48 / 77
48
しおりを挟む
側近たちが協力して準備万端整えたお陰で、滞りなくロマニア国との会議は終了し、大きな行事を無事に終えた褒美として、王太子夫妻と側近たちは三日間の休暇を賜った。
さっそく実家に戻ったアリアが父親に捲し立てた。
「どうやら変な欲が出てきたみたい。でもまだ具体的には動かないわ。早く処理しないとメリディアンスイーツが思う存分食べられないのに!」
「思ったより行動が遅いな。お前が相当牽制していたんだろう」
「牽制って言うか、ふたりになるチャンスをつぶしていただけよ。あっちの動きは?」
「怪しさ満載だが、証拠なしってところだ」
話しているところに私服のアランとマリオがやってきた。
「ご苦労だな。掴めたか?」
「ええ、このところ頻繫に「ばったり出会って立ち話」をしているようです」
そう言ったアランにアリアが聞く。
「この休暇でカレンは養子家に行かなくちゃいけないようにしたから、動くならその後だと思うわ」
マリオが呆れた声を出した。
「かなり良くできたストーリーだったけれど、ふたりはすぐに齟齬に気づいたんでしょ? 俺もおかしいとは思ったんだよね。だって王太子の動きが早すぎるもの。協力者がいないと絶対に無理だよ」
ロックス侯爵が笑いながら言った。
「そりゃそうさ。自分の領地を売ろうとした王太子に「側妃にするのが一番良い」と助言した奴が全て段取りしてから誘いこんだんだもの」
「そこまでしてルルーシア様との仲を裂きたかったってことですよね」
ロックス侯爵の呆れたような声に、マリオが顔を向けた。
「自分の娘をねじ込む魂胆だろうが、最初は欲が無かったサマンサ……いや、今はカレンも、ズルいことを考え始めたんだろうな。でもまだ迷いがあるのか動きが中途半端だよ」
アリアが頷く。
「うん。彼女はふたりが両片思いって知らないからね。ホントにじれったいわ」
「夜会でも変な動きをしてたもんな。さっさと動いてくれたら、こちらもやりようがあるが、視線を飛ばすだけじゃ咎めようがない」
マリオが呆れたような声で言った。
「まあ殿下はまったく気付いていなかったけどね。それに彼女がどんなに頑張ってもルルーシア様とアリアに挟まれたんじゃ、大輪のバラの横に咲くぺんぺん草にしかなれないさ」
アランが珍しく辛辣な言葉を吐いた。
眉を下げて笑ったアリアが続ける。
「そう言えば見た? 宰相のところの娘。あの子は本当に昔から変わらないわよね」
マリオが頷く。
「うん、本当に変わらない。あの子もアマデウス殿下の正妃候補だったんだろ?」
「そうよ。でも彼女はなぜか嫌がって辞退したのよね。宰相が慌てて取り消したけれど、後の祭りよ」
「身分で言えば君も候補じゃなかったの?」
「私は一人娘だから最初から枠外だったわ」
「なるほど……」
ロックス侯爵が苦々しい顔をした。
「まだ諦めていなかったとはな」
アランが肩を竦める。
「フェリシア家の調査では、正妃の仕事は無理だと判断した結果が今回の動きのようです」
ロックス侯爵が溜息を吐いた。
「まずは殿下と噂のあった優秀な女子生徒を側妃にさせ、ルルちゃんと殿下の仲を裂くと同時に、我が娘を後釜にという筋書だろうが、なんともお粗末だよ。小者だが真面目に働くならそっとしておくつもりだったのに」
マリオがロックスに聞いた。
「そもそもサマンサは目をつけられていたという事ですか?」
「そこはニワトリが先かタマゴが先かだが、おそらく殿下と仲のよい女子生徒がいるという噂を聞きつけて、利用できると思ったのだろうな。だから陰で変態に彼女を売り込んだのだろうさ。そしてあのクソ親がそれに乗った」
「しかし、それだけでサマンサが思うように動いたとは……ああ、なるほど。偶然を装って少しずつ誘導していったということですか。では今王宮で頻繫に「ばったり出会って立ち話」というのも指示出し?」
アリアが頷いた。
「そういうこと。でもね、ふたりの会話を聞いたキャロが言っていたけれど、宰相はサマンサは本当に死んだって思っているみたい。バカなんじゃない?わざわざ目立つ髪色に誘導したっていうのに、お構いなしだもの。サマンサは諦めて、カレンを釣ろうとしているようだって聞いたわ」
「マジか……確かに良く化けてはいるけれど、普通分かるだろ?」
アランがアリアを見る。
「彼女は乗るかな」
「乗ってくれないと計画がパァよ。苦労して泳がせているのに」
「乗る前にこちらにタレこむってこともあるんじゃない?」
マリオが希望的見解を述べた。
「それなら情状酌量の余地はあるけれど、乗るなら殺す」
ひゅっという音がマリオの口から洩れる。
あとの三人は平然とした顔をしていた。
さっそく実家に戻ったアリアが父親に捲し立てた。
「どうやら変な欲が出てきたみたい。でもまだ具体的には動かないわ。早く処理しないとメリディアンスイーツが思う存分食べられないのに!」
「思ったより行動が遅いな。お前が相当牽制していたんだろう」
「牽制って言うか、ふたりになるチャンスをつぶしていただけよ。あっちの動きは?」
「怪しさ満載だが、証拠なしってところだ」
話しているところに私服のアランとマリオがやってきた。
「ご苦労だな。掴めたか?」
「ええ、このところ頻繫に「ばったり出会って立ち話」をしているようです」
そう言ったアランにアリアが聞く。
「この休暇でカレンは養子家に行かなくちゃいけないようにしたから、動くならその後だと思うわ」
マリオが呆れた声を出した。
「かなり良くできたストーリーだったけれど、ふたりはすぐに齟齬に気づいたんでしょ? 俺もおかしいとは思ったんだよね。だって王太子の動きが早すぎるもの。協力者がいないと絶対に無理だよ」
ロックス侯爵が笑いながら言った。
「そりゃそうさ。自分の領地を売ろうとした王太子に「側妃にするのが一番良い」と助言した奴が全て段取りしてから誘いこんだんだもの」
「そこまでしてルルーシア様との仲を裂きたかったってことですよね」
ロックス侯爵の呆れたような声に、マリオが顔を向けた。
「自分の娘をねじ込む魂胆だろうが、最初は欲が無かったサマンサ……いや、今はカレンも、ズルいことを考え始めたんだろうな。でもまだ迷いがあるのか動きが中途半端だよ」
アリアが頷く。
「うん。彼女はふたりが両片思いって知らないからね。ホントにじれったいわ」
「夜会でも変な動きをしてたもんな。さっさと動いてくれたら、こちらもやりようがあるが、視線を飛ばすだけじゃ咎めようがない」
マリオが呆れたような声で言った。
「まあ殿下はまったく気付いていなかったけどね。それに彼女がどんなに頑張ってもルルーシア様とアリアに挟まれたんじゃ、大輪のバラの横に咲くぺんぺん草にしかなれないさ」
アランが珍しく辛辣な言葉を吐いた。
眉を下げて笑ったアリアが続ける。
「そう言えば見た? 宰相のところの娘。あの子は本当に昔から変わらないわよね」
マリオが頷く。
「うん、本当に変わらない。あの子もアマデウス殿下の正妃候補だったんだろ?」
「そうよ。でも彼女はなぜか嫌がって辞退したのよね。宰相が慌てて取り消したけれど、後の祭りよ」
「身分で言えば君も候補じゃなかったの?」
「私は一人娘だから最初から枠外だったわ」
「なるほど……」
ロックス侯爵が苦々しい顔をした。
「まだ諦めていなかったとはな」
アランが肩を竦める。
「フェリシア家の調査では、正妃の仕事は無理だと判断した結果が今回の動きのようです」
ロックス侯爵が溜息を吐いた。
「まずは殿下と噂のあった優秀な女子生徒を側妃にさせ、ルルちゃんと殿下の仲を裂くと同時に、我が娘を後釜にという筋書だろうが、なんともお粗末だよ。小者だが真面目に働くならそっとしておくつもりだったのに」
マリオがロックスに聞いた。
「そもそもサマンサは目をつけられていたという事ですか?」
「そこはニワトリが先かタマゴが先かだが、おそらく殿下と仲のよい女子生徒がいるという噂を聞きつけて、利用できると思ったのだろうな。だから陰で変態に彼女を売り込んだのだろうさ。そしてあのクソ親がそれに乗った」
「しかし、それだけでサマンサが思うように動いたとは……ああ、なるほど。偶然を装って少しずつ誘導していったということですか。では今王宮で頻繫に「ばったり出会って立ち話」というのも指示出し?」
アリアが頷いた。
「そういうこと。でもね、ふたりの会話を聞いたキャロが言っていたけれど、宰相はサマンサは本当に死んだって思っているみたい。バカなんじゃない?わざわざ目立つ髪色に誘導したっていうのに、お構いなしだもの。サマンサは諦めて、カレンを釣ろうとしているようだって聞いたわ」
「マジか……確かに良く化けてはいるけれど、普通分かるだろ?」
アランがアリアを見る。
「彼女は乗るかな」
「乗ってくれないと計画がパァよ。苦労して泳がせているのに」
「乗る前にこちらにタレこむってこともあるんじゃない?」
マリオが希望的見解を述べた。
「それなら情状酌量の余地はあるけれど、乗るなら殺す」
ひゅっという音がマリオの口から洩れる。
あとの三人は平然とした顔をしていた。
2,545
お気に入りに追加
4,913
あなたにおすすめの小説
「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。
ごろごろみかん。
恋愛
旦那様は、私の言葉を全て【女の嫉妬】と片付けてしまう。
正当な指摘も、注意も、全て無視されてしまうのだ。
忍耐の限界を試されていた伯爵夫人ルナマリアは、夫であるジェラルドに提案する。
──悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる