どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

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 到着するまでの側近たちの馬車での会話は、アマデウスもルルーシア予想できないような方向に進んでいた。
 口火を切ったのはアリアで、王都を出る少し前のことだ。

「ねえ、サマンサもアランもマリオも聞いて? 私たちは身分とかそういう枠を外して、側近という同等の立場でしょう? 丁寧な言葉遣いやマナーは公式の場だけということにして、腹を割って話せるようになりたいと思うのよ」

 アランが続く。

「ああ、それが良いだろう。一応筆頭という立場は俺とアリアになってはいるが、それは最終的な責任を負うというだけで、仕事に忖度は必要ないよ」

 マリオが驚いた顔で言う。

「そうですか? じゃあ俺っていっても良いですか? 私って言うたびに舌を嚙んじゃって痛いんですよ。サマンサ嬢もそれでいい? ああ、でも君は側妃という立場になるんだっけ? だとすると側近よりぜんぜん上だよね。やっぱり敬語かぁ……」

 サマンサが慌てて言う。

「その件だけれど、真相は違うのよ。私が変態男爵に嫁がれそうになったのを助けるために殿下がそうしてくださっただけで、そこに愛は無いの」

 サマンサが語り始めた。

「サマンサ、私は本当のことを知りたいの。私が側近なんて柄でもないことを目指したのは、全て親友であるルルーシアを守るためよ。まあ、なったからには全力で王太子殿下のサポートはするけれど、はっきり言って二の次だわ」

 マリオが目を丸くする。

「こう言っちゃなんだが、そういう思いだけで側近になれるなんて、きっとアリア嬢は地頭が良いのだろうね。俺なんて何度鼻血を出しながら勉強したことか……情ない」

 アランが続ける。

「俺だって似たようなものさ。こいつは幼いころから頭も良いし行動力もあるし、愛嬌もある素敵な子だった。無いのはやる気だけさ。それがやる気を出したんだ。大魔女が最強の鉄扇を持ったようなもんだ」

 アリアが吹き出した。

「あげたり下げたり忙しいこと。ねえマリオ、私のこともサマンサのことも呼び捨てで構わないわ。最初は難しいかもしれないけれど頑張って。話を戻すわね。ねえサマンサ、私たちはあなたをどうこうしようとは思ってないの。でも対処すべきはするつもりよ」

 サマンサの肩がびくりと揺れた。

「私は別に……対処って殺すってことですか?」

「超えた度によるけれど、今のところはそれほどのことは考えていないわ。今のところはね。それにあなたも言葉遣いは頑張って直して」

 サマンサがほうっと息を吐いてから頷いた。

「私はマナーも言葉遣いも全然自信が無いから、そう言ってもらえると助かるわ。私が星ばかり眺めていたというのは本当よ。勉強と星を眺める以外できることが無かったもの。学園は大好きだったわ、私の環境を知っている人たちは、仲良くなっても損だとばかりに近寄ってくることも無かったけれど、私は図書室に籠っていたかったから丁度良かったの」

 三人は黙ってサマンサの話に耳を傾けた。

「図書館で殿下にお会いしたのは本当に偶然。それから殿下は私を見つけると話しかけて下さるようになって、昼休みや放課後にもお話ししたわね。でもいつも話題は一緒よ。星の話かルルーシア様の話だけだし、一緒といえばアランも常に一緒だったわよね?」

「ああ、常に一緒だったと思う」

「あなたに隠れて会うような仲じゃないし、そもそも殿下はルルーシア様しか目に入ってないじゃない?」

 アリアが溜息を吐いた。

「じゃあなぜあんな大金をはたいてまであなたを側妃に?」

「それは……私が殿下に借金をお願いしたから」

「借金だって? 王太子にそんな話を持ち込む君の度胸は凄いな……」

 マリオが心から驚いていた。

「イチかバチかよ。命が懸かってたんだもん。私の話を聞いた殿下は、友人として貸すと言って下さったの。だから絶対に返さなくちゃって思って、それまで以上に必死で勉強したわ。この国の女性で一番高給なのは王族の側近でしょ? だからそれを目指したの。借金をお願いしてからは星の観察どころの話じゃなかったわ。もうそれこそマリオと同じよ。何度鼻血を出したかわからない」

 アリアは何も言わずじっとサマンサの目を見て話を聞いていた。

「父にお金は補填するって言ったお陰で、ワートル男爵との結婚は無くなった。でも父が『5億も入った上にまたどこかに売れるなんてお前は良い娘だ』って……自分の甘さに嫌気がさしたわよ。伯爵家から抜けない限り私の命は無いんだって思った」

 アランが呟く。

「金と側妃の件はセットじゃなかったのか」

 サマンサが頷いた。
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