7 / 46
7 天職よ
しおりを挟む
サマンサは部屋着に着替えて寛いでいた。
先ほどまで結いあげられていた美しい金髪が、絹糸のように背中に流れている。
「どうしましたか? お部屋に不都合がありましたか?」
サマンサがソファーを勧めながらティナリアに問いかけた。
「いいえ、とんでもございません。今まで生きてきた中で最高の気分を味わっております」
クスッと笑ったサマンサが、泣いているマリアーナを見て目を丸くした。
「マリアーナ?」
ロレンソがソファーにティナリアを下ろし、慌ててマリアーナに手を差し出す。
「こちらにお座りなさい。何があったのかこの母に教えてくれる?」
マリアーナはしゃくりあげて言葉にならない。
ティナリアが代わりに口を開いた。
「ご相談があって参りました。少々込み入った内容ですので……」
サマンサがメイド達に頷き、部屋に残ったのはサマンサ母娘とティナリアとロレンソの四人だけとなった。
ティナリアが少し背筋を伸ばす。
「サマンサ様、今日初めてお会いしたにもかかわらず、これほどまでに良くしていただき感謝しております。お陰様で先ほどマリアーナ様とは姉妹としてお付き合いをするという約束をしていただきました」
「まあ!それは何よりね。私も嬉しいわ」
「なぜこのようなことになったのかお話ししますね」
ティナリアは食料が底をつき、ここでメイドとして雇ってもらえないかと考えて来たところから順を追って話した。
口を挟まずじっと目を見ながら聞いているサマンサ。
マリアーナはロレンソに背中を擦られてやっと泣き止んでいた。
「ではあなたがマリアーナの代わりに嫁ぐというの? あんな死にかけのジジイの所に?」
サマンサは驚き過ぎて口調が粗雑になっている。
「はい、私もいずれはマリアーナお姉さまと同じ道を進まなくてはなりません。先ほども申しましたが、きっと金持ちの商人の愛人あたりが落ち着きどころでは無いかと思います」
「なるほど……悪いけれど十分にありえる話だと思います」
「何でもお相手はご高齢とか。話し相手くらいなら苦ではありませんし、もしもとんでもない変態ジジイなら返り討ちにすることも私ならできます」
プッとサマンサが吹き出した。
「ごめんなさいね。だってあなたってとっても逞しいことを言うのだもの」
「ええ、私は市井の民よりずっと貧しい王女です。こんなこと何でもありません。しかもお姉さまは……」
そう言ってロレンソの顔を見た。
「ええ、知っています。二人は愛し合っているのよね? だから私は二人に逃げるように言ったのです。後のことは私がなんとでもします」
「そこまでのお覚悟をお持ちなら、この話を進める協力をお願いできませんか?」
サマンサは数秒考えてからティナリアに言った。
「この話は私たちにしか得がないわ。あなたも幸せになる道があるなら協力は惜しみませんよ」
ティナリアは顔の前でブンブン手を振った。
「私も得ですよ? だって死に待ちのジジイですもの。何年か我慢すれば未亡人としていくらかのお金ももらえるでしょうし」
サマンサが厳しい口調で言う。
「甘いわ。未亡人になったら連れ戻されて新しい嫁ぎ先を用意されるだけよ。どんどん条件は悪くなるわ」
四人はじっと考えた。
とはいえ、真剣に考えているのはサマンサとティナリアだけだ。
マリアーナは二人の思考についていけていないし、ロレンソはそもそも口を挟める立場にない。
ふとサマンサが顔を上げる。
「ティナリア、あなたお母様のご実家が残っていると言ったわね」
「はい。市場にある食堂だと聞いています」
「今もあるの?」
「つい先日、洗濯場で聞いた話では、まだあるということでした。ただ誰も住まなくなって数年経っているので相当痛んでいると聞きました」
「なるほど……ねえ、ティナリア。その食堂を復活させる気はある? 開店資金や当面の運転資金などは全て私が準備します。あなたにもし市井で生きる覚悟があるならですが」
「もちろんです。むしろそうしたいです。私は母方の血が濃いのでしょう。お料理は作るのも食べるのも大好きです。自分の作ったものをおいしいって言ってもらえたら最高です」
サマンサの目がきらりと光った。
「天職ね……あなた、食堂をやりなさい。オーナーシェフとしてそのお店を再建するの」
「へ?」
間抜けな返事をするティナリアに、サマンサは続ける。
「一年よ、一年我慢してくれたら、なんとしてでも絶対に助け出してあげる。きっとあなたを取り戻すわ。無事に抜け出せたら名前を変えて食堂をやるのよ。どうかしら」
「一年……」
「ええ、一年。もしかしたらもっと短くできるかもしれない」
「殺したりしませんか?」
「さすがにそこまではしないつもりだけど……ふふふ」
「あっ……できるだけ円満に終わらせたいです。もしかしたら良い人かもですし」
「そうね。では会ってみてから様子を知らせてくれる? うちからメイドをつけましょう。彼女に連絡係をさせればお互いに情報を交換できるもの」
「ありがとうございます。ところで私として死んだマリアーナお姉さまはどのように?」
「ここは側妃が死んでも子供が死んでも、王家は何もしないの。実家が引き取るのよ。あなたの場合は実家が無いから、すぐに食堂だった家を立て直してダミーの祖父母を住まわせましょう。そしてそこに引き取らせるの。管理は杜撰だから心配は無いと思うけれど、念のため通称は変えた方が安全ね。面が割れることは無いから、王宮を出てしまえば問題ないわ」
「ははは……確かに杜撰ですよね。私の母も亡くなった時に文官が来て、死亡を確認しただけでしたから」
「お母様のご遺体は?」
「林に埋葬しました。大きめの石を置いて墓標にしています」
「まあ……それは……よく頑張りましたね」
「ありがとうございます」
サマンサが一口紅茶を口に含んだ。
先ほどまで結いあげられていた美しい金髪が、絹糸のように背中に流れている。
「どうしましたか? お部屋に不都合がありましたか?」
サマンサがソファーを勧めながらティナリアに問いかけた。
「いいえ、とんでもございません。今まで生きてきた中で最高の気分を味わっております」
クスッと笑ったサマンサが、泣いているマリアーナを見て目を丸くした。
「マリアーナ?」
ロレンソがソファーにティナリアを下ろし、慌ててマリアーナに手を差し出す。
「こちらにお座りなさい。何があったのかこの母に教えてくれる?」
マリアーナはしゃくりあげて言葉にならない。
ティナリアが代わりに口を開いた。
「ご相談があって参りました。少々込み入った内容ですので……」
サマンサがメイド達に頷き、部屋に残ったのはサマンサ母娘とティナリアとロレンソの四人だけとなった。
ティナリアが少し背筋を伸ばす。
「サマンサ様、今日初めてお会いしたにもかかわらず、これほどまでに良くしていただき感謝しております。お陰様で先ほどマリアーナ様とは姉妹としてお付き合いをするという約束をしていただきました」
「まあ!それは何よりね。私も嬉しいわ」
「なぜこのようなことになったのかお話ししますね」
ティナリアは食料が底をつき、ここでメイドとして雇ってもらえないかと考えて来たところから順を追って話した。
口を挟まずじっと目を見ながら聞いているサマンサ。
マリアーナはロレンソに背中を擦られてやっと泣き止んでいた。
「ではあなたがマリアーナの代わりに嫁ぐというの? あんな死にかけのジジイの所に?」
サマンサは驚き過ぎて口調が粗雑になっている。
「はい、私もいずれはマリアーナお姉さまと同じ道を進まなくてはなりません。先ほども申しましたが、きっと金持ちの商人の愛人あたりが落ち着きどころでは無いかと思います」
「なるほど……悪いけれど十分にありえる話だと思います」
「何でもお相手はご高齢とか。話し相手くらいなら苦ではありませんし、もしもとんでもない変態ジジイなら返り討ちにすることも私ならできます」
プッとサマンサが吹き出した。
「ごめんなさいね。だってあなたってとっても逞しいことを言うのだもの」
「ええ、私は市井の民よりずっと貧しい王女です。こんなこと何でもありません。しかもお姉さまは……」
そう言ってロレンソの顔を見た。
「ええ、知っています。二人は愛し合っているのよね? だから私は二人に逃げるように言ったのです。後のことは私がなんとでもします」
「そこまでのお覚悟をお持ちなら、この話を進める協力をお願いできませんか?」
サマンサは数秒考えてからティナリアに言った。
「この話は私たちにしか得がないわ。あなたも幸せになる道があるなら協力は惜しみませんよ」
ティナリアは顔の前でブンブン手を振った。
「私も得ですよ? だって死に待ちのジジイですもの。何年か我慢すれば未亡人としていくらかのお金ももらえるでしょうし」
サマンサが厳しい口調で言う。
「甘いわ。未亡人になったら連れ戻されて新しい嫁ぎ先を用意されるだけよ。どんどん条件は悪くなるわ」
四人はじっと考えた。
とはいえ、真剣に考えているのはサマンサとティナリアだけだ。
マリアーナは二人の思考についていけていないし、ロレンソはそもそも口を挟める立場にない。
ふとサマンサが顔を上げる。
「ティナリア、あなたお母様のご実家が残っていると言ったわね」
「はい。市場にある食堂だと聞いています」
「今もあるの?」
「つい先日、洗濯場で聞いた話では、まだあるということでした。ただ誰も住まなくなって数年経っているので相当痛んでいると聞きました」
「なるほど……ねえ、ティナリア。その食堂を復活させる気はある? 開店資金や当面の運転資金などは全て私が準備します。あなたにもし市井で生きる覚悟があるならですが」
「もちろんです。むしろそうしたいです。私は母方の血が濃いのでしょう。お料理は作るのも食べるのも大好きです。自分の作ったものをおいしいって言ってもらえたら最高です」
サマンサの目がきらりと光った。
「天職ね……あなた、食堂をやりなさい。オーナーシェフとしてそのお店を再建するの」
「へ?」
間抜けな返事をするティナリアに、サマンサは続ける。
「一年よ、一年我慢してくれたら、なんとしてでも絶対に助け出してあげる。きっとあなたを取り戻すわ。無事に抜け出せたら名前を変えて食堂をやるのよ。どうかしら」
「一年……」
「ええ、一年。もしかしたらもっと短くできるかもしれない」
「殺したりしませんか?」
「さすがにそこまではしないつもりだけど……ふふふ」
「あっ……できるだけ円満に終わらせたいです。もしかしたら良い人かもですし」
「そうね。では会ってみてから様子を知らせてくれる? うちからメイドをつけましょう。彼女に連絡係をさせればお互いに情報を交換できるもの」
「ありがとうございます。ところで私として死んだマリアーナお姉さまはどのように?」
「ここは側妃が死んでも子供が死んでも、王家は何もしないの。実家が引き取るのよ。あなたの場合は実家が無いから、すぐに食堂だった家を立て直してダミーの祖父母を住まわせましょう。そしてそこに引き取らせるの。管理は杜撰だから心配は無いと思うけれど、念のため通称は変えた方が安全ね。面が割れることは無いから、王宮を出てしまえば問題ないわ」
「ははは……確かに杜撰ですよね。私の母も亡くなった時に文官が来て、死亡を確認しただけでしたから」
「お母様のご遺体は?」
「林に埋葬しました。大きめの石を置いて墓標にしています」
「まあ……それは……よく頑張りましたね」
「ありがとうございます」
サマンサが一口紅茶を口に含んだ。
23
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。
一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。
そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」


【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる