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控室に入った一行は、テーブルを挟むようにして向き合っていた。
王太子夫妻の前に座らされたのは、宰相とその娘カリスだ。
その妻と息子はきょろきょろと視線を漂わせながら、ふたりの後ろに並べられた椅子に座っている。
「待たせたね。兄上たちはもう少しかかるようだから、先に始めちゃおうか」
そう言って入ってきたのはキリウスとアリアだ。
その後ろには三侯爵も続いている。
顔ぶれを見た宰相が、慌てて抗議の声をあげた。
「なぜあなた達まで! これは我が娘とアマデウス殿下の話でしょう?」
「だって俺は可愛い甥っ子が心配なんだもの」
キリウスがそう言うとメリディアン侯爵も声を出した。
「私も愛おしい娘が心配で心配で……」
「私も息子がちゃんとできるか、いてもたってもいられなくてね」
「私だってそうさ。娘は王太子妃の友人であり、王太子の幼馴染だよ? 心配は当然だ」
シラケた顔で親たちの言い分を聞いているアランとアリア。
必死で笑いを堪えているのはマリオだ。
当の親たちはシレッとした顔で、空いている椅子に遠慮なく座っていく。
ルルーシアが口を開く。
「カリス嬢、もう一度聞きます。あなたが殿下に暴言を吐いたのね?」
カリスの肩がビクッと震えた。
「だって……だってそうじゃないの! 星がきれいとか、あの星にはこんな伝説があるとか、そういうのは女性が好むものでしょう? 男性が趣味にするなんておかしいわよ!」
焦っているのか開き直ったのか、王族を前にして乱れた口調で言い返すカリス。
宰相が慌てて止めようとするが、三侯爵に睨まれて口を噤んだ。
「私はおかしいとは思わないし、だからといって人が大切にしていることを貶す理由にはならないわ。そのことで相手がどれほど傷つくか考えが及ばなかったの?」
「勝手に傷ついたんじゃないの! 私は本当のことを言っただけよ! 私は悪くないわ。パパもママもそう言ったもん! それなのに領地に行かされて、こっちこそ大迷惑よ」
ルルーシアが宰相の顔を見た。
慌てて目を伏せるダッキィ宰相。
「あなたの言い分はわかったわ。相手を慮ることなく、自分が本当だと信じていることを口にするのがあなたの正義なのね? それで誰が傷つこうが関係なく、その正義を振りかざすということね? 面白い考えね。では覚悟なさい」
「え……覚悟?」
「ええ、私もあなたの正義とやらを振りかざしてみようかなって思ってね」
ルルーシアが悪い顔で微笑んだ。
この顔を知っているのはアリアだけのようで、ルルーシア命のアマデウスさえ少し引いている。
「あなた、17歳だっけ? なんなのよ、その髪型は。ツインテールをして可愛いと思ってもらえるのは12歳までって相場が決まってんのよ?」
「え……」
「それに何? ふざけてるの? 今日のその格好。ドレスは良いものなのに、まるで似合ってない。あなたの顔の色なら薄紫は似合うはずなのに、ぜんぜん似合ってないわ。なぜかわかる? 紫色っていうのはね、知性がないと着こなせない難しい色だからよ。知性って言葉知ってる? intelligence! intelligenza! noimosyni! chisei! 物事を正しく判断する能力って意味よ。あなたいったい領地で何を今まで学んできたの?」
「だって……」
「聞こえないわ」
「だ、だって……」
「はっきりお言いなさいな」
「だって! 女は可愛ければそれで良いってパパが言ったもん! 可愛くさえしていれば王太子妃になれるって! 勉強しても生意気になるだけだからしなくて良いって言ったわ! あの生意気な女はすぐに追っ払ってやるからって。そうすればお前が王太子妃だって! 側妃はいるけど、仕事をさせるための道具だから、お前は贅沢して好きに暮らせばいいって言ったわ! 私は言われた通りにしただけだもん!」
ガタッと音をさせて立ち上がったのはアマデウスだった。
「あの生意気な女っていうのはルルーシアのことか?」
腹の底から出たような低い声で王太子が言った。
宰相が汗をだらだらと流している。
「ダッキィ。もう一度聞く。お前が言ったというあの生意気な女とは誰のことか?」
「王太子殿下……違います。誤解です。私はそのようなことは一言も……」
「そうか、娘の戯言と申すか。よしわかった、お前の娘に責任をとらせよう。捕えよ!」
「はっ!」
動いたのはアランとマリオだ。
王太子夫妻の前に座らされたのは、宰相とその娘カリスだ。
その妻と息子はきょろきょろと視線を漂わせながら、ふたりの後ろに並べられた椅子に座っている。
「待たせたね。兄上たちはもう少しかかるようだから、先に始めちゃおうか」
そう言って入ってきたのはキリウスとアリアだ。
その後ろには三侯爵も続いている。
顔ぶれを見た宰相が、慌てて抗議の声をあげた。
「なぜあなた達まで! これは我が娘とアマデウス殿下の話でしょう?」
「だって俺は可愛い甥っ子が心配なんだもの」
キリウスがそう言うとメリディアン侯爵も声を出した。
「私も愛おしい娘が心配で心配で……」
「私も息子がちゃんとできるか、いてもたってもいられなくてね」
「私だってそうさ。娘は王太子妃の友人であり、王太子の幼馴染だよ? 心配は当然だ」
シラケた顔で親たちの言い分を聞いているアランとアリア。
必死で笑いを堪えているのはマリオだ。
当の親たちはシレッとした顔で、空いている椅子に遠慮なく座っていく。
ルルーシアが口を開く。
「カリス嬢、もう一度聞きます。あなたが殿下に暴言を吐いたのね?」
カリスの肩がビクッと震えた。
「だって……だってそうじゃないの! 星がきれいとか、あの星にはこんな伝説があるとか、そういうのは女性が好むものでしょう? 男性が趣味にするなんておかしいわよ!」
焦っているのか開き直ったのか、王族を前にして乱れた口調で言い返すカリス。
宰相が慌てて止めようとするが、三侯爵に睨まれて口を噤んだ。
「私はおかしいとは思わないし、だからといって人が大切にしていることを貶す理由にはならないわ。そのことで相手がどれほど傷つくか考えが及ばなかったの?」
「勝手に傷ついたんじゃないの! 私は本当のことを言っただけよ! 私は悪くないわ。パパもママもそう言ったもん! それなのに領地に行かされて、こっちこそ大迷惑よ」
ルルーシアが宰相の顔を見た。
慌てて目を伏せるダッキィ宰相。
「あなたの言い分はわかったわ。相手を慮ることなく、自分が本当だと信じていることを口にするのがあなたの正義なのね? それで誰が傷つこうが関係なく、その正義を振りかざすということね? 面白い考えね。では覚悟なさい」
「え……覚悟?」
「ええ、私もあなたの正義とやらを振りかざしてみようかなって思ってね」
ルルーシアが悪い顔で微笑んだ。
この顔を知っているのはアリアだけのようで、ルルーシア命のアマデウスさえ少し引いている。
「あなた、17歳だっけ? なんなのよ、その髪型は。ツインテールをして可愛いと思ってもらえるのは12歳までって相場が決まってんのよ?」
「え……」
「それに何? ふざけてるの? 今日のその格好。ドレスは良いものなのに、まるで似合ってない。あなたの顔の色なら薄紫は似合うはずなのに、ぜんぜん似合ってないわ。なぜかわかる? 紫色っていうのはね、知性がないと着こなせない難しい色だからよ。知性って言葉知ってる? intelligence! intelligenza! noimosyni! chisei! 物事を正しく判断する能力って意味よ。あなたいったい領地で何を今まで学んできたの?」
「だって……」
「聞こえないわ」
「だ、だって……」
「はっきりお言いなさいな」
「だって! 女は可愛ければそれで良いってパパが言ったもん! 可愛くさえしていれば王太子妃になれるって! 勉強しても生意気になるだけだからしなくて良いって言ったわ! あの生意気な女はすぐに追っ払ってやるからって。そうすればお前が王太子妃だって! 側妃はいるけど、仕事をさせるための道具だから、お前は贅沢して好きに暮らせばいいって言ったわ! 私は言われた通りにしただけだもん!」
ガタッと音をさせて立ち上がったのはアマデウスだった。
「あの生意気な女っていうのはルルーシアのことか?」
腹の底から出たような低い声で王太子が言った。
宰相が汗をだらだらと流している。
「ダッキィ。もう一度聞く。お前が言ったというあの生意気な女とは誰のことか?」
「王太子殿下……違います。誤解です。私はそのようなことは一言も……」
「そうか、娘の戯言と申すか。よしわかった、お前の娘に責任をとらせよう。捕えよ!」
「はっ!」
動いたのはアランとマリオだ。
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