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「ねえ、ルル。正直に教えてくれ。君はもうアマデウスという男が嫌いになったかい?」

 ルルーシアの肩がビクッと揺れた。

「私は……今でも殿下をお慕い申しておりますわ」

「そうか、だからこそ悲しいのだね。君は昨日からずっと心配を掛けまいとして、私にもアリア嬢にも気を遣っている。それでは心が壊れてしまうよ? 泣いた方が良い時もあるんだ。私にそう言ったのはお前のおじい様さ」

「おじい様? お母様のご実家の?」

「うん、あの強面のモネ公爵さ。コリンが亡くなってしまったとき、泣けない私にそう言ってくれたんだよ『泣くのは最大の供養だ。人目など気にするな』ってね」

「思い出しましたわ。お父様はお母様の棺に縋りついて、大声をあげて泣いておられました。どうして良いのかわからない私を、おじい様がとても強く抱きしめて下さって……」

「そうだったね。あの時の私はお前の存在さえ頭から消えるほど、ただひたすら嘆き悲しみ泣き叫んでいたよ。お前も辛かっただろうに悪かった」

「いいえ、私はお父様の深い愛を目の当たりにして、とても心が満たされたことを覚えています。お母様が亡くなったことは本当に悲しかったですが、お父様からもおじい様からもこれほどまでに愛されたお母様のような女性になりたいと強く思ったのを覚えております」

「うん、コリンは誰からも愛される素敵な女性だった。でもね、ルルーシア。君はコリンにそっくりだけれど、コリンになる必要は無いんだ。顔も性格も全てが生き写しのようだけれど、ルルはルルのままでいい。そのままで皆に愛される素敵な女性だ」

「ありがとう、お父様。でも私は最愛と信じていた方からの愛をとり溢してしまうような粗忽ものですわ」

「……ねえ、ルル。あの王子は本当にバカでアホで未熟なガキだが、お前への愛は本物かもしれない。そんな奴を、もう一度信じようという気になれるかな?」

「信じる……殿下が私を愛しているのだと信じるということですか?」

「うん。誤魔化す話ではないからはっきり言おう。あのアホ王子の心からお前だけを愛しているという言葉は真実だろう。しかしサマンサ・フロレンシアが何を考えているかはわからない。よく言えば純粋に趣味仲間としての友情しか持っていないだろうが、悪く言えば王太子に取り入って、あわよくばお前にとって代わろうという下心を持っているかもしれない」

「サマンサ嬢が……私はまったくお付き合いがございませんのでわかりかねますわ」

「うん、そこは早急に見極めて対策を打つつもりだが、ルルがもう王太子なんて嫌いだって言うなら、そんな必要もない。侯爵位はノーベンに譲って、私と二人だけでロマニヤ国に亡命することもできるよ」

「ノーベンお兄さまに爵位を……すぐには厳しいのではありませんか? それにそんなことをしたらおじい様がお怒りになって、ローレンティア国との交易から撤退なさるかもしれませんわ。それに何よりお父様を信じで頑張ってくれている領民たちに申し訳がたちません」

「うん、ルルならそう言うだろうとは思っていたが、実に現実的な回答だ。でもね、私はその全てよりルルの幸せの方が重要なんだよ」

「ふふふ、ありがとうお父様。私もお父様が大好きですし、この世で一番信じています。そのお父様が噓だと思わなかったと仰るなら、私も殿下を信じてみます」

 侯爵がルルーシアを抱きしめた。

「ルル、私はお前の強さを信じよう。だからお前も信じると決めたなら、どんな酷い噂が耳に入っても信じ抜け。自分が見たものや聞いたものだけで判断しなさい。他人の戯言に惑わされるな。できるかな?」

「はい、お父様」

「でも与えてやるチャンスは一度で十分だ。あのアホがこれ以上何かをやらかしたら、すぐに捨ててしまえ。なんなら燃やしても構わん」

「はい、そうします。燃やさないとは思うけど」

「我慢せずにすぐに私に助けを求めなさい」

「はい、わかりました」

 二人は額をくっつけ合って微笑んだ。

「愛しているよ、ルルーシア。私の命」

「お父様……大好き!」

 ルルーシアが父親の頬にキスをした。
 嬉しそうに笑った侯爵が、もう一度ギュッと抱きしめると、ルルーシアの肩がフルフルと震え、小さな嗚咽が聞こえてくる。

「泣きなさい。全部全部流してしまいなさい」

 ルルーシアは父親の胸に顔を埋めて、赤子のように声をあげて泣いた。
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