告白はミートパイが焼けてから

志波 連

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28 怒涛の契約

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 その日以降、キースは休日を利用して空き部屋を探して歩いているようだった。
 ララやウィスと時間を合わせてランチを取りに来る日には、決まって見てきた部屋の話をする。

「そこはあまり良くないよ。壁が薄いんだって聞いたことがある」

「そこは家主が未亡人で、掃除をするとか言って合鍵を使って忍び込むって有名よ?」

「いざ住もうと思うとなかなか良い物件がないものだね」

「そんなものだよ。僕は店舗住居だったからすぐに見つかったけれど、本当ならもっと大通りに近い立地が良かったとは思っているんだ」

 ティアナが口を挟む。

「それならお向かいの雑貨屋さんが良いんじゃない? 来月いっぱいで閉めるって言ってたわ。ご主人が体調を崩されて田舎に戻るんですって」

「へぇ。それは良い話だな……でも家賃が高そうだ」

「売り物件って聞いてるわ」

「それならもっとダメじゃん」

 ララがニヤッと笑う。

「貸しましょうか?」

 ウィスが目を見開く。

「貸してくれるの? っていうか、ララってそんなお金を持ってるの?」

「そうよ。私って大金持ちなのよ」

 そう言ってフフフと不敵に笑うララ。
 どうやらウィスもキースも冗談だと思っているようだ。
 
「もし本当に貸してもらえるならありがたいけど……だったらさぁ、俺たち結婚しない?」

 さすがのララもこの言葉には驚いた。

「え? 結婚?」

「うん、本当はもっとちゃんとプロポーズしたかったんだけど。僕はずっとララと一緒にいたいと思っているんだ。ララが好きだよ。僕がこの手で守り、幸せにしたい」

 ララが固まっている。
 キースが横から声を出した。

「君たちはとても仲が良さそうだし、いずれはこうなる事だったのかもね。でもウィス、女性にはいろいろと都合もあるんだ。即答を求めるのは酷だよ」

 ウィスが眉を下げた。

「そうか……そうだよね。驚かせちゃったね。ゆっくり考えてくれたら良いよ。でもねララ、僕は本気だ。君がどれほどの金持ちなのかは知らないけれど、生活費は僕が稼ぐ。君のお金は君が好きなように使えばいい。あまり贅沢な暮らしはさせてあげられないとは思うけれど……僕は本気だから。もちろん借りたお金は必ず返す」

 ララが小さく頷いた。
 ティアナが今度は助け舟を出す。

「ゆっくり決めればいいわ。雑貨屋のご主人には私から話しておくわね。仮押さえってことで」

 キースが思いついたように言う。

「ウィスの今の家は借りてるのかい?」

「いや、購入したよ。それで持っていた金を全部吐き出しちゃった」

 ニヤッと笑うキース。

「だったら今の店は僕に貸してくれよ。家賃は言い値を払うからさ」

「でも一階は店舗だよ? 二階は住居だけれど、部屋は2つしかないし。良いところと言えば風呂とトイレが広いってことかな」

 ララが同意しながら言う。

「うん、無駄に広いよね。特にお風呂が」

 キースが笑いながら言った。

「それは何よりの条件だ。風呂が広くて寝室があれば十分だからね」

 ティアナが聞く。

「1階はどうするの? あそこは大通りから遠いといっても目立つ位置にあるでしょう? 倉庫にしちゃうと景観的に文句が出るんじゃない?」

「そうかぁ、まあそこはおいおい考えることにしてさ。どうかな? ウィス」

 ウィスが満面の笑顔で手を差し出した。

「決まりだな」

 キースとウィスが握手をした。
 ララが現実的な話をする。

「家賃はどうするの?」

 ウィスが軽い口調で返事をした。

「隣の文具屋さんが賃貸だから、相場を聞いてみるよ。それでどう?」

「もちろんそれで結構だ」

 住む場所が決まったことで、その後も四人での話が盛り上がる。
 途中でウィスが雑貨屋の主人を連れてきて、購入金額の交渉を始めた。
 雑貨屋の主人はウィスが買い手なら嬉しいと言って、購入希望者から提示されている金額を明かしてくれた。

「だったらそれに10万上乗せするから、そちらは断って下さいよ」

 ララの強気な発言に、驚いたのは売主だ。

「いやいや、そんなに乗せてくれなくても同じ町内のウィスに決めるよ。大通り沿いに花屋があれば、この商店街も明るくなるだろう? 話が来ている方は何かの事務所みたいなことを言ってたからね、あまり気乗りはしなかったんだ」

「でもおじさん。この先おかみさんと一緒に田舎暮らしをするんでしょう?だったら少しでも多く持ってた方が良いわよ。だからさっき言った金額で決めましょう」

 ララがにこやかに言うと、キースも賛同した。

「そうですよ、ご主人。何でも彼女はお金持ちらしいから、遠慮なくそうされてはどうですか?」

 ウィスが真剣な顔で口を開いた。

「僕が買うなら1万でも安く買いたいところだけれど、ララの言うとおりだ。そこでそうだろう、ララが購入して僕が借りる。賃貸料はキースから払われるものをそのまま渡す。良いと思わない?」

「私はどちらでもいいわ。ウィスがそうしたいならそのようにしましょう。おじさんも良いかしら?」

 なんだかんだとたった1日で全部が丸く収まった。
 明日にでも現金一括で支払うというララに、目を回すほど驚いた雑貨屋の主人だったが、それなら明渡しを早めようということになる。
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