだか悪いような気もするけれど」
「別に良いんじゃない?」
話している金額がひとつの商会を揺るがすほどのものであることを除けば、年頃の娘が楽しそうに会話をしているようにしか見えない。
「ああ、ここみたいよ」
二人はグルー商会のショウルームに到着した。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
ララが口を開く。
「ええ、プレゼントを探しに来たの。友人に聞いてきたのだけれど、サムという方を呼んでいただける?」
店員が怪訝な顔で二人を見る。
「ねえ、あなた。聞いているの?」
店員が鼻で嗤うような話し方をした。
「ああ、聞いていますよ。申し訳ありませんが、若旦那さんは今席を空けています。どういったご用件かは存じませんが、どうせ昔のお知り合いか何かなのでしょう? あの頃のお知り合いの方達とのご交流は若奥様をお通ししなくてはいけにことになっておりますので」
「そうなの。あの頃って? ああ、その若奥さんと結婚する前ってこと? それなら問題ないわ。私たちはサムっていう方と会ったことも無いのだから。友人の紹介だと言ったでしょう? 良いから早く呼んできなさいな。後悔することになるわよ?」
「何を偉そうに。あなた達の服装を見れば、どのくらいの身分なのかわかりますよ。お引き取り下さい」
「あら、困りましたね。どうします? お嬢様」
ティアナが頬に手を当てる。
「本当に困りましたね。でももうすぐ友人たちが来るはずでしょう? 少し待たせてもらいましょうか?」
店員が眉間に皺を寄せて大きな声を出した。
「何が友人だ! お前たちのような平民風情がグルー商会で買い物をするなど烏滸がましいんだよ! とっとと帰ってくれ!」
「それはサムさんのご意向? それとも……」
ララがそこまで言った時、店の扉が開いた。
「私の意向ではございません」
地味な色合いだが、仕立ての良いスーツを着た美丈夫が立っていた。
「あなたがサムさん?」
「はい、私がサムです。私に御用ですか?」
「ええ、そのつもりで来たのだけれど、この店員さんが……」
ララが店員を見る。
「この者が失礼を致しました」
サムが丁寧に頭を下げると、店員が横から口を挟んだ。
「あなたは黙っていてください。私は若奥さんからこの店を任されているんだ。偉そうな口をききやがって。この件は若奥様に報告するからな!」
「それはいい。必ず報告しなさい」
四人が振り返ると帝国銀行の頭取が立っていた。
お昼過ぎにやってきた彼は、二人から話を聞き何度も頷きながら口を開く。
「要するにグルー商会の娘とサムという男性を離婚させたいわけですね?」
「そういうことです。ただし後腐れの無いようにしないといけないわ」
「商会をつぶすのは簡単ですが、従業員たちもいますからね。できればその我儘な娘だけがいなくなるというのがベストです。それには少々細工が要りますね」
「ええ。銀行の方から攻めていこうかと思うの。どうかしら」
「グッドチョイスです。この件に関しましてはサミュエル様にも報告をしておきましょう。期限はありますか?」
「早い方が良いけれど、それより重要なのは二度と関わってこないようにすることだわ」
「なるほど、そちらを優先ですね。了解しました。明日また伺います」
そう言うとクレマンはにこやかに去って行った。
「では私たちもできるところからやりましょうか」
ティアナとララは立ち上がり店を出た。
並んで歩きながら、ティアナがララに話しかける。
「ララはもう雑貨屋さんの購入手続きはしたの?」
「したわ。ぜんぜん値切ってないのに安くしてくれるから恐縮しちゃった」
「改装も必要よね」
「エクス元侯爵の特殊趣味は絶対に親族には内緒だったから、亡くなる前に全てのドレスを処分する必要があったのよ。それで同じ趣味仲間に売りさばいて、アクセサリー類はその時の妻が所有していたということにしたの。だからそちらはあなたの貸金庫に入れてある」
「私の? 貴方のものにすればいいじゃない」
「私はドレス代だけで十分よ。仲間にした執事にも口止め料として少し渡したけれど、大半は手元にあるわ。遺産分与をって言われたけれど、さすがに申し訳ないかなって思ったから固辞したの。逆に感謝してくれたわよ」
「そうね、なんだか悪いような気もするけれど」
「別に良いんじゃない?」
話している金額がひとつの商会を揺るがすほどのものであることを除けば、年頃の娘が楽しそうに会話をしているようにしか見えない。
「ああ、ここみたいよ」
二人はグルー商会のショウルームに到着した。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
ララが口を開く。
「ええ、プレゼントを探しに来たの。友人に聞いてきたのだけれど、サムという方を呼んでいただける?」
店員が怪訝な顔で二人を見る。
「ねえ、あなた。聞いているの?」
店員が鼻で嗤うような話し方をした。
「ああ、聞いていますよ。申し訳ありませんが、若旦那さんは今席を空けています。どういったご用件かは存じませんが、どうせ昔のお知り合いか何かなのでしょう? あの頃のお知り合いの方達とのご交流は若奥様をお通ししなくてはいけにことになっておりますので」
「そうなの。あの頃って? ああ、その若奥さんと結婚する前ってこと? それなら問題ないわ。私たちはサムっていう方と会ったことも無いのだから。友人の紹介だと言ったでしょう? 良いから早く呼んできなさいな。後悔することになるわよ?」
「何を偉そうに。あなた達の服装を見れば、どのくらいの身分なのかわかりますよ。お引き取り下さい」
「あら、困りましたね。どうします? お嬢様」
ティアナが頬に手を当てる。
「本当に困りましたね。でももうすぐ友人たちが来るはずでしょう? 少し待たせてもらいましょうか?」
店員が眉間に皺を寄せて大きな声を出した。
「何が友人だ! お前たちのような平民風情がグルー商会で買い物をするなど烏滸がましいんだよ! とっとと帰ってくれ!」
「それはサムさんのご意向? それとも……」
ララがそこまで言った時、店の扉が開いた。
「私の意向ではございません」
地味な色合いだが、仕立ての良いスーツを着た美丈夫が立っていた。
「あなたがサムさん?」
「はい、私がサムです。私に御用ですか?」
「ええ、そのつもりで来たのだけれど、この店員さんが……」
ララが店員を見る。
「この者が失礼を致しました」
サムが丁寧に頭を下げると、店員が横から口を挟んだ。
「あなたは黙っていてください。私は若奥さんからこの店を任されているんだ。偉そうな口をききやがって。この件は若奥様に報告するからな!」
「それはいい。必ず報告しなさい」
四人が振り返ると帝国銀行の頭取が立っていた。
16
お気に入りに追加
219
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
神の豆を育てる聖女は王子に豆ごと溺愛される
西根羽南
恋愛
豆原あずきは、豆の聖女として豆愛が深すぎる異世界に招かれた。
「開け豆」の言葉と共に強制睡眠の空豆のベッドや聖なる供物のあんこを呼び、日本に帰るために神の豆を育てる日々。
王子の優しさに淡い好意を抱くが、これは豆への愛なので勘違いしてはいけない。
「アズキの心の豆型の穴、俺に埋めさせてください」
「……これ、凄くいいこと言っているんだろうけど。何か緊張感がなくなるのよね。主に豆のせいで」
異世界で豆に愛される聖女になった女の子と、豆への愛がこじれて上手く伝えられない王子のラブコメ……豆コメディです。
※小説家になろうにも掲載しています。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる