告白はミートパイが焼けてから

志波 連

文字の大きさ
上 下
18 / 46

18 助っ人登場

しおりを挟む
「おはよう!」

 今日も元気なルイザさんがお店に入ってきた。

「おはようございます。今日も早いですね」

「うん、あなたにお客さんよ」

 ティアナが顔をあげると、どこかでお会いした覚えのある紳士がニコニコしていた。

「あの……どこかでお会いしましたよね?」

「はい、先日サミュエル様に同道しておりました、オース家の執事でクレマンと申します」

「ああ、サミュエル様の。それで? 今日はどのような?」

「サミュエル様より『商売は立ち上げる時が一番難しいから、手伝って来い』と申しつけられまして」

「まあ! そんなご迷惑をお掛けするわけには参りませんが……実はわからないことだらけで、自分の常識の無さに落ち込んでいたのです」

「サマンサ様も随分心配をしておられました」

「そうでしたか。いつまでもお気にかけていただきありがたいことです」

 ニコッと笑ってクレマンが振り返る。

「お美しいマダム。お忙しい時間にお手間をかけて申し訳ございませんでした」

 さすがのルイザさんもイケオジの笑顔に当てられたようだ。

「あ……いえ、私は……ティアナは可愛いし、お隣さんだから」

 すかさずクレマンが言う。

「あなたのような方が隣で見守って下さっているのなら、我が主人も安心するでしょう。本日はどうもありがとうございました」

 暗にというより、かなりはっきり帰れと言っている。
 ルイザさんはどぎまぎしながら戻って行った。

「ティアナ様、オース家の皆さんはとてもあなたのことを心配しています。当分の間、私が通ってまいりますので、何なりとお申し付けください」

「ありがとうございます。厚かましいとは思いますが、とても助かります。頼りにしますね、クレマンさん」

「どうぞクレマンと呼び捨ててください」

「私は平民のティアナです。それはできません」

「では可愛い姪を心配してやってきた叔父というのはどうですか? それなら自然だと思いますが」

 ティアナが笑顔で同意し『ティアナちゃん』『おじさま』と呼び合うことになった。
 お近づきの印にと、ティアナが朝食を準備していたら、トマスが顔を覗かせた。

「おはよう、ティアナちゃん」

「おはようございます。トマスさん」

 トマスは知らない顔の男性を見て焦っている。

「ああ、こちらはクレマンおじさんよ。開店までの間いろいろと相談に乗ってもらうことになったの」

 トマスは胡散臭そうな顔でクレマンを観察している。
 クレマンはそんな視線をもろともせず、トマスに握手の手を差し出した。

「やあ、姪がお世話になっているようだね。叔父として礼を言うよ」

「あ、いや、お世話というほどのことは……」

「君はこの近くに住んでいるのかな?」

「ええ、西大通りにあるシェリーというパン屋に住んでいます」

「そうかい、これからも姪をよろしく頼むよ。君は既婚者かな?」

「いいえ、僕は結婚していません」

 ティアナの顔が曇る。
 あれほど仲も良く、一緒に暮らしてまでいるのに結婚していないとは……
 ティアナの中でトマスの評価がダダ下がった。

「そうか、でも私の可愛い姪に手は出さないでくれよ?」

「ははは……」

 トマスは両手を胸の前にあげて掌を見せる。
 どうやら圧倒的にクレマンの迫力勝ちというところだ。
 ティアナが声を掛ける。

「朝早くからどうしたの?」

「ああ、シェリーが朝一で焼いたパンを持って行けって言うから。朝めしまだだろ?」

「今から作ろうと思っていたところよ。トマスさんも食べていく?」

「いや、僕は良いよ。仕事に行かなくちゃ」

 トマスが後退るように扉を出た。

「じゃあ、また来るよ」

 返事も聞かずに走り去るトマス。
 クレマンがポツリと言った。

「調査対象ですな」

 不穏な単語を聞いたような気もしたが、追求することは止めて茹でたソーセージを焼くことに集中した。

「実においしいです。元の御身分を考えると信じられないほどの腕前ですね」

「身分はそうでしたが、母と私はこの辺りの方達よりずっと貧しい暮らしをしていましたからね。得意料理は雑草サラダです」

「それはそれは。ぜひ一度お相伴に預かりたいものです」

「苦いだけですよ?」

 二人は笑い合った。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 3

あなたにおすすめの小説

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

最初で最後の我儘を

みん
恋愛
獣人国では、存在が無いように扱われている王女が居た。そして、自分の為、他人の為に頑張る1人の女の子が居た。この2人の関係は………? この世界には、人間の国と獣人の国と龍の国がある。そして、それぞれの国には、扱い方の違う“聖女”が存在する。その聖女の絡む恋愛物語。 ❋相変わらずの、(独自設定有りの)ゆるふわ設定です。メンタルも豆腐並なので、緩い気持ちで読んでいただければ幸いです。 ❋他視点有り。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字がよくあります。すみません!

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

処理中です...