56 / 77
56
しおりを挟む
アマデウスが見つけた星は新星だと認定され、新星認定書と発見者認定書、そして新星名登録完了書が送られてきた。
アリアはまだ秘密にしておけと言う。
「殿下、サプライズは誰にも悟られてはなりません」
「そうだね。ルルの誕生日に渡したいから、誰にも言わないでおこう」
相変わらずふたりがじっくりと話す時間はなかったが、毎日のお茶の時間は城にいる限り一緒に過ごしている。
アリアが行かないというので、カレンも来ることはできない。
泣きそうな顔で断るアリアを不憫に思ったアランが、こっそりメリディアンスイーツを取り分けて差し入れている。
なんだかんだと言い訳を作って、必ずと言ってよいほどティータイムに同席していたキリウスも、このところ忙しいのかやってこない日が多い。
観劇の誘いも減ったが同好会の活動はメンバー主導になり、むしろ活発化して参加人数も徐々に増えている。
こうした仕事や身分を越えた交流が発生しているのは、アマデウスが会長を務める天体観測クラブも同様で、予想よりはるかに多い老若男女が参加した。
他にもクラブを立ち上げたいという相談もあり、王宮内には良い雰囲気が流れていた。
そしてパーティー当日、衣裳の色味を合わせたアマデウスとルルーシアは、互いの色の宝石を飾り、国王夫妻とともに壇上に上がった。
「王弟殿下は不参加ですの?」
ルルーシアの声に王妃が答える。
「なんだか忙しいのですって。でも遅れても参加すると聞いているわ」
「左様ですか」
アマデウスが拗ねたような声を出した。
「叔父上がいないと寂しいの?」
クスリと笑ったルルーシアが、アマデウスの腕に添えた指先に少しだけ力を込める。
「ヤキモチですか?」
ルルーシアとしてはかなり思い切った発言だったが、秒で頷かれてしまい、顔に熱が集まった。
国王の挨拶と乾杯が終わり、貴族たちが談笑を始める。
侯爵令嬢として、いつもならドレスを着るアリアが、なぜか今日は側近の制服のままだった。
アリアが制服ならカレンも当然合わせる必要がある。
ふたりを挟むように立っているアランとマリオも制服だ。
「ねえ、アリア。今日はなぜドレスじゃないの?」
「だって動きにくいじゃない。ドレスってほとんど何も食べられないし」
まだ不満そうに唇を尖らせているカレンにマリオが聞いた。
「カレンってたくさんドレスを持ってるの? 実家に置いてあるのかい?」
カレンの表情が少し沈んだ。
「持ってないわ。学生時代のが二着あるだけよ。でももう働いているのだし、買えないことはないかなって……」
今度はアランが口を開く。
「ドレスって高いらしいぜ? それにカレンは給与のほとんどを返済に当てているんだろ? ドレスなんて買うだけ無駄さ」
カレンがムキになって言い返した。
「そんなのわかってるよ。でも私だって女の子なんだもん。たまには着飾りたいって思ってもバチは当たらないわ」
アリアが無表情のままで言う。
「基本的に貴族令嬢のドレスは、親か婚約者か恋人が用意するものよ。自分で買うというのはやめた方がいいわ」
「でも私にはドレスを買ってくれるような親や婚約者はいないもん。恋人だって……」
カレンがチラッとアマデウスを見たのを三人は見逃さなかった。
アリアが話を変える。
「殿下たちは今日もドレスを揃えているのね。あの色はルルに似合うからってアマデウス殿下がお選びになったの。とても素敵だわ」
アランが煽る。
「へぇ……殿下が?」
「ええ、そうよ。執務そっちのけでカタログを眺めているから、何度怒ったことか。本当にルルのことが好きでしょうがないって感じね」
カレンがボソッと言う。
「政略結婚なんだから気を遣っているだけじゃない?」
ちゃんと耳には届いたが、聞こえない振りで流す三人。
マリオが聞いた。
「ドレスってそんなに高いのか? 俺は残念ながらまだ誰にも贈ったことが無いんだ」
「そうなの? マリオってがっついてないから、てっきり婚約者がいるのだと思っていたわ」
アリアの声にマリオが答える。
「俺は次男だから、がっついて相手を探す必要はないんだよね。それに母方の実家の爵位を継ぐことになっているんだけれど、ばあさんがさぁ『マリオの嫁は私が決める』なんて言ってるみたいで、うちの両親も、そこはアンタッチャブルだし」
アランが意外そうな顔で言った。
「学園時代も彼女がいなかったのか?」
「そんなもんいたら鼻血を出すほど勉強なんてできないだろ? 俺は国王の側近になるのが夢だったんだ」
「じゃあ夢が叶ったってわけ?」
アリアの問いに頷くマリオ。
「そういうこと。バリバリ働いちゃうよ!」
不機嫌そうな顔で会話に参加しないカレンを、少し離れた場所から見ているのは三侯爵達だった。
アリアはまだ秘密にしておけと言う。
「殿下、サプライズは誰にも悟られてはなりません」
「そうだね。ルルの誕生日に渡したいから、誰にも言わないでおこう」
相変わらずふたりがじっくりと話す時間はなかったが、毎日のお茶の時間は城にいる限り一緒に過ごしている。
アリアが行かないというので、カレンも来ることはできない。
泣きそうな顔で断るアリアを不憫に思ったアランが、こっそりメリディアンスイーツを取り分けて差し入れている。
なんだかんだと言い訳を作って、必ずと言ってよいほどティータイムに同席していたキリウスも、このところ忙しいのかやってこない日が多い。
観劇の誘いも減ったが同好会の活動はメンバー主導になり、むしろ活発化して参加人数も徐々に増えている。
こうした仕事や身分を越えた交流が発生しているのは、アマデウスが会長を務める天体観測クラブも同様で、予想よりはるかに多い老若男女が参加した。
他にもクラブを立ち上げたいという相談もあり、王宮内には良い雰囲気が流れていた。
そしてパーティー当日、衣裳の色味を合わせたアマデウスとルルーシアは、互いの色の宝石を飾り、国王夫妻とともに壇上に上がった。
「王弟殿下は不参加ですの?」
ルルーシアの声に王妃が答える。
「なんだか忙しいのですって。でも遅れても参加すると聞いているわ」
「左様ですか」
アマデウスが拗ねたような声を出した。
「叔父上がいないと寂しいの?」
クスリと笑ったルルーシアが、アマデウスの腕に添えた指先に少しだけ力を込める。
「ヤキモチですか?」
ルルーシアとしてはかなり思い切った発言だったが、秒で頷かれてしまい、顔に熱が集まった。
国王の挨拶と乾杯が終わり、貴族たちが談笑を始める。
侯爵令嬢として、いつもならドレスを着るアリアが、なぜか今日は側近の制服のままだった。
アリアが制服ならカレンも当然合わせる必要がある。
ふたりを挟むように立っているアランとマリオも制服だ。
「ねえ、アリア。今日はなぜドレスじゃないの?」
「だって動きにくいじゃない。ドレスってほとんど何も食べられないし」
まだ不満そうに唇を尖らせているカレンにマリオが聞いた。
「カレンってたくさんドレスを持ってるの? 実家に置いてあるのかい?」
カレンの表情が少し沈んだ。
「持ってないわ。学生時代のが二着あるだけよ。でももう働いているのだし、買えないことはないかなって……」
今度はアランが口を開く。
「ドレスって高いらしいぜ? それにカレンは給与のほとんどを返済に当てているんだろ? ドレスなんて買うだけ無駄さ」
カレンがムキになって言い返した。
「そんなのわかってるよ。でも私だって女の子なんだもん。たまには着飾りたいって思ってもバチは当たらないわ」
アリアが無表情のままで言う。
「基本的に貴族令嬢のドレスは、親か婚約者か恋人が用意するものよ。自分で買うというのはやめた方がいいわ」
「でも私にはドレスを買ってくれるような親や婚約者はいないもん。恋人だって……」
カレンがチラッとアマデウスを見たのを三人は見逃さなかった。
アリアが話を変える。
「殿下たちは今日もドレスを揃えているのね。あの色はルルに似合うからってアマデウス殿下がお選びになったの。とても素敵だわ」
アランが煽る。
「へぇ……殿下が?」
「ええ、そうよ。執務そっちのけでカタログを眺めているから、何度怒ったことか。本当にルルのことが好きでしょうがないって感じね」
カレンがボソッと言う。
「政略結婚なんだから気を遣っているだけじゃない?」
ちゃんと耳には届いたが、聞こえない振りで流す三人。
マリオが聞いた。
「ドレスってそんなに高いのか? 俺は残念ながらまだ誰にも贈ったことが無いんだ」
「そうなの? マリオってがっついてないから、てっきり婚約者がいるのだと思っていたわ」
アリアの声にマリオが答える。
「俺は次男だから、がっついて相手を探す必要はないんだよね。それに母方の実家の爵位を継ぐことになっているんだけれど、ばあさんがさぁ『マリオの嫁は私が決める』なんて言ってるみたいで、うちの両親も、そこはアンタッチャブルだし」
アランが意外そうな顔で言った。
「学園時代も彼女がいなかったのか?」
「そんなもんいたら鼻血を出すほど勉強なんてできないだろ? 俺は国王の側近になるのが夢だったんだ」
「じゃあ夢が叶ったってわけ?」
アリアの問いに頷くマリオ。
「そういうこと。バリバリ働いちゃうよ!」
不機嫌そうな顔で会話に参加しないカレンを、少し離れた場所から見ているのは三侯爵達だった。
2,834
お気に入りに追加
4,959
あなたにおすすめの小説
業腹
ごろごろみかん。
恋愛
夫に蔑ろにされていた妻、テレスティアはある日夜会で突然の爆発事故に巻き込まれる。唯一頼れるはずの夫はそんな時でさえテレスティアを置いて、自分の大切な主君の元に向かってしまった。
置いていかれたテレスティアはそのまま階段から落ちてしまい、頭をうってしまう。テレスティアはそのまま意識を失いーーー
気がつくと自室のベッドの上だった。
先程のことは夢ではない。実際あったことだと感じたテレスティアはそうそうに夫への見切りをつけた
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
【悪女】の次は【意地悪な継母】のようです。
ごろごろみかん。
恋愛
旦那様は、私の言葉を全て【女の嫉妬】と片付けてしまう。
正当な指摘も、注意も、全て無視されてしまうのだ。
忍耐の限界を試されていた伯爵夫人ルナマリアは、夫であるジェラルドに提案する。
「もうやめましょう。お互いの幸せのためにも、私たちは解放されるべきです」と。
──悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。
最後に報われるのは誰でしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。
「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。
限界なのはリリアの方だったからだ。
なので彼女は、ある提案をする。
「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。
リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。
「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」
リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。
だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。
そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる