どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

文字の大きさ
上 下
75 / 77

75

しおりを挟む
 アランとアリアが見つめ合ってる姿を眺めながら、マリオが新人の側近二人に聞いた。

「君たちって婚約者いるの?」

「ええ、いますよ。仕事が落ち着いたら結婚する予定です」

「僕もそうです」

「ふぅん……良いなぁ。おばあ様に手紙でも送って催促しようかなぁ……」

 明日から始まる地獄の日々を思いながら、孤独を嚙みしめたマリオは遠い目をしている。
 曲が終わり、壇上に上がったアマデウスがルルーシアの手をとった。

「ルル誕生日おめでとう。僕が見つけた新星を君にプレゼントするよ」

「まあ! 新星をみつけられたのですか? 悲願がかなったのですね? でもそのような希少なものを私に……」

「うん、君に贈るためだけに探し続けていたのだから。僕には君という美しいひとつ星があるからね。他は何もいらないんだ」

 アマデウスが、新星認定書と発見者認定書、そして新星名登録完了書をルルーシアに差し出した。
 
「ルルーシアという名前を?」

「うん、これは僕が君と出会った8歳の時から決めていた名前だよ。僕の星のお姫様」

「ありがとう、アマデウス様」

 アマデウスが目を見開いた。

「ありがとう、ルル。ああ……これほど嬉しいなんて想像していなかったよ。君は凄いな」

「こちらこそありがとうございます。あなたのその粘り強さには頭が下がりますわ」

「ははは! 粘り強さというよりもはや執念みたいなものさ。ねえルル。アマディと呼んでくれないか? 言葉も友人に対するようにしてほしい。だって僕たちは生涯の親友だろ?」

「そうね、わかったわ。アマディ」

「ルル!」

 アマデウスがルルーシアを抱き寄せて口づけを送った。
 それを見ていた貴族たちが一斉に拍手を贈ったが、ふたりの腹黒達は片眉をあげている。

「メリディアン、もう嫁に出した後だ。今更そんな顔をするなよ。まあ、俺も明日は我が身だがな……」

 慰めるロックスの横でフェリシア宰相が声を出した。

「あ……アマデウス殿下って自殺願望でもあるのか? 見ろよ、モネ公爵の顔」

 国王夫妻の横で笑顔を貼り付けているモネ侯爵を見た三人が口々に言った。

「可哀そうに……マジで死ぬかもしれんな。我が国の王太子は」

「ああ、もし生きて帰ったら優しくしてあげよう」

「うん、そうだな。不穏分子やゴミクズは全てきれいにしておいてやろう」

 そんな数少ない同情的な視線の中、アマデウスはもう一度ルルーシアを強く抱きしめた。
 そして数日後、モネ公爵が帰国する日となり、一行に加わる王太子を見送るために国王夫妻たちが玄関に並んだ。
 
「頑張りなさい」

「はい、行って参ります」

 父王の言葉に頷いたアマデウスに、ルルーシアが小さな箱を渡した。

「アマディ、来年の私の誕生日にここで会いましょう。これは私が刺しゅうをしたお守り」

「ありがとうルル。大切にする。ルルも学生生活を楽しんでくれ。では先に行っているよ」

 モネ公爵がルルーシアを抱きしめて馬車に乗り込んだ。
 アマデウスも同じようにルルーシアを抱きしめると、同じ馬車へと乗り込む。

「さあ、次は私たちよ。目いっぱい学生を楽しみましょう」

 アリアの言葉にルルーシアが頷いた。
 迷った結果、経済学を専攻したアリアとルルーシアを乗せた馬車が、王宮を出立したのはそれから三日後のことだ。

 王太子代理となったロックス侯爵と、王太子妃代理となったメリディアン侯爵。
 その前に並んでいるのは四人の側近たちだ。
 覚悟を決めているアランとマリオは表情を崩さずその圧に耐えていたが、新人二人の顔色は枯れ落ち葉のようだ。
 それから数日後、キリウスがキース・レイダーと共に出立した。
しおりを挟む
感想 969

あなたにおすすめの小説

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

【本編完結】独りよがりの初恋でした

須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。  それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。 アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。 #ほろ苦い初恋 #それぞれにハッピーエンド 特にざまぁなどはありません。 小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。

〈完結〉「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

ごろごろみかん。
恋愛
旦那様は、私の言葉を全て【女の嫉妬】と片付けてしまう。 正当な指摘も、注意も、全て無視されてしまうのだ。 忍耐の限界を試されていた伯爵夫人ルナマリアは、夫であるジェラルドに提案する。 ──悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

処理中です...