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 わざとらしく腕を捩じ上げてソファーから引き摺り下ろす。

「きゃぁぁぁ! 痛い痛い痛い痛い! パパ助けて!」

 まだ動かない夫の肩を揺する妻と、ただ戸惑っている兄を見たアマデウスが言う。

「地下牢に繋ぎ、真意を問いただせ。口を割らぬなら何をしても構わん。ただし殺すなよ? 処刑は公開でおこなうからな。我が最愛の妻を貶した罪の重さを知らしめてやる」

 宰相がソファーからずり落ちるようにして跪いた。
 アマデウスが冷たい視線を投げつける。

「ダッキィ、質問に答えよ。あの生意気な女とは誰のことだ」

「ル……ル……ルル……シア妃殿下の……」

 アマデウスがドカッとテーブルを蹴った。

「お許しください、どうかお許しを。私が言いました。この子は私の言ったことをそのまま信じただけなのです。私が暴言を吐きました」

 アマデウスが大きな溜息を吐いた。

「言われたことをそのまま信じただけか……情けないことだな……」

 ガタガタと震えるカリスと、項垂れて固まったように動かない宰相。
 妻がルルーシアの足元に土下座をした。

「どうか命だけは……子供たちの命だけはお許しください。罪は夫と私が償います。爵位も返上します。領地もお返しいたします。ですからどうか子供達だけは……」

 ルルーシアがどんな言葉を口にするのか、皆が固唾を飲んで待っていた。

「殿下、この者たちの処罰は如何いたしましょうか?」

 その言葉にホッと息を吐いたのは、王弟キリウスとメリディアン侯爵だ。

「僕が怒ったのはダッキィがルルを貶したからだよ。その罪は必ず償わせなくてはならない」

「私が怒ったのはカリスが幼い殿下を傷つけたことを、いまだに反省も謝罪もしないことについてですわ」

「うん、そうだね。いろいろと調べてから判断する必要がありそうだ。とりあえず貴族牢にでも入って待っていてもらおうか」

「仰せの通りに」

 その時国王夫妻がやってきた。

「あれ? もう終わっちゃったの?」

 キリウスが答える。

「兄上が頑張ってくれたお陰で、こちらの件は片付きましたよ」

「そうか、終わったのなら良いよ。侯爵達も納得したのかな?」

 三人は同時に頷き、メリディアン侯爵が代表して声を出した。

「もちろんでございます。王太子殿下の見事な采配を拝見し、心から感服いたしました」

「そう? まあ、おべんちゃらはいいからさ。で? ダッキィの後は誰が宰相をやってくれるのかな?」

 三人の侯爵が互いの顔を見合わせながら困惑の表情を浮かべた。
 キリウスが助け舟を出す。

「まあまあ、兄上。そこはじっくりと考えましょう。さあ、そろそろパーティーもお開きだ。我々が顔を出さねば終わるに終われまい?」

 アマデウスがルルーシアの側に来る。

「ルル、僕のために怒ってくれてありがとう。お陰でいかにつまらんことに囚われていたのか分かったような気がするよ。さあ、王太子夫妻としての仕事が残っている。お手をどうぞ、愛しい我が奥様」

 ルルーシアが困ったような笑顔を浮かべて、その手に手を重ねた。
 アランとマリオが続き、キリウスが再びアリアに手を差し出しながら、少し大きな声を出した。

「アリア嬢、ご苦労だったね。さあエスコートしよう。そう言えば君はまだ婚約者がいないのだったか?」

 王太子夫妻の後に続いていたアランがいきなり立ち止まる。
 
「アリア、まだ仕事中だ。君は殿下の後ろに」

「はぁ~い。残念ですがお仕事優先ですわ、キリウス殿下」

「それは残念だ。今度改めてお誘いすることにしよう」

 酸っぱいものを食べたように口を窄めているアランの横に立ったアリアが、アランの顔を見てニヤッと笑った。
 マリオがボソッと呟く。

「俺も恋がしたいなぁ……」

 一斉に現れた王族たちは拍手で迎えられ、ラストダンスを披露したアマデウスとルルーシアは、笑顔で観客と化していた貴族たちに手を振ったのだった。
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