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アリアがスッと立ち上がる。
「では私はお茶の準備を頼んでくるわ。それとルルのところに顔を出して、差し入れのお礼も言ってくるから」
部屋に残ったのはアマデウスとカレンだ。
今日に限ってメイドもいない。
「もっと食べなよ、カレン。こっちのパイも美味しいよ」
何の屈託もなくスイーツを進めるアマデウスの手にカレンの手が重なった。
「アリアがいじわるするから、なかなかふたりになれなかったわ」
「え? アリアはそんな子じゃないよ? 何を言ってるんだ?」
「ねえアマデウス殿下。あの頃の殿下は私のことが好きでしたよね? あんな大金もポンと出してくれるし、側妃にしてくれるくらいだもの」
アマデウスが眉を顰める。
「それは違うよ。金は貸したんだ。君もそれを納得したから毎月払っているんだろう? 高給だからって側近試験を受けたのも君の判断じゃないか。側妃にしたのは本当に後悔してる。君にも悪かったと思っているよ」
「だったら本当の側妃にして下さいよ。サマンサは殺されちゃったけれど、私は私よ? 同じ人間よ? 側妃なんだから抱いても良いのよ? ずっと我慢してるんでしょう? 可哀想にルルーシア様が臍を曲げるから、辛いわよね。あの人も酷いわ。王族なんだから側妃がいたって不思議じゃないのに。あそこまで怒ってアマデウス殿下を蔑ろにするなんて」
「カレン? どうしちゃったんだ? 僕と君は友人だろ?」
「それはルルーシア様を欺くための方便でしょう? 私ずっと知ってたんだから」
「知ってた?」
「そうよ、あなたは私が欲しいんでしょう? なんとか触れるチャンスが欲しくて、夜に呼び出していたんでしょう? なのにアランったら気が利かないんだもの」
「ちょっと待ってくれ! 君はそんなふうに思ってたのか? 友達だと思っていたのは僕だけなのか?」
カレンが立ち上がってアマデウスの横に座った。
少し大きいが一人掛けのソファーなので密着してしまう上に、遠慮なくアマデウスにしなだれかかるカレン。
アマデウスは避けるように立ち上がろうとしたが、しっかりと腰に抱きつかれてしまった。
「やめろ! 僕は信じていたんだぞ! みんなが違うっていっても、最後まで信じていたんだ……それなのに……情けないよ。これじゃあまるで道化じゃないか」
「違うわ、最初は私も友達だと思ってた。でもあなたが私を好きなんだって教えてくれた人がいて、それからはそういう目で見るようになったわ。ルルーシア様の話をするのも、きっと私の気を引きたかったからでしょう?」
「違う……絶対に違う……とにかくこの手を離してくれ! 今すぐにだ!」
「遠慮しなくていいのよ? ほら……」
カレンが手を伸ばしてアマデウスの手を自分の胸に引き寄せた。
「はい! アウト。残念だが現行犯だ、カレン・ウィンダム」
カーテンの後ろから出てきたのはマリオだった。
「なっ! あんた! 覗いてたの!」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。覗きじゃないよ、監視だ。そして君はたった今、超えてはいけない一線を超えてしまった。為人は別にして、君の仕事ぶりは認めていたから実に残念だよ」
「な……何言ってるのよ……私は何もしてない。そうよ! 殿下が誘って来たのよ。天体観測に誘って来たのも殿下だし、側妃にするって言ったのも殿下だもの! 私は要望に応えただけよ」
アマデウスが絶望したような顔で、カレンの手をはたき落した。
「いい加減にしてくれ! 残念だよ、カレン。どうやら僕はまだ甘いようだ……マリオ、彼女を部屋から出してくれ」
「畏まりました」
マリオが啞然として固まったカレンに手を伸ばした。
「ちょっとまって」
部屋に入ってきたのはアリアとアランだ。
「彼女には何度も警告しているの。もしこんなことがあれば処理するよって。さあ、覚悟は良いわね? カレン。ああ、心配しなくてもあなたの養父母には影響が出ないようにするから、安心しなさい」
「な……何を……」
「何を? ちゃんと伝えてきたはずよ? ああ、でもそれでは借りたお金を返せないわね……どうする? 方法は三つあるけど。どれでも選ばせてあげるわ。仕事仲間の最後の誼でね」
アリアのあまりの迫力に震えだすカレン。
「何をすればいいの……死にたくないわ。死にたくない……」
「ひとつ目は娼館に行ってお金を稼ぐ。それで返済すればいいわ。二つ目はそれこそワートル男爵並みの変態貴族に嫁ぐ。まあ、これは振り出しに戻るだけだから。三つめは……」
「やめてっ! 嫌よ! 絶対に嫌! 死にたくない! 絶対に死にたくないわ! そうだ、他国に行くわ。二度とこの国に戻らない。絶対に殿下にも妃殿下にも近寄らないと誓うから!」
カレンが晒す醜態を悲しそうな目で見ているアマデウス。
アランが心配そうに近づいた。
「今は休憩中だから友人タイムだ。マリオ、済まんが頼む」
「了解。カレン、行こう。アリアも付き合ってくれ」
「うん」
うなだれたままマリオに手を引かれて部屋をでるカレン。
執務室のドアを閉めたマリオの耳に届いたのは、アマデウスの悲痛な泣き声だった。
「では私はお茶の準備を頼んでくるわ。それとルルのところに顔を出して、差し入れのお礼も言ってくるから」
部屋に残ったのはアマデウスとカレンだ。
今日に限ってメイドもいない。
「もっと食べなよ、カレン。こっちのパイも美味しいよ」
何の屈託もなくスイーツを進めるアマデウスの手にカレンの手が重なった。
「アリアがいじわるするから、なかなかふたりになれなかったわ」
「え? アリアはそんな子じゃないよ? 何を言ってるんだ?」
「ねえアマデウス殿下。あの頃の殿下は私のことが好きでしたよね? あんな大金もポンと出してくれるし、側妃にしてくれるくらいだもの」
アマデウスが眉を顰める。
「それは違うよ。金は貸したんだ。君もそれを納得したから毎月払っているんだろう? 高給だからって側近試験を受けたのも君の判断じゃないか。側妃にしたのは本当に後悔してる。君にも悪かったと思っているよ」
「だったら本当の側妃にして下さいよ。サマンサは殺されちゃったけれど、私は私よ? 同じ人間よ? 側妃なんだから抱いても良いのよ? ずっと我慢してるんでしょう? 可哀想にルルーシア様が臍を曲げるから、辛いわよね。あの人も酷いわ。王族なんだから側妃がいたって不思議じゃないのに。あそこまで怒ってアマデウス殿下を蔑ろにするなんて」
「カレン? どうしちゃったんだ? 僕と君は友人だろ?」
「それはルルーシア様を欺くための方便でしょう? 私ずっと知ってたんだから」
「知ってた?」
「そうよ、あなたは私が欲しいんでしょう? なんとか触れるチャンスが欲しくて、夜に呼び出していたんでしょう? なのにアランったら気が利かないんだもの」
「ちょっと待ってくれ! 君はそんなふうに思ってたのか? 友達だと思っていたのは僕だけなのか?」
カレンが立ち上がってアマデウスの横に座った。
少し大きいが一人掛けのソファーなので密着してしまう上に、遠慮なくアマデウスにしなだれかかるカレン。
アマデウスは避けるように立ち上がろうとしたが、しっかりと腰に抱きつかれてしまった。
「やめろ! 僕は信じていたんだぞ! みんなが違うっていっても、最後まで信じていたんだ……それなのに……情けないよ。これじゃあまるで道化じゃないか」
「違うわ、最初は私も友達だと思ってた。でもあなたが私を好きなんだって教えてくれた人がいて、それからはそういう目で見るようになったわ。ルルーシア様の話をするのも、きっと私の気を引きたかったからでしょう?」
「違う……絶対に違う……とにかくこの手を離してくれ! 今すぐにだ!」
「遠慮しなくていいのよ? ほら……」
カレンが手を伸ばしてアマデウスの手を自分の胸に引き寄せた。
「はい! アウト。残念だが現行犯だ、カレン・ウィンダム」
カーテンの後ろから出てきたのはマリオだった。
「なっ! あんた! 覗いてたの!」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。覗きじゃないよ、監視だ。そして君はたった今、超えてはいけない一線を超えてしまった。為人は別にして、君の仕事ぶりは認めていたから実に残念だよ」
「な……何言ってるのよ……私は何もしてない。そうよ! 殿下が誘って来たのよ。天体観測に誘って来たのも殿下だし、側妃にするって言ったのも殿下だもの! 私は要望に応えただけよ」
アマデウスが絶望したような顔で、カレンの手をはたき落した。
「いい加減にしてくれ! 残念だよ、カレン。どうやら僕はまだ甘いようだ……マリオ、彼女を部屋から出してくれ」
「畏まりました」
マリオが啞然として固まったカレンに手を伸ばした。
「ちょっとまって」
部屋に入ってきたのはアリアとアランだ。
「彼女には何度も警告しているの。もしこんなことがあれば処理するよって。さあ、覚悟は良いわね? カレン。ああ、心配しなくてもあなたの養父母には影響が出ないようにするから、安心しなさい」
「な……何を……」
「何を? ちゃんと伝えてきたはずよ? ああ、でもそれでは借りたお金を返せないわね……どうする? 方法は三つあるけど。どれでも選ばせてあげるわ。仕事仲間の最後の誼でね」
アリアのあまりの迫力に震えだすカレン。
「何をすればいいの……死にたくないわ。死にたくない……」
「ひとつ目は娼館に行ってお金を稼ぐ。それで返済すればいいわ。二つ目はそれこそワートル男爵並みの変態貴族に嫁ぐ。まあ、これは振り出しに戻るだけだから。三つめは……」
「やめてっ! 嫌よ! 絶対に嫌! 死にたくない! 絶対に死にたくないわ! そうだ、他国に行くわ。二度とこの国に戻らない。絶対に殿下にも妃殿下にも近寄らないと誓うから!」
カレンが晒す醜態を悲しそうな目で見ているアマデウス。
アランが心配そうに近づいた。
「今は休憩中だから友人タイムだ。マリオ、済まんが頼む」
「了解。カレン、行こう。アリアも付き合ってくれ」
「うん」
うなだれたままマリオに手を引かれて部屋をでるカレン。
執務室のドアを閉めたマリオの耳に届いたのは、アマデウスの悲痛な泣き声だった。
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