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 それから一年、学生生活を満喫したルルーシアはアリアと共に帰国の途についた。
 二人の手には修了証書が握られており、それを見た国王夫妻はとても喜んだ。

「ただいま帰りました」

 ルルーシアとアリアが王太子妃執務室に入る。

「え? マリオなの? それに……あなたはもしかしてワンダ?」

 着任してすぐに留学してしまったふたりが自分の名を覚えていたことに感激しつつ頷いたのは、新人君と呼ばれていたワンダ・レモーネ伯爵令息だ。

「お帰りなさい。ご無事で何より」

 そう声を出したのはマリオ・メントール。

「なんだか……雰囲気が変わったわね、マリオ」

「そう? まあ、かなり鍛えていただいたからね。お陰で体も一回り大きくなったよ」

 アリアの言葉にニコッと笑うマリオ。

「本当になんて言うか、纏っている空気が変った感じよ。マリオもワンダもシャープになったというか、ワイルドになったというか……」

 マリオがニコッと笑う。

「誉め言葉として受け取っておきますよ、妃殿下。僕たちで驚くなら、アランを見たら悲鳴を上げるかもしれませんよ?」

 アリアがドサッと荷物を落として駆け出すと、ルルーシアも慌ててついて走る。

「あ~あれはまだ学生気分が抜けてないね。どうやら楽しい一年だったようだ」

 マリオがそう言うとワンダが笑いながら言う。

「そうでなけりゃ僕たちが苦労した甲斐がないさ」

 そう言ったふたりは顔を見合わせて頷きあい仕事に戻った。
 王太子の執務室に駆け込んだふたりに、驚いたように振り返ったのはアランと新人側近と呼ばれていたマックス・コーウェル伯爵令息だ。

「アラン? アランなの? それにマックスも……どうしちゃったの」

 アリアが驚いた顔で駆け寄った。

「アリア! お帰りなさい。会いたかったよ」

「えっ……ええ、私も会いたかったわ。それにしても何があったの? 顔つきも体つきも随分変わったような気がするわ」

 アランが照れくさそうな顔で笑う。
 その横ではルルーシアがマックスの顔をのぞきこんでいる。

「まあ! マックス。とても頑張ったのね」

「妃殿下、お久しぶりです。どうやら楽しい一年だったようですね」

 アランもマックスも老練な軍師のような空気を纏っている。

「アリア、準備は整っている。義父上にも承認をいただけたよ」

「頑張ったのねアラン。あのパパが承認するなんて凄いことだわ」

 アランがアリアを強く抱きしめた。

「このまま教会に駆け込みたい気分だよ」

 自分が知っているアランとは思えないセリフにアリアの頬が真っ赤に染まった。

「さあ、国王陛下もお待ちだ。皆さん揃っているはずだよ、挨拶に行ってきなさい」

「はい」

 ルルーシアはアランに『はい』と返事をするアリアを初めて見たと思った。
 国王の執務室には、王妃も王弟の他、三侯爵も顔を揃えている。
 帰国の挨拶をするふたりを微笑ましく見た後、国王が代表して労いの言葉を掛けた。

「楽しかったかい?」

「はい、お陰様で念願が叶いました。皆さん本当に優秀な方々ばかりで、自分の未熟さを思い知りましたわ。私では思いもよらないような切り口をたくさん教わりました。留守の間、お忙しい思いをさせてしまい申し訳ございません」

「そうか、それは良かった。アマディは来週戻る予定だよ。ルルちゃんの誕生日には約束通り間に合いそうだね。それに忙しかったのは君たちのパパで、私たちはむしろ楽をしていたよ」

「そう言っていただけると救われた思いですわ。アマデウス殿下はお元気なご様子ですの?」

 王妃が答える。

「ええ、生きていると聞いているわ。ほほほ! 早く会いたいわね」

「はい。早く会いたいです」

 国王夫妻との会話が終わるのを待ちかねたように駆け寄ったのは、メリディアン侯爵とロックス侯爵だ。
 1年ぶりに会う愛娘を抱きしめながら、嬉しそうな顔をしている。

「ちぇっ……羨ましい……」

 そう愚痴ったフェリシア宰相の肩をキリウスがポンと叩く。

「まあまあ、あの二人はお嫁に行っちゃうんだから」

「いいえ、殿下。俺はアランを婿に出す立場ですからね。ロックスのひとり勝ちですよ。俺に残ったのは仕事と責任だけだ。空しい……」

 その言葉に楽しそうな声で嗤うキリウス。
 モネ公爵の尽力によりローレンティア国籍を取得したキース・レイダーと共に和やかな日々を送っている。

 アリアは実家に戻り、ルルーシアは自室でキャロラインを話し相手に体を休めること一週間、遂にアマデウスが到着する日がやってきた。
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