上 下
49 / 77

49

しおりを挟む
 そのまま自宅に残ったアリアに別れを告げ、アランとマリオは官舎へと向かった。
 途中で昼食をとろうということになり、大通りを見下ろせるステーキハウスに入った二人。

「おい、あれ……」

 アランの声にマリオが顔を向ける。

「あれは……ルルーシア様とレイダー卿と、ああキリウス殿下もいるな。あの後ろは?」

「アマデウス殿下だな」

 大通りで馬車から降りたキース・レイダーにエスコートされて歩き出したルルーシアの後を、護衛騎士を引き連れたアマデウスが追っている。
 本人は隠れているつもりなのだろうが、怪しい動きがかえって悪目立ちしている。

「止めましょう」

「どっちを?」

「あぁ……どっちも?」

「王弟殿下が甥の嫁をオペラに連れて行っているだけだ。劇作家であるレイダー卿が解説でもするんだろうと人は見るさ。それにエディもぴったりくっついているだろう?」

 アランの声に頷くマリオ。

「殿下の方は?」

「……ここにお連れするから、個室を抑えておいてくれ」

 ふたりはほぼ同時に動きだした。
 二階席の奥にある個室に連れ込まれたアマデウスは、思い切り頬を膨らませている。

「なぜ邪魔をする! アランもマリオもどういうつもりだ。それにルルの側近であるお前たちが一緒じゃないとはなんたる怠慢だ」

「俺ら休暇なんで」

「まあ……それはそうだが。ではルルは誰が守る? まさか叔父上とか言わないよな」

「エディがついてました」

「あ……ああ、そうだな。うん」

「殿下、お食事は我々と同じでよろしいですか?」

 アマデウスが不機嫌を隠そうともしない声を出す。

「食事などしている場合じゃないよ。ルルが……」

「大丈夫です。あの劇場は王室専用ルームがありますからね。そこで軽食や飲み物が出ます」

「お前たち……詳しいな」

 三人分の食事が運ばれてきた。
 給仕が退出するのを確認して口を開いたのはアランだ。

「殿下、正直にお答えください。先日サマンサが殿下との件を話しましたよね? 私の記憶とは随分違っていたのですが、殿下はどう思われましたか?」

「ああ、私も随分違うなとは思ったよ。でも彼女としては自分の立場を守りたかったのだろう? まあ結果は同じだったのだし、アランもアリアも反論しなかったからそのまま流した」

 マリオがステーキを切る手を止めた。

「どこら辺りが違ったのです?」

 アマデウスが口に入れた肉を飲み下してから言う。

「時系列がなぁ。初めてサマンサからあの話を聞いたのは、ルルが登校して三日目だったと思う。休んだんだよね、ルルが。その昼休みで、アランも一緒にいたよね?」

「はい」

「帰りにルルを見舞うようにアランに言われたけれど、僕は王宮に帰ってどうにか金を作る事ばかり考えていて……ああ、そうだ。財務部に行って僕が所有している領地の評価額を見ていたら、宰相が声を掛けてきたんだ」

「宰相閣下ですか」

「うん、何をしているのかと聞かれたから、急いで5億ルぺ必要なんだと言ったら、ルルの大好きなトール領を売るように進言してきた。僕が躊躇すると、他の領地は大き過ぎてすぐには売れないし、ここならルルのために買い戻そうって頑張れるんじゃないかって言われてさぁ。それもそうかなって」

 マリオがハハハと乾いた笑いを溢した。

「それで執務室に戻ってアランに領地を買ってくれそうな人はいないかって相談したら、すぐに動いてくれて、アランの親父さんが購入してくれることになったんだ。フェリシア侯爵なら買い戻す相談もしやすいし、即金で用意すると言ってくれたから、全部解決って思ったんだよね」

 マリオがアランの顔を見て『ナイスサポート』と言いながらサムズアップしてみせる。

「アランが契約書のことでバタバタしている時に……その日の夕方だったかな。宰相が執務室にやってきて、サマンサを側妃に召し上げろって言ったんだよ。僕は側妃は必要ない、好きなのはルルだけだと言ったんだけど、5億払っても籍を抜かなくてはまたどこかに売られるって忠告してくれて、僕が啞然としている間に父上と母上を説得していてさあ」

 マリオが呆れた顔をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰がための香り【R18】

象の居る
恋愛
オオカミ獣人のジェイクは疫病の後遺症で嗅覚をほぼ失って以来、死んだように生きている。ある日、奴隷商の荷馬車からなんともいえない爽やかな香りがした。利かない鼻に感じる香りをどうしても手に入れたくて、人間の奴隷リディアを買い取る。獣人の国で見下される人間に入れこみ、自分の価値観と感情のあいだで葛藤するジェイクと獣人の恐ろしさを聞いて育ったリディア。2人が歩み寄り始めたころ、後遺症の研究にリディアが巻き込まれる。 初期のジェイクは自分勝手です。 人間を差別する言動がでてきます。 表紙はAKIRA33*📘(@33comic)さんです。

process(0)

おくむらなをし
青春
下村ミイナは、高校1年生。 進路希望調査票を紙飛行機にして飛ばしたら、担任の高島先生の後頭部に刺さった。 生徒指導室でお叱りを受け、帰ろうとして開けるドアを間違えたことで、 彼女の人生は大きく捻じ曲がるのであった。 ◇この物語はフィクションです。全30話、完結済み。 ◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。

13番目の苔王子に嫁いだらめっちゃ幸せになりました

花月
恋愛
わたしはアリシア=ヘイストン18歳。侯爵家の令嬢だ。跡継ぎ競争に敗れ、ヘイストン家を出なければならなくなった。その為に父親がお膳立てしたのはこの国の皇子との婚姻だが、何と13番目で名前も顔を分からない。そんな皇子に輿入れしたがいいけれど、出迎えにくる皇子の姿はなし。そして新婚宅となるのは苔に覆われた【苔城】で従業員はほんの数人。 はたしてわたしは幸せな結婚生活を送ることが出来るのだろうか――!?  *【sideA】のみでしたら健全ラブストーリーです。  綺麗なまま終わりたい方はここまでをお勧めします。 (注意です!) *【sideA】は健全ラブストーリーですが【side B】は異なります。 因みに【side B】は【side A】の話の違った面から…弟シャルルの視点で始まります。 ドロドロは嫌、近親相姦的な物は嫌、また絶対ほのぼの恋愛が良いと思う方は特にどうぞお気を付けください。 ブラウザバックか、そっとじでお願いしますm(__)m

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

初恋ガチ勢

あおみなみ
キャラ文芸
「ながいながい初恋の物語」を、毎日1~3話ずつ公開予定です。  

こちら救世の魔女です。成長した弟子が私のウェディングドレスをつくっているなんて聞いていません。

雨宮羽那
恋愛
 私、リラは国一番の魔女。  世界を救って15年振りに目が覚めたら、6歳だった私の可愛い弟子が、ミシンをカタカタさせながら私のウェディングドレスを作っていました。  挙句、「師匠が目覚めるのを待っていました」「僕と結婚してください」と迫ってくる始末。  無理。無理だから!  たとえ21歳の美青年で私の好みに成長していようと、私にとっては可愛い愛弟子。あなたの想いには応えられないので溺愛してこないでください!  15年ぶりの弟子との生活(アプローチ付き)に慣れたと思ったのもつかの間、今度は元婚約者の王太子(現国王)が現れて……? ◇◇◇◇ ※カクヨム様に同タイトルで中編版がありますが、微妙に異なる部分があります。 ※こちらのver.は10万字前後予定の長編です。 ※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」様にも掲載予定です。(アルファポリス先行)

Owl's Anima

おくむらなをし
SF
◇戦闘シーン等に残酷な描写が含まれます。閲覧にはご注意ください。 高校生の沙織は、4月の始業式の日に、謎の機体の墜落に遭遇する。 そして、すべての大切な人を失う。 沙織は、地球の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。 ◇この物語はフィクションです。全29話、完結済み。

責任取って!

鬼龍院美沙子
恋愛
未亡人になり身寄りがなくなり1人暮らしを続けてる女。 男との秘め事は何十年もない!アダルト動画に妄想が走る。

処理中です...