上 下
43 / 77

43

しおりを挟む
 目覚めたサマンサが、ここがどこかを思い出そうとしていた時、部屋の隅に控えていたメイドが声を掛けてきた。

「カレン様、私がご滞在中のお用を承りますメイドのアンでございます。どうぞよろしくお願いいたします」

(カレン……ああ、カレンね。カレンよ、カレン)

「こちらこそよろしくお願いします」

「お夕食はお部屋でと聞いておりますが、お湯あみを先になさいますか?」

「ええ、先にお湯を使いたいです。食事はその後で結構です」

「畏まりました」

 メイドが部屋を出るのを確認したサマンサは、クローゼットやサイドボードの中を確認して回った。
 クローゼットにはドレスは無いが、色とりどりのワンピースと靴が揃っている。
 サイドボードの中には持ってきた資料が詰まっており、ライティングデスクには筆記用具が揃っていた。

「至れり尽くせりってこのことだわ」

 ふと見ると、窓の外に王都の街灯りが煌めいている。

「メントールで見た星空みたいにきれいね」

 あの日、窓から身を乗り出して夜空を眺めているアマデウスがサマンサの部屋から見えた。
 月明かりに照らされた金色の髪が風になびき、サマンサは初めてアマデウスを美しいと感じると同時に、手放すのが惜しいと思っている自分に気付いた。

「今更よね……でも学園の頃のような行動にでるならチャンスはあるわ。まあアマデウス様は政略結婚の相手を愛そうと努力してるって感じだったけれど、あの方のいう通りルルーシア様のお心は離れつつあるもの」

 ふたりは政略結婚で愛は無いのだと聞かされているサマンサにとって、アマデウスとルルーシアは互いに無理をしているようにしか見えないのだ。
 そんなことを考えていると、胸の奥についたシミがじわじわと広がっていく。

「サマンサだろうとカレンだろうと私は私よ。まずはお金を稼いで……あっ、でももし本当に側妃になったらもう返さなくても良いんじゃない?」

 今まで心の隅に芽生えたまま気付かぬふりをしていたズルい考えが、カレンという名と共に体の中に広がっていく。
 
 その頃、談話室では三大侯爵が酒を飲みながら話していた。

「どう思った?」

 メリディアン侯爵の言葉に、フェリシア侯爵が答えた。

「ああ、あれはやらかしそうな感じだな」

 ロックス侯爵も続く。

「俺もそう思ったよ。一見完璧な逃げ道を作ってもらったことで欲がでるんじゃないか? アリアもまだまだだな。詰めが甘いよ。まあ早めに相談してきたのは合格だが」

「まあそう言うな。卒業したての令嬢としてはなかなか腹黒い作戦だと思うぞ? 彼女はお前に似たんだな」

「いや、あの腹黒さは間違いなく妻だ」

 フェリシアとロックスの会話にメリディアンが割り込む。

「どっちに似ても同じような感じだと思うぞ? で、どうする? 俺たちの先入観だけなら良いが、本当に動くなら消すか?」

「そうだなぁ、消すか飛ばすか追い出すか。ああ、金のことがあるから売るか?」

「あの娘に5億だすなんて変態ワートルかアホ殿下くらいだろ。金はまあいいさ。どうせ回収するんだ」

 メリディアンの迫力にロックスが咽た。

「手は打ったのか?」

「ああ、ルルのところにはキャロラインというメイドを入れた。殿下の方はどうするかな」

 フェリシアが頷く。

「それならうちから入れているよ。メイドだが使えるのがいるんだ。あっちの方は今まで通りロックスがやってくれるんだろう?」

「ああ、引き続き引き受けよう。で? いつまでにする?」

「最低半年は必要だろう。変態と鬼畜と腹黒が繋がっていれば芋蔓式に一気だが、別々ならゴミとカスとクズを別々に片づけねばならん。ああ、そう言えば先日お会いした王弟殿下から釘を刺されたよ」

「なんて?」

「次期王はアマデウス一択だそうだ。自分は絶対にならないと強く仰った」

「相変わらず我儘だな、あの方も」

「何をそんなに嫌がるんだか」

 三人は揃って溜息を吐いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰がための香り【R18】

象の居る
恋愛
オオカミ獣人のジェイクは疫病の後遺症で嗅覚をほぼ失って以来、死んだように生きている。ある日、奴隷商の荷馬車からなんともいえない爽やかな香りがした。利かない鼻に感じる香りをどうしても手に入れたくて、人間の奴隷リディアを買い取る。獣人の国で見下される人間に入れこみ、自分の価値観と感情のあいだで葛藤するジェイクと獣人の恐ろしさを聞いて育ったリディア。2人が歩み寄り始めたころ、後遺症の研究にリディアが巻き込まれる。 初期のジェイクは自分勝手です。 人間を差別する言動がでてきます。 表紙はAKIRA33*📘(@33comic)さんです。

process(0)

おくむらなをし
青春
下村ミイナは、高校1年生。 進路希望調査票を紙飛行機にして飛ばしたら、担任の高島先生の後頭部に刺さった。 生徒指導室でお叱りを受け、帰ろうとして開けるドアを間違えたことで、 彼女の人生は大きく捻じ曲がるのであった。 ◇この物語はフィクションです。全30話、完結済み。 ◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。

13番目の苔王子に嫁いだらめっちゃ幸せになりました

花月
恋愛
わたしはアリシア=ヘイストン18歳。侯爵家の令嬢だ。跡継ぎ競争に敗れ、ヘイストン家を出なければならなくなった。その為に父親がお膳立てしたのはこの国の皇子との婚姻だが、何と13番目で名前も顔を分からない。そんな皇子に輿入れしたがいいけれど、出迎えにくる皇子の姿はなし。そして新婚宅となるのは苔に覆われた【苔城】で従業員はほんの数人。 はたしてわたしは幸せな結婚生活を送ることが出来るのだろうか――!?  *【sideA】のみでしたら健全ラブストーリーです。  綺麗なまま終わりたい方はここまでをお勧めします。 (注意です!) *【sideA】は健全ラブストーリーですが【side B】は異なります。 因みに【side B】は【side A】の話の違った面から…弟シャルルの視点で始まります。 ドロドロは嫌、近親相姦的な物は嫌、また絶対ほのぼの恋愛が良いと思う方は特にどうぞお気を付けください。 ブラウザバックか、そっとじでお願いしますm(__)m

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

初恋ガチ勢

あおみなみ
キャラ文芸
「ながいながい初恋の物語」を、毎日1~3話ずつ公開予定です。  

こちら救世の魔女です。成長した弟子が私のウェディングドレスをつくっているなんて聞いていません。

雨宮羽那
恋愛
 私、リラは国一番の魔女。  世界を救って15年振りに目が覚めたら、6歳だった私の可愛い弟子が、ミシンをカタカタさせながら私のウェディングドレスを作っていました。  挙句、「師匠が目覚めるのを待っていました」「僕と結婚してください」と迫ってくる始末。  無理。無理だから!  たとえ21歳の美青年で私の好みに成長していようと、私にとっては可愛い愛弟子。あなたの想いには応えられないので溺愛してこないでください!  15年ぶりの弟子との生活(アプローチ付き)に慣れたと思ったのもつかの間、今度は元婚約者の王太子(現国王)が現れて……? ◇◇◇◇ ※カクヨム様に同タイトルで中編版がありますが、微妙に異なる部分があります。 ※こちらのver.は10万字前後予定の長編です。 ※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」様にも掲載予定です。(アルファポリス先行)

Owl's Anima

おくむらなをし
SF
◇戦闘シーン等に残酷な描写が含まれます。閲覧にはご注意ください。 高校生の沙織は、4月の始業式の日に、謎の機体の墜落に遭遇する。 そして、すべての大切な人を失う。 沙織は、地球の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。 ◇この物語はフィクションです。全29話、完結済み。

責任取って!

鬼龍院美沙子
恋愛
未亡人になり身寄りがなくなり1人暮らしを続けてる女。 男との秘め事は何十年もない!アダルト動画に妄想が走る。

処理中です...