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21 前言撤回
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それからまた数か月。
思いもよらない顔がティアナの店を覗いた。
「ララ! ララじゃないの!」
ティアナは洗っていた鍋を放り出して駆け寄った。
「お久しぶりです。ティナリア様」
「終わったの?」
「ええ、あれから数回しか顔を合わせませんでしたが、旦那様は恙なく神の御許へ旅立ちましたよ。お陰でひと財産どころかふた財産もゲットできました」
「予定通りなのね? まさか……」
「そこは聞かぬが花ですよ」
ララが不穏な発言をしつつ、店の中を見回した。
「凄いじゃないですか。夢が叶ったのですね」
「うん、お陰様でね。サマンサ様やサミュエル様には本当にお世話になったわ」
「金持ちの道楽ですから気にすることは無いですよ。それにしても本当に一人でやっているんですねぇ。お客さんが少ないんですか?」
なんとも相変わらずなララである。
「お客様はそこそこ来てくださるわ。席数を抑えて一人でもできるようにしたのよ」
「でも忙しいでしょう? 人は雇わないのですか?」
「今のところその予定は無いの。気を遣うのも嫌だしね」
「気を遣わないなら良いのですか?」
「ん? どういう意味?」
「私を雇ってください」
「え?」
「毎日ぐうたらと遊んでいたから、急にメイドに戻るのはきついので。当分の間ここでリハビリさせて貰おうかなって思って。どうですか?」
ティアナはあんぐりと口を開けた。
「ご存じとは思いますが、私ってかなり使えますよ?」
「それは知ってるわよ。でもオース家に戻らなくていいの?」
「考え中です」
クスっと笑ってティアナは頷いた。
「部屋は空いてますか?」
「うん、空いてるよ。階段を上がって右側の部屋を使って」
「了解です。ああ、私にお給料は不要です」
「そんなわけにはいかないわよ」
「いえ、本当に。もう一生遊んで暮らせるくらい持ってますから。これも金持ちの道楽ってことで」
笑うしかないティアナ。
「では明日からよろしくお願いします」
ララはさっさと与えられた部屋に向かった。
「相変わらずだわ……」
ララは洗い物を再開した。
その夜、夕食を食べに来たウィスにララを紹介した。
「ウィス、この子はララというの。明日から手伝ってもらうことになって、今日からここに住むわ。古くからの知り合いで、私の唯一の友人よ。ララ、彼はウィスと言って同じ商店街でお花屋さんをやっているの」
二人は挨拶を交わし、夕食が始まった。
ウィスと二人だけでも十分楽しかったが、ララが混ざると話題も増える。
ララは平気で過去の武勇伝を語り、ウィスは感心しながら聞き入っていた。
「じゃあララちゃんはティアナより年上?」
「そうですよ。若く見えるように努力していますが、私は今年で25歳になります」
「え? じゃあ僕と同じ?」
「ウィスさんも25歳ですか。お肌の曲がり角ですね」
「お肌は……あまり気にしたことないけど」
「早めに手入れしないと、年取ってから苦労するそうですよ。ティアナさんも気をつけましょうね。私が使っているナイトクリームをひとつ分けてあげましょう」
「うん、ありがとう」
ララは満足そうに頷いた。
「ところでウィスさんとティアナさんは恋人なんですか?」
ティアナが慌てて首を振る。
「そんなんじゃないわ。それはウィスに失礼よ」
ウィスは否定も肯定もせず笑っていた。
夕食も終わり、帰っていくウィスを見送ったティアナ。
ララはさっさと風呂場に向かった。
初の定休日はララの生活用品購入に付き合う羽目になりそうだと考えながら、それもまた楽しい時間だと思ったティアナだった。
思いもよらない顔がティアナの店を覗いた。
「ララ! ララじゃないの!」
ティアナは洗っていた鍋を放り出して駆け寄った。
「お久しぶりです。ティナリア様」
「終わったの?」
「ええ、あれから数回しか顔を合わせませんでしたが、旦那様は恙なく神の御許へ旅立ちましたよ。お陰でひと財産どころかふた財産もゲットできました」
「予定通りなのね? まさか……」
「そこは聞かぬが花ですよ」
ララが不穏な発言をしつつ、店の中を見回した。
「凄いじゃないですか。夢が叶ったのですね」
「うん、お陰様でね。サマンサ様やサミュエル様には本当にお世話になったわ」
「金持ちの道楽ですから気にすることは無いですよ。それにしても本当に一人でやっているんですねぇ。お客さんが少ないんですか?」
なんとも相変わらずなララである。
「お客様はそこそこ来てくださるわ。席数を抑えて一人でもできるようにしたのよ」
「でも忙しいでしょう? 人は雇わないのですか?」
「今のところその予定は無いの。気を遣うのも嫌だしね」
「気を遣わないなら良いのですか?」
「ん? どういう意味?」
「私を雇ってください」
「え?」
「毎日ぐうたらと遊んでいたから、急にメイドに戻るのはきついので。当分の間ここでリハビリさせて貰おうかなって思って。どうですか?」
ティアナはあんぐりと口を開けた。
「ご存じとは思いますが、私ってかなり使えますよ?」
「それは知ってるわよ。でもオース家に戻らなくていいの?」
「考え中です」
クスっと笑ってティアナは頷いた。
「部屋は空いてますか?」
「うん、空いてるよ。階段を上がって右側の部屋を使って」
「了解です。ああ、私にお給料は不要です」
「そんなわけにはいかないわよ」
「いえ、本当に。もう一生遊んで暮らせるくらい持ってますから。これも金持ちの道楽ってことで」
笑うしかないティアナ。
「では明日からよろしくお願いします」
ララはさっさと与えられた部屋に向かった。
「相変わらずだわ……」
ララは洗い物を再開した。
その夜、夕食を食べに来たウィスにララを紹介した。
「ウィス、この子はララというの。明日から手伝ってもらうことになって、今日からここに住むわ。古くからの知り合いで、私の唯一の友人よ。ララ、彼はウィスと言って同じ商店街でお花屋さんをやっているの」
二人は挨拶を交わし、夕食が始まった。
ウィスと二人だけでも十分楽しかったが、ララが混ざると話題も増える。
ララは平気で過去の武勇伝を語り、ウィスは感心しながら聞き入っていた。
「じゃあララちゃんはティアナより年上?」
「そうですよ。若く見えるように努力していますが、私は今年で25歳になります」
「え? じゃあ僕と同じ?」
「ウィスさんも25歳ですか。お肌の曲がり角ですね」
「お肌は……あまり気にしたことないけど」
「早めに手入れしないと、年取ってから苦労するそうですよ。ティアナさんも気をつけましょうね。私が使っているナイトクリームをひとつ分けてあげましょう」
「うん、ありがとう」
ララは満足そうに頷いた。
「ところでウィスさんとティアナさんは恋人なんですか?」
ティアナが慌てて首を振る。
「そんなんじゃないわ。それはウィスに失礼よ」
ウィスは否定も肯定もせず笑っていた。
夕食も終わり、帰っていくウィスを見送ったティアナ。
ララはさっさと風呂場に向かった。
初の定休日はララの生活用品購入に付き合う羽目になりそうだと考えながら、それもまた楽しい時間だと思ったティアナだった。
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