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77 最終話
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「ほら、来たわ」
待ちかねた王妃が声をあげる。
ルルーシアは胸の前で手を握り、近づいてくる馬車を見つめていた。
「ただいま戻りました」
馬車から降りてきたアマデウスは、体つきも顔つきも想像をはるかに超えた逞しさだ。
二十歳を迎えた王太子然としたその様子に、出迎えた人たちは息をのんだ。
当のアマデウスはルルの前にゆっくりと歩み寄り、その手に唇を落とす。
「ただいま、ルル。元気そうで嬉しいよ。会いたかった……本当に会いたかったんだ」
「アマディ……すごくカッコよくなってる。前もそうだったけれど、今の方がずっと素敵よ」
「ありがとうルル。君はどちらかと言うと可憐なお嬢さんっていう表現が似合うかな。以前のクールな君も素敵だけれどね。きっと楽しい学生生活だったんだろう。君が楽しかったのなら僕も嬉しいよ」
そう言ってギュッとルルーシアを抱きしめたアマデウスが、国王の前に進み出た。
「父上、長い間の留守をお許しくださったこと、改めて感謝いたします。お陰様で王族の何たるかを学ぶことができました。そして母上、ますますお美しくなられて驚きましたよ」
「まあ! アマディったら」
自分の息子からの言葉に頬を染める王妃。
啞然としたままポカンとしていた国王が口を開いた。
「大人になったね。うん、お前を旅立たせて良かったよ。モネ公爵には改めて礼を言わねば」
「はい、本当に良くしてくださいました」
宰相から順番に挨拶をして回るアマデウスの姿に、全員が驚いている。
制服を着て、神妙な顔で並ぶ側近たちの前に立つと顔を引き締めて声を出した。
「ご苦労だった。不在の間のことは纏めてあるかい?」
「はい、全て整っております」
「では荷を解いたら報告を聞こう。それにしてもみんな頑張ったんだねぇ。頼もしい限りだ」
三侯爵の前に進み、深々と頭を下げた。
「お世話になりました」
三侯爵が感心した顔で声を出す。
「素晴らしい変化ですな。脱皮を終えた蝶のようだ」
「腹黒さが滲み出ていないところがいい。努力の賜物ですね」
「側近たちも鍛えておきましたよ。ご安心ください」
その言葉にいちいち頷きながらにこやかな表情を浮かべたアマデウスがルルーシアを手招きした。
「三日ほどお休みをいただきます。その後で引継ぎをさせてください」
「畏まりました」
ルルーシアと手を繋ぎ王城に入っていくアマデウスを見送り、三侯爵がボソッと言う。
「どんな教育方法なんだ? まるで別人じゃないか」
「ああ……どうやら俺たちの役割が変わりそうだな」
「油断していると寝首をかかれそうな緊張感は久しぶりだ。なんだかワクワクしてきたぞ」
キリウスが近寄って言う。
「去年まではルルちゃんに『アマデウスをよろしくね』って思ってたけれど、どうやら考えを改めなくてはいけないみたいだ。今からは『ルルちゃん安心して頼れ』って感じだよ」
その言葉にメリディアンが答える。
「それでこそ娘を嫁がせた甲斐があるというもの。私は嬉しいですよ」
「そう言ってくれると叔父としてもとても嬉しいよ。全力でフォローするから安心してね」
アマデウスとルルーシアの後を追いながら、アランが声を出した。
「我々も全力を尽くすぞ」
「もちろんだ。この国の安寧は我々が支えていくんだ」
マリオが嬉しそうに答えた。
ルルーシアを私室まで送ったアマデウスが執務室に戻る。
「報告を聞く前に、まず礼を言わせてほしい。良く頑張ってくれた、ありがとう」
五人が揃って頭を下げる。
「まず僕の方針を伝えておく。今後の判断の基準にしてくれ」
全員が頷いて王太子の顔を見た。
「他国を侵略しない。他国からの侵略を許さない。そして国力をあげて税金を下げ、民力の増強を図る」
「はいっ」
「さあ、忙しくなるぞ」
「はいっ」
報告を聞き、今後の方針を指示したアマデウスが執務室から出ようとして振り返った。
「三日ほどは呼ばないでね。ルルとずっと過ごすんだから」
五人の側近たちは声に出さず頷くしかできなかった。
そしてその日の夜、結婚して初めて夫婦の寝室に揃って入ったアマデウスとルルーシアは、バルコニーに出て星を眺めている。
「ほら、あれがルルーシアだ。あの星を見上げては君を思い出していたんだよ」
「あの星が私の……おじい様はきっと厳しかったのでしょう? ごめんなさいね」
「そんなこと! 確かに厳しかったけれど、とても勉強になったよ。いかに早く最適解を導き出すかの方法を叩きこんでくださったんだ。そしてリサーチとネゴシエーションの重要性を具体的に教えてくださった。僕には足りないものだらけだったと理解した」
「アマディ、頑張ったのね」
「うん、君のために頑張った。ねえルル。今の僕は合格点を貰えそうかな?」
「ええ、私には勿体ないほどよ」
「では一年前の約束は叶うと考えて良いのかな?」
アマデウスの手がルルーシアの背中に回った。
「ええ、どうぞお望みのままご勝手になさってくださいまし。私はあなたの妻であり親友ですわ」
アマデウスがルルーシアに深く口づけた。
「そして永遠の恋人だ。愛してるよルル。どうにかなりそうなほど好きだ」
「アマディ……」
二人の吐息は甘く夜空に溶け込んでいった。
心なしか新星ルルーシアがほんのりと赤く染まっているように見える。
そして数年後、二男一女に恵まれた王太子夫妻に後を譲った国王と王妃は、やんちゃな孫のお守りに明け暮れたとさ。
激変したアマデウスと側近たちがどのような1年を送ったのかは、また別の機会に……
おしまい
長い物語にお付き合いいただきありがとうございました。
志波 連
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