どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

文字の大きさ
上 下
63 / 77

63

しおりを挟む
 ゆっくりとルルーシアの前に立ち、徐に跪くアマデウス。

「そのとおりだ。無知は誰のせいでもない。自分の罪だよ。僕もまず自分のしでかしたことに向き合うべきだよね」

「殿下?」

 アマデウスがルルーシアの手を取った。

「ルルーシア、今回の騒動の原因は全て私の無知からだ。そのために君を酷く傷つけてしまった。本当に申し訳なかった。心から反省し、今後二度とこのようなことが無いよう、勉強をしなおすよ。それと謝罪が遅くなったことも申し訳なかった。うやむやにするつもりではなかったけれど、今の君の言葉で目が覚めた。僕はまだ君に甘えていたんだね……ホントにゴメン」

 アランがアマデウスの後ろに跪いた。

「妃殿下、私からも心からの謝罪をさせてください。もっと早くに大人に相談すべきでした。後手に回ったのは全て私の慢心によるものです。どのような罰でもお受けいたします」

 困ったルルーシアがキリウスの顔を見たが、ニコッと微笑むだけで何も言ってはくれない。
 アマデウスが真っ赤な目をして続けた。

「許してほしい。どうか……許してください。ルルが許してくれるなら僕は何でもする。僕が好きなのは、初めて会ったあの日からルルだけだ。ルル以外はいらない……ずっと前にアランに言われたんだ。リセットすることはできないがリトライはできるってね。どうか僕にもう一度だけチャンスを貰えませんか。お願いします」

 ルルーシアが口を開いた。

「わかりました。あなたを許します。でも条件がありますわ」

「何でも言ってくれ」

「これからは、もっとたくさんお話ししましょう。殿下の弱いところも情けないところも全部私に見せてください。私もそのようにいたしますので、それを受け入れてください」

「うん、わかった」

「それと、殿下はとても優秀でいらっしゃるのに、少し純粋過ぎるのですわ。もう少しだけ腹黒く生きる術を学んでくださいませ」

「腹黒く? 叔父上のように?」

「まあ! そこはなんとも……」

 キリウスが笑いながら言う。

「アランは? 彼も罰して欲しそうだよ?」

「そうですわね……アランももう少し側近として裏の裏を読む程度のダークな部分が必要だと思うわ。殿下と一緒に学びなさい」

 マリオが『裏の裏は表じゃないか?』と呟いているが、誰にも聞こえていない。

「ありがとうございます。一生をかけてお仕えいたします」

 キリウスが跪くアマデウスを立たせた。
 
「アマディ、最愛の人に許してもらってよかったね。でも、まだ君の周りには魑魅魍魎がたくさんいるよ。心してかかりなさい」

「はい、叔父上」

「そして、ルルーシア。君は本当に優しい良い子だ。アマディにはもったいないくらいだけれど、君だからこの甥っ子を安心して任せられる。君が何か望むなら、私が必ず叶えよう。これは愚かな甥を許してくれたお礼だと思って覚えていて欲しい」

「ありがとうございます」

「じゃあ和解ってことでいいかな?」

 それから数日、宰相の処罰はキリウスの主導で粛々と進んだ。
 いきなりの退任は体調不良と発表され、降爵と領地の返還は申告漏れによるものとされた。
 そして娘のカリスは辺境の修道院に併設された全寮制の女学園の中等部に転入し、6歳も年下の子達と共に厳しい淑女教育を受けている。
 本人はとても楽しそうに通っていると聞き、アリアは少し複雑そうな顔をした。
 
「やっと落ち着いたね」

 宰相不在でいきなり忙しくなった王太子の執務室には、アリアとカレンとアランが詰めている。
 夕食もままならないアマデウスに同情したルルーシアが、アランを派遣したのだ。
 会うたびに諭すようなことを囁いていた宰相がいなくなったことで危機感を覚えたのか、カレンの怪しい動きは鳴りを潜めている。

「殿下、そろそろ少し休憩しましょう」

「ああそうだね。君たちも疲れただろう?」

 メイドに頼んで濃い紅茶にミルクと蜂蜜をたっぷり入れてもらう。
 執務机から離れた四人がソファーに座り、ホッと一息ついた。

「そういえば、カレン。君の返済計画なんだけれど、そろそろ出してくれないか? それと借用書も一緒に頼むよ。こういうことはきちんとしないとね」

 何気なく言ったアマデウスの一言が、カレンの心にどす黒い霧を巻き起こした。

「はい、わかりました」

「うん、なるべく早く頼むね」

 アランとアリアが目配せをしたことにカレンは気付かないまま、じっと空になったカップを見つめていた。
 そしてその夜、今日も残業している四人のもとにルルーシアから差し入れが届いた。

「まあ! 久しぶりのメリディアンスイーツだわ!」

 アリアが目を輝かせた。
 アランが笑いながら言う。

「旨いのは認めるけれど、腹の足しにはなりそうにないな。俺が何か作ってもらうように頼んでこよう。殿下は何が良いですか?」

 アマデウスがクッキーを頬張りながら答える。

「僕はカツサンドが食べたいな」

「みんなもそれでいい?」
 
 全員が頷いたのを見てからアランが部屋を出た。

しおりを挟む
感想 969

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

【本編完結】独りよがりの初恋でした

須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。  それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。 アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。 #ほろ苦い初恋 #それぞれにハッピーエンド 特にざまぁなどはありません。 小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。

〈完結〉「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

処理中です...