告白はミートパイが焼けてから

志波 連

文字の大きさ
上 下
21 / 46

21 前言撤回

しおりを挟む
 それからまた数か月。
 思いもよらない顔がティアナの店を覗いた。

「ララ! ララじゃないの!」

 ティアナは洗っていた鍋を放り出して駆け寄った。

「お久しぶりです。ティナリア様」

「終わったの?」

「ええ、あれから数回しか顔を合わせませんでしたが、旦那様は恙なく神の御許へ旅立ちましたよ。お陰でひと財産どころかふた財産もゲットできました」

「予定通りなのね? まさか……」

「そこは聞かぬが花ですよ」

 ララが不穏な発言をしつつ、店の中を見回した。

「凄いじゃないですか。夢が叶ったのですね」

「うん、お陰様でね。サマンサ様やサミュエル様には本当にお世話になったわ」

「金持ちの道楽ですから気にすることは無いですよ。それにしても本当に一人でやっているんですねぇ。お客さんが少ないんですか?」

 なんとも相変わらずなララである。

「お客様はそこそこ来てくださるわ。席数を抑えて一人でもできるようにしたのよ」

「でも忙しいでしょう? 人は雇わないのですか?」

「今のところその予定は無いの。気を遣うのも嫌だしね」

「気を遣わないなら良いのですか?」

「ん? どういう意味?」

「私を雇ってください」

「え?」

「毎日ぐうたらと遊んでいたから、急にメイドに戻るのはきついので。当分の間ここでリハビリさせて貰おうかなって思って。どうですか?」

 ティアナはあんぐりと口を開けた。

「ご存じとは思いますが、私ってかなり使えますよ?」

「それは知ってるわよ。でもオース家に戻らなくていいの?」

「考え中です」

 クスっと笑ってティアナは頷いた。

「部屋は空いてますか?」

「うん、空いてるよ。階段を上がって右側の部屋を使って」

「了解です。ああ、私にお給料は不要です」

「そんなわけにはいかないわよ」

「いえ、本当に。もう一生遊んで暮らせるくらい持ってますから。これも金持ちの道楽ってことで」

 笑うしかないティアナ。

「では明日からよろしくお願いします」

 ララはさっさと与えられた部屋に向かった。

「相変わらずだわ……」

 ララは洗い物を再開した。
 その夜、夕食を食べに来たウィスにララを紹介した。

「ウィス、この子はララというの。明日から手伝ってもらうことになって、今日からここに住むわ。古くからの知り合いで、私の唯一の友人よ。ララ、彼はウィスと言って同じ商店街でお花屋さんをやっているの」

 二人は挨拶を交わし、夕食が始まった。
 ウィスと二人だけでも十分楽しかったが、ララが混ざると話題も増える。
 ララは平気で過去の武勇伝を語り、ウィスは感心しながら聞き入っていた。

「じゃあララちゃんはティアナより年上?」

「そうですよ。若く見えるように努力していますが、私は今年で25歳になります」

「え? じゃあ僕と同じ?」

「ウィスさんも25歳ですか。お肌の曲がり角ですね」

「お肌は……あまり気にしたことないけど」

「早めに手入れしないと、年取ってから苦労するそうですよ。ティアナさんも気をつけましょうね。私が使っているナイトクリームをひとつ分けてあげましょう」

「うん、ありがとう」

 ララは満足そうに頷いた。

「ところでウィスさんとティアナさんは恋人なんですか?」

 ティアナが慌てて首を振る。

「そんなんじゃないわ。それはウィスに失礼よ」

 ウィスは否定も肯定もせず笑っていた。
 夕食も終わり、帰っていくウィスを見送ったティアナ。
 ララはさっさと風呂場に向かった。

 初の定休日はララの生活用品購入に付き合う羽目になりそうだと考えながら、それもまた楽しい時間だと思ったティアナだった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 3

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨ 恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

ごろごろみかん。
恋愛
旦那様は、私の言葉を全て【女の嫉妬】と片付けてしまう。 正当な指摘も、注意も、全て無視されてしまうのだ。 忍耐の限界を試されていた伯爵夫人ルナマリアは、夫であるジェラルドに提案する。 ──悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...