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 フェリシア侯爵が片方の口角だけを上げて言う。

「あの小者感はなかなかだね。あれなら逆に警戒しないんじゃない? しかもわざわざ目立つ髪色を選ぶなんてなぁ」

「小者感……まあその通りだが。それで? 今日の主役はお出ましになったか?」

 フロレンシア侯爵の声にロックス侯爵が答える。

「今更こんなことで動くことになるとは思わなかったから、少々手間取ったよ。まあそろそろ来るだろうぜ? 『パーティーで会いましょう』という手紙を握って、贈られたドレスを着てさ」

「この前からお前には散々悪党扱いされたが、お前が一番悪いじゃないか。イタイケなミコンのレイジョウを騙すなんてさ。送り主がまさかこんなおっさんとは思うまい?」

 フェリシア侯爵の声に、ロックス侯爵がニヤッと笑った。

「うちにも現役の未婚の令嬢がいるからな。俺がドレスを買っても怪しまれないだろ? 殿下の心的外傷の治療費だと思えば安いものさ」

「心的外傷か……そういえば、破産寸前のオケラ2匹は来ないのか?」

 メリディアン侯爵の質問に答えたのはフェリシア侯爵だ。

「何言ってんだ。お前が追い込みすぎるからだろ。可哀そうに、つい最近最後の馬車を手放したよ。まあ、買ったのは俺だけど。それに鉱山で軽い落盤があったらしくてさ、あっちもパーティーどころじゃないだろうぜ。タイミングの良いことだ」

 聞いていたふたりが同時に呟いた。

「えげつないなぁ」

 ニヤニヤと笑っていた三人が、同時に入口の方へ目を向けた。

「お出ましだぜ」

 入ってきたのは宰相と妻、そして兄にエスコートされた令嬢。

「よしよし! 予定通り贈ったドレスを着ているぞ」

 薄茶色の髪をツインテールに結び、品の良い薄紫色のドレスでシャラシャラと歩いている令嬢を見てクツクツと笑うロックス侯爵。
 
「おい、近寄って見物しようぜ」

 悪い顔でそう呟いたのはフェリシア侯爵だ。
 ほぼ同時に四人の側近たちも、王家が座る壇上の近くへと動きだした。

「そろそろ挨拶が始まるからお側で控えましょう」

 歩き出したアリアの背を見ながら、アランにこっそり聞くマリオ。

「アリアって修羅場好き?」

「ああ、親に似たのだと思う」

 アマデウス王太子の後ろにはアリアが立ち、その後ろにカレンが控える。
 体の大きな護衛騎士が並ぶと、カレンの姿は隠れてしまった。

「カレン、なるべく俯いていなさい」

 アリアがそう言うと、カレンは小さな声で返事をした。
 爵位の低いものから挨拶が始まり、まるで流れるように挨拶は続く。
 子爵の列が終わると伯爵家の者たちが進み出た。

 アマデウスもルルーシアも貴族全員の顔と名前、領地と特産品などの情報を頭に叩きこんでいるので、難なく挨拶を交わしていくが、並大抵の情報量ではない。
 後ろに立っているアランとマリオが感嘆の声を漏らすと、側に控えているエディ・オース卿が嬉しそうに微笑んだ。

「ルルーシア様は本当に勤勉な方ですよ。全部覚えるまではお好きな読書も控えられて努力をなさっていました」

 二人は納得したように何度も頷いている。

「あ……」

 伯爵家の最後は宰相一家だ。
 宰相が国王夫妻に挨拶をしているのを横目で見ていたアマデウスが声を出した。

「ルル……あの令嬢を知っている?」

 ルルがチラッと横に顔を向けた。

「あの方たちはダッキィ宰相のご一家ですわね。令嬢の名前は確かカリス嬢?」

「カリス……紫色のドレス……どうしたんだろう、急に汗が……学園でも何度か見かけたけれど、こんな事にはならなかったんだが」

「殿下? ご気分が悪いのでしたらお下がりになりますか?」

「いや、彼らが終わったら三大侯爵家だけだ。ルルの父上も来られるのに、失態は重ねられないよ」

「どうかご無理なさらず」

 そうこうしている間に、国王夫妻への挨拶を終えたダッキィ伯爵達が眼前に立った。

「アマデウス王太子殿下、そして妃殿下。本日はお招きいただき感謝いたします。こちらが妻のハンナ、息子のトニオでございます。そしてこれに控えておりますのが、娘のカリスでございます。卒業なさってからご尊顔を拝す機会もないと寂しがっておりました」

 アマデウスは頷くだけで精一杯のようだ。
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