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急用ができたと早退届を出したアリアは、馭者を急かしてルルーシアの邸に向かった。
「まあ! アリア。あなたサボったの?」
「うん、サボっちゃった。体調はどう?」
「うん、もう大丈夫だとは思うのだけれど、1週間ほど安静にしなさいって言われちゃった」
「そう……でもその方が良いかもしれないわ。殿下はどうやらお忙しいようだし」
「そうなの? 何かあったのかしら。お手伝いができれば良いのだけれど」
「大丈夫なんじゃない? 放っておきなさいな」
「まあ、アリアったら。相変わらず殿下には厳しいわね」
「そうね、でも私としては殿下よりアランに腹がたつわ。何の役にも立たない側近なんて必要ないじゃない。側近というのは主のために身を挺して諫めるぐらいの覚悟がないと」
「そうね、正妻という立場も同じだと教わったわ。なんでも頷いているようじゃダメで、間違っていると思ったら嫌われても良いというくらいの気概でお止めしないといけないって」
「その通りだと思うわ。仲が良いに越したことは無いけれど、貴族というのは民衆のために存在しているのだもの。彼らの暮らしを守ることと引き換えに、この贅沢な暮らしを約束されている存在よ」
メイドがケーキと紅茶を運んできた。
甘いものが大好きなルルーシアのために、メリディアン侯爵は国内一番の腕といわれているパティシエを雇っている。
「相変わらずあなたのところのパティシエは素晴らしいわ」
「そうでしょう? もし王宮に彼以上のパティシエがいなかったらどうしようって思うもの」
「連れて行っちゃえば? 侯爵様はきっとお許しになるんじゃない?」
「そうね、きっとお父様は許して下さるわね」
それから2人は恋愛小説ネタの女子トークをさく裂させ、楽しい時間を過ごした。
「そろそろ帰るわ。今週は休むのよね?」
「ええ、お許しが出ないみたいだから邸で大人しくしているつもり」
「また来るわ」
「うん、待ってる」
ルルーシアの部屋を出たアリアは侍従を捕まえてメリディアン侯爵への取次ぎを頼んだ。
愛娘の友人が急用だと聞き、執務を中断した侯爵はすぐにアリアを執務室に招き入れる。
「侯爵様、お忙しいのに申し訳ございません。本来であれば父を通してお話しすべきなのですが……」
「いや、アリア嬢。娘がいつも仲良くしてもらって感謝しているよ。話というのはルルーシアのことだね?」
「はい、今日のお昼休みに殿下とサマンサ・フロレンシア嬢の会話を聞いてしまいまして。頭に血が上ってしまい、すぐに早退してルルーシアに伝えようと思ったのですが、内容が内容だけにまずは侯爵様にと考えました」
「ありがとう、賢明な判断だ。私もルルから聞いてはいるのだが、どうしようもなくてね。それで聞いた話というのは?」
アリアは昼休みに耳にした会話をそのまま侯爵に伝えた。
時々思い出したように怒りをあらわにするアリアを見つめながら、メリディアン侯爵は黙って話を聞いている。
「そうか……学園内で抱きしめるなんて、随分大胆なことだ」
「どうやらサマンサ嬢は卒業と同時にワートル男爵に嫁ぐらしいです」
「ワートル男爵だって? それはまた……彼女はフロレンシア伯爵の庶子だと言ったね?」
「はい、そのように聞いております」
「そうか。となると彼女は売られていくということだな……庶子とはいえ、あのワートルに売るとは酷いことをするものだ」
「ええ、あの男爵は良い噂の無い方ですものね」
「なんとか救ってやりたいと殿下がお考えになるのも仕方がないのかもしれないが、ルルの心情を思うと親としては許しがたいよ」
「お金で解決できるなら私が父に相談してみましょうか」
「いや、もしそうだとしてもロックス侯爵が動く話ではないさ。君は傍観していた方がいい。万が一どうしようもなければ私が動いても構わないんだ。とりあえずルルにはまだこの話はしないでほしい」
「もちろんです。とてもじゃないですけれど言えませんわ」
「ありがとう、君はとても良い友人だね。友人という存在は何ものにも代えがたい。これからもルルのことをよろしく頼むよ」
大きく頷いたアリアは、時間をとったことに何度も礼を言いながら帰って行った。
「まあ! アリア。あなたサボったの?」
「うん、サボっちゃった。体調はどう?」
「うん、もう大丈夫だとは思うのだけれど、1週間ほど安静にしなさいって言われちゃった」
「そう……でもその方が良いかもしれないわ。殿下はどうやらお忙しいようだし」
「そうなの? 何かあったのかしら。お手伝いができれば良いのだけれど」
「大丈夫なんじゃない? 放っておきなさいな」
「まあ、アリアったら。相変わらず殿下には厳しいわね」
「そうね、でも私としては殿下よりアランに腹がたつわ。何の役にも立たない側近なんて必要ないじゃない。側近というのは主のために身を挺して諫めるぐらいの覚悟がないと」
「そうね、正妻という立場も同じだと教わったわ。なんでも頷いているようじゃダメで、間違っていると思ったら嫌われても良いというくらいの気概でお止めしないといけないって」
「その通りだと思うわ。仲が良いに越したことは無いけれど、貴族というのは民衆のために存在しているのだもの。彼らの暮らしを守ることと引き換えに、この贅沢な暮らしを約束されている存在よ」
メイドがケーキと紅茶を運んできた。
甘いものが大好きなルルーシアのために、メリディアン侯爵は国内一番の腕といわれているパティシエを雇っている。
「相変わらずあなたのところのパティシエは素晴らしいわ」
「そうでしょう? もし王宮に彼以上のパティシエがいなかったらどうしようって思うもの」
「連れて行っちゃえば? 侯爵様はきっとお許しになるんじゃない?」
「そうね、きっとお父様は許して下さるわね」
それから2人は恋愛小説ネタの女子トークをさく裂させ、楽しい時間を過ごした。
「そろそろ帰るわ。今週は休むのよね?」
「ええ、お許しが出ないみたいだから邸で大人しくしているつもり」
「また来るわ」
「うん、待ってる」
ルルーシアの部屋を出たアリアは侍従を捕まえてメリディアン侯爵への取次ぎを頼んだ。
愛娘の友人が急用だと聞き、執務を中断した侯爵はすぐにアリアを執務室に招き入れる。
「侯爵様、お忙しいのに申し訳ございません。本来であれば父を通してお話しすべきなのですが……」
「いや、アリア嬢。娘がいつも仲良くしてもらって感謝しているよ。話というのはルルーシアのことだね?」
「はい、今日のお昼休みに殿下とサマンサ・フロレンシア嬢の会話を聞いてしまいまして。頭に血が上ってしまい、すぐに早退してルルーシアに伝えようと思ったのですが、内容が内容だけにまずは侯爵様にと考えました」
「ありがとう、賢明な判断だ。私もルルから聞いてはいるのだが、どうしようもなくてね。それで聞いた話というのは?」
アリアは昼休みに耳にした会話をそのまま侯爵に伝えた。
時々思い出したように怒りをあらわにするアリアを見つめながら、メリディアン侯爵は黙って話を聞いている。
「そうか……学園内で抱きしめるなんて、随分大胆なことだ」
「どうやらサマンサ嬢は卒業と同時にワートル男爵に嫁ぐらしいです」
「ワートル男爵だって? それはまた……彼女はフロレンシア伯爵の庶子だと言ったね?」
「はい、そのように聞いております」
「そうか。となると彼女は売られていくということだな……庶子とはいえ、あのワートルに売るとは酷いことをするものだ」
「ええ、あの男爵は良い噂の無い方ですものね」
「なんとか救ってやりたいと殿下がお考えになるのも仕方がないのかもしれないが、ルルの心情を思うと親としては許しがたいよ」
「お金で解決できるなら私が父に相談してみましょうか」
「いや、もしそうだとしてもロックス侯爵が動く話ではないさ。君は傍観していた方がいい。万が一どうしようもなければ私が動いても構わないんだ。とりあえずルルにはまだこの話はしないでほしい」
「もちろんです。とてもじゃないですけれど言えませんわ」
「ありがとう、君はとても良い友人だね。友人という存在は何ものにも代えがたい。これからもルルのことをよろしく頼むよ」
大きく頷いたアリアは、時間をとったことに何度も礼を言いながら帰って行った。
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