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 そのまま自宅に残ったアリアに別れを告げ、アランとマリオは官舎へと向かった。
 途中で昼食をとろうということになり、大通りを見下ろせるステーキハウスに入った二人。

「おい、あれ……」

 アランの声にマリオが顔を向ける。

「あれは……ルルーシア様とレイダー卿と、ああキリウス殿下もいるな。あの後ろは?」

「アマデウス殿下だな」

 大通りで馬車から降りたキース・レイダーにエスコートされて歩き出したルルーシアの後を、護衛騎士を引き連れたアマデウスが追っている。
 本人は隠れているつもりなのだろうが、怪しい動きがかえって悪目立ちしている。

「止めましょう」

「どっちを?」

「あぁ……どっちも?」

「王弟殿下が甥の嫁をオペラに連れて行っているだけだ。劇作家であるレイダー卿が解説でもするんだろうと人は見るさ。それにエディもぴったりくっついているだろう?」

 アランの声に頷くマリオ。

「殿下の方は?」

「……ここにお連れするから、個室を抑えておいてくれ」

 ふたりはほぼ同時に動きだした。
 二階席の奥にある個室に連れ込まれたアマデウスは、思い切り頬を膨らませている。

「なぜ邪魔をする! アランもマリオもどういうつもりだ。それにルルの側近であるお前たちが一緒じゃないとはなんたる怠慢だ」

「俺ら休暇なんで」

「まあ……それはそうだが。ではルルは誰が守る? まさか叔父上とか言わないよな」

「エディがついてました」

「あ……ああ、そうだな。うん」

「殿下、お食事は我々と同じでよろしいですか?」

 アマデウスが不機嫌を隠そうともしない声を出す。

「食事などしている場合じゃないよ。ルルが……」

「大丈夫です。あの劇場は王室専用ルームがありますからね。そこで軽食や飲み物が出ます」

「お前たち……詳しいな」

 三人分の食事が運ばれてきた。
 給仕が退出するのを確認して口を開いたのはアランだ。

「殿下、正直にお答えください。先日サマンサが殿下との件を話しましたよね? 私の記憶とは随分違っていたのですが、殿下はどう思われましたか?」

「ああ、私も随分違うなとは思ったよ。でも彼女としては自分の立場を守りたかったのだろう? まあ結果は同じだったのだし、アランもアリアも反論しなかったからそのまま流した」

 マリオがステーキを切る手を止めた。

「どこら辺りが違ったのです?」

 アマデウスが口に入れた肉を飲み下してから言う。

「時系列がなぁ。初めてサマンサからあの話を聞いたのは、ルルが登校して三日目だったと思う。休んだんだよね、ルルが。その昼休みで、アランも一緒にいたよね?」

「はい」

「帰りにルルを見舞うようにアランに言われたけれど、僕は王宮に帰ってどうにか金を作る事ばかり考えていて……ああ、そうだ。財務部に行って僕が所有している領地の評価額を見ていたら、宰相が声を掛けてきたんだ」

「宰相閣下ですか」

「うん、何をしているのかと聞かれたから、急いで5億ルぺ必要なんだと言ったら、ルルの大好きなトール領を売るように進言してきた。僕が躊躇すると、他の領地は大き過ぎてすぐには売れないし、ここならルルのために買い戻そうって頑張れるんじゃないかって言われてさぁ。それもそうかなって」

 マリオがハハハと乾いた笑いを溢した。

「それで執務室に戻ってアランに領地を買ってくれそうな人はいないかって相談したら、すぐに動いてくれて、アランの親父さんが購入してくれることになったんだ。フェリシア侯爵なら買い戻す相談もしやすいし、即金で用意すると言ってくれたから、全部解決って思ったんだよね」

 マリオがアランの顔を見て『ナイスサポート』と言いながらサムズアップしてみせる。

「アランが契約書のことでバタバタしている時に……その日の夕方だったかな。宰相が執務室にやってきて、サマンサを側妃に召し上げろって言ったんだよ。僕は側妃は必要ない、好きなのはルルだけだと言ったんだけど、5億払っても籍を抜かなくてはまたどこかに売られるって忠告してくれて、僕が啞然としている間に父上と母上を説得していてさあ」

 マリオが呆れた顔をした。
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