45 / 77
45
しおりを挟む
アランは素早くメモを書き、アリアへ渡すようにマリオに託した。
「殿下の耳に入れるかどうかはアリアの判断だ」
「わかった」
ルルーシアがキャロラインを呼んで出掛けることを告げる。
「まあ! オペラでございますか。楽しみですねぇ、華やかな装いになさいますか?」
「あまり目立たない方が良いから、地味な感じでお願い」
「残念ですが承知しました」
「アランもマリオも着替えてね」
「はい」
ルルーシアが護衛のエディを連れて執務室を出ると、アリアにメモを渡しに行っていたマリオが入れ違いに戻ってきた。
「仕事に支障が出ると拙いから言わないって。でもアリア、完全に面白がってるね」
「そうだろうな。悪い顔して笑っているのが目に浮かぶよ。あいつはルルーシア様以外には塩対応だからな」
「じゃあ俺たちも着替えてきますか」
「そうしよう。妃殿下もすでに支度に行かれた」
マリオがアランに顔を寄せる。
「それにしてもキリウスの旦那、ノリノリだなぁ」
それには返事をせず、アランが二度目の溜息を吐いた。
その日ルルーシアたちが王宮に戻ったのは夜の10時を過ぎていたが、アマデウスとアリアはまだ会議から戻っていなかった。
ルルーシアを部屋に送った後、アランとマリオは側近の制服に着替えて王太子の執務室へ向かう。
待つこと数分で戻ってきたアマデウスとアリアは疲れ切っていたが、2人の顔を見て安心したような表情を浮かべた。
「助かった! 今からこれを全部整理するのかと思ったら眩暈を起こしそうだったのよ」
アランがアリアから書類を受け取りながら言う。
「手伝うよ。指示を頼む」
マリオが言う。
「後は私たちでやりますから殿下はお休みになってください」
「いや、そうはいかない。それに実は夕食もまだなんだ。君たちは済ませただろうけれど、少し付き合わないか?」
頷いたマリオが専属のメイドに軽食の準備を命じた。
「ルルは? もう休んだかな?」
「……はい、妃殿下はすでにお休みになっています」
「そうか。ルルはずっと頑張ってきたんだもの。ここは僕が頑張らないとね。それにしてもやたらと夜遅くなる会議が多くない? ルルを起こすこともできないし……」
ブツブツと文句を言うアマデウスをまるっと無視してアリアが書類を分けながらテーブルに並べていく。
「さあ、早く寝たかったらさっさと片づけましょう。アランはこれをお願い。マリオはこっちね。殿下と私は備忘録を作ります」
軽食が来るまでの間も惜しんで4人が仕事を始めたころ、ルルーシアはたっぷりの湯に体を鎮めていた。
「妃殿下、どうでしたか?」
ルルーシアの髪を洗いながらキャロラインが聞く。
「素晴らしかったわ。もっと他の舞台も観たいって思ったもの。なぜ今まで一度も行かなかったのかしら。勿体ないことをしたわ」
「これからお楽しみになればよろしいではありませんか」
「ええ、キリウス殿下もまた誘ってくださると仰っていたし、私ももっと深く知りたいって思ったわ」
「明日は図書室へ行かれますか? 王宮の図書室でしたら演劇の本も揃っているかもしれませんし」
「そうね、明日は午前中は何もなかったはずだからそうしようかしら」
興奮冷めやらぬルルーシアは、いつになく良く喋る。
相槌を打ちながら、キャロラインは幸せそうなルルーシアに満足していた。
いつものようにアマデウスと一緒に朝食をとったルルーシアは、まっすぐ図書室に向かった。
従うのはアランと護衛のエディだ。
雑務が残っていると言って執務室に向かったマリオをキリウスが呼び止めた。
「王太子妃のご機嫌は如何かな?」
「おはようございます、殿下。それはもう上々ですよ。相当楽しまれたご様子です」
「それは良かった。彼女は執務室かな?」
「いえ、妃殿下は午後からの執務ですので、午前中は図書室へ向かわれました」
「図書室か……なるほど」
フッと笑ったキリウスが、マリオの肩をポンと叩いた。
「側近試験は来週だっけ?」
「はい、週明けの午前10時からです」
「あの狸娘は大丈夫かねぇ。もし落ちたらとても面倒なことになる」
「……どうでしょうか。自信はあるような事を言っていたと聞いていますが」
「まあ2回目だもんね。他の受験者より有利だ」
「そうですね。健闘を祈るばかりです」
キリウスがニヤッと笑った。
「君はとても素直でいい子だ。じゃあまたね」
マリオは何を示唆されたのか分からないまま、小首を傾げながら執務室へと入っていった。
「殿下の耳に入れるかどうかはアリアの判断だ」
「わかった」
ルルーシアがキャロラインを呼んで出掛けることを告げる。
「まあ! オペラでございますか。楽しみですねぇ、華やかな装いになさいますか?」
「あまり目立たない方が良いから、地味な感じでお願い」
「残念ですが承知しました」
「アランもマリオも着替えてね」
「はい」
ルルーシアが護衛のエディを連れて執務室を出ると、アリアにメモを渡しに行っていたマリオが入れ違いに戻ってきた。
「仕事に支障が出ると拙いから言わないって。でもアリア、完全に面白がってるね」
「そうだろうな。悪い顔して笑っているのが目に浮かぶよ。あいつはルルーシア様以外には塩対応だからな」
「じゃあ俺たちも着替えてきますか」
「そうしよう。妃殿下もすでに支度に行かれた」
マリオがアランに顔を寄せる。
「それにしてもキリウスの旦那、ノリノリだなぁ」
それには返事をせず、アランが二度目の溜息を吐いた。
その日ルルーシアたちが王宮に戻ったのは夜の10時を過ぎていたが、アマデウスとアリアはまだ会議から戻っていなかった。
ルルーシアを部屋に送った後、アランとマリオは側近の制服に着替えて王太子の執務室へ向かう。
待つこと数分で戻ってきたアマデウスとアリアは疲れ切っていたが、2人の顔を見て安心したような表情を浮かべた。
「助かった! 今からこれを全部整理するのかと思ったら眩暈を起こしそうだったのよ」
アランがアリアから書類を受け取りながら言う。
「手伝うよ。指示を頼む」
マリオが言う。
「後は私たちでやりますから殿下はお休みになってください」
「いや、そうはいかない。それに実は夕食もまだなんだ。君たちは済ませただろうけれど、少し付き合わないか?」
頷いたマリオが専属のメイドに軽食の準備を命じた。
「ルルは? もう休んだかな?」
「……はい、妃殿下はすでにお休みになっています」
「そうか。ルルはずっと頑張ってきたんだもの。ここは僕が頑張らないとね。それにしてもやたらと夜遅くなる会議が多くない? ルルを起こすこともできないし……」
ブツブツと文句を言うアマデウスをまるっと無視してアリアが書類を分けながらテーブルに並べていく。
「さあ、早く寝たかったらさっさと片づけましょう。アランはこれをお願い。マリオはこっちね。殿下と私は備忘録を作ります」
軽食が来るまでの間も惜しんで4人が仕事を始めたころ、ルルーシアはたっぷりの湯に体を鎮めていた。
「妃殿下、どうでしたか?」
ルルーシアの髪を洗いながらキャロラインが聞く。
「素晴らしかったわ。もっと他の舞台も観たいって思ったもの。なぜ今まで一度も行かなかったのかしら。勿体ないことをしたわ」
「これからお楽しみになればよろしいではありませんか」
「ええ、キリウス殿下もまた誘ってくださると仰っていたし、私ももっと深く知りたいって思ったわ」
「明日は図書室へ行かれますか? 王宮の図書室でしたら演劇の本も揃っているかもしれませんし」
「そうね、明日は午前中は何もなかったはずだからそうしようかしら」
興奮冷めやらぬルルーシアは、いつになく良く喋る。
相槌を打ちながら、キャロラインは幸せそうなルルーシアに満足していた。
いつものようにアマデウスと一緒に朝食をとったルルーシアは、まっすぐ図書室に向かった。
従うのはアランと護衛のエディだ。
雑務が残っていると言って執務室に向かったマリオをキリウスが呼び止めた。
「王太子妃のご機嫌は如何かな?」
「おはようございます、殿下。それはもう上々ですよ。相当楽しまれたご様子です」
「それは良かった。彼女は執務室かな?」
「いえ、妃殿下は午後からの執務ですので、午前中は図書室へ向かわれました」
「図書室か……なるほど」
フッと笑ったキリウスが、マリオの肩をポンと叩いた。
「側近試験は来週だっけ?」
「はい、週明けの午前10時からです」
「あの狸娘は大丈夫かねぇ。もし落ちたらとても面倒なことになる」
「……どうでしょうか。自信はあるような事を言っていたと聞いていますが」
「まあ2回目だもんね。他の受験者より有利だ」
「そうですね。健闘を祈るばかりです」
キリウスがニヤッと笑った。
「君はとても素直でいい子だ。じゃあまたね」
マリオは何を示唆されたのか分からないまま、小首を傾げながら執務室へと入っていった。
2,416
お気に入りに追加
4,915
あなたにおすすめの小説
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【本編完結】記憶をなくしたあなたへ
ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。
私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。
あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。
私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。
もう一度信じることができるのか、愛せるのか。
2人の愛を紡いでいく。
本編は6話完結です。
それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる