上 下
6 / 77

しおりを挟む
 その頃王宮の食堂では国王夫妻と王太子であるアマデウスと共に、国王の弟であるキリウスが晩餐のテーブルについていた。

「卒業したらすぐに婚姻式かい?」

 ステーキを切り分けながら笑顔を浮かべたキリウスの言葉に、アマデウスが嬉しそうな顔をする。

「はい、ルルはとても優秀で、皇太子妃教育も早く終えてくれましたので、予定通り卒業式の二か月後には式を執り行います」

「それは順調だ。ルルちゃんは学園にも?」

「ええ、ルルはずっと学園に来たがっていましたからね。ほんの10か月ですが一緒に学園生活をおくれます。毎日ランチに誘う予定です」

「それは良かったね。あの学園のランチは絶品だもの。兄上、安泰ですねぇ。何よりです」

 国王が相好を崩す。

「いやぁ、本当に良い娘で良かったと思っているよ。まあどんな性格だったとしてもロマニヤ国との交易のためには嫁いでもらわないといけなかったけれど、いくら政略っていってもやはり思い合える方が良いに決まっているからね」

 王弟が何度も頷いた。

「ええ、アマディが幸せなら大成功でしょう。それにアマディは側妃も娶るつもりなのだろう?」

 アマデウスが驚いた顔をする。

「え? 側妃ですか? そんなつもりは微塵もありませんよ。僕はルル一筋ですから」

 今度は王弟が驚いた顔をした。

「そうなの? フロレンシア伯爵の庶子と恋仲だと聞いたが。毎晩逢瀬を重ねているって噂雀の間では有名だぜ?」

「まさか! 彼女とは趣味仲間という関係ですよ。そんな噂が出ているのですか? それは拙いな。まさかルルの耳にも届いているんじゃないだろうな……彼女は僕の趣味である星座にとても詳しいのです。毎晩というのは大げさですが、星座観測は夜しかできませんから、そんなくだらない噂になっているのかもしれません」

 アマデウスは不安げな顔を後ろで控えているアランに向けた。
 王妃がアランに聞く。

「アラン、お前はアマディにずっとついているのでしょう? 真相はどうなの?」

 アランが王妃の顔をまっすぐに見て口を開いた。

「お二人だけでお会いになるということはございません。必ず私が同行しております」

 王弟が吹き出した。

「おいおい、夜に会っているということは否定しないのだな。なあアマディ、王族にとって側妃や愛妾など珍しいことじゃない。堂々と会えばいいし、むしろ下手に隠さない方が良いぜ? 特に婚約者にはきちんとわからせておかないと揉めるもとだからな」

「叔父上……僕は側妃などいりません。ルルだけがいればそれでいいんです」

「はいはい、ごちそうさま。それなら尚更上手くやれよ」

 4人の会話は建国祭へと移り、アマデウスの側妃の話はそれきりになった。
 アマデウスは自分の趣味である星座観測のことをルルーシアにまだ打ち明けていない。
 婚約者に嫌われたくないという思いが強すぎるのか、自分がロマンチストだと思われるのが怖かったのだ。

『幼いころからの趣味だから父や母や叔父は知っているけれど、どうしてもルルには言えなかったんだよな。でもサマンサには……』

 ある日図書室で『大星座図鑑』という異国の本を広げ、辞書を片手に真剣な顔をしているサマンサを見たアマデウスは、引き寄せられるように隣に座った。
 驚くサマンサに、書いてある文章を翻訳してやったのも、共通の趣味をもつ者をみつけた嬉しさからだ。
 それから二人は趣味の仲間として、どんどん距離を縮めていった。

 互いに良い友人という気持ちはあっても、恋愛感情は微塵も持っていない。
 アマデウスは自分がどれほどルルーシアのことが好きかをサマンサによく語っていたし、サマンサは自分がどういう立場なのかを隠さずに話していた。
 
 サマンサはフロレンシア伯爵が結婚前にメイドに手を付けて産ませた子だった。
 認知はされたが母親とは引き離され、使用人によって育てられている。
 伯爵が結婚後に生まれたのが男の子だったので、本館に住むことは許されず、別館に乳母と一緒に住んでいた。

『だから好きなだけ星を眺めて暮らせたんだって笑っていた……辛い境遇だろうに明るい性格に育ったサマンサは、親友と呼べるほどの存在だ。ぜひルルとも仲良くなってもらいたいものだ』

 アマデウスは友と婚約者の顔を同時に思い浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰がための香り【R18】

象の居る
恋愛
オオカミ獣人のジェイクは疫病の後遺症で嗅覚をほぼ失って以来、死んだように生きている。ある日、奴隷商の荷馬車からなんともいえない爽やかな香りがした。利かない鼻に感じる香りをどうしても手に入れたくて、人間の奴隷リディアを買い取る。獣人の国で見下される人間に入れこみ、自分の価値観と感情のあいだで葛藤するジェイクと獣人の恐ろしさを聞いて育ったリディア。2人が歩み寄り始めたころ、後遺症の研究にリディアが巻き込まれる。 初期のジェイクは自分勝手です。 人間を差別する言動がでてきます。 表紙はAKIRA33*📘(@33comic)さんです。

process(0)

おくむらなをし
青春
下村ミイナは、高校1年生。 進路希望調査票を紙飛行機にして飛ばしたら、担任の高島先生の後頭部に刺さった。 生徒指導室でお叱りを受け、帰ろうとして開けるドアを間違えたことで、 彼女の人生は大きく捻じ曲がるのであった。 ◇この物語はフィクションです。全30話、完結済み。 ◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。

13番目の苔王子に嫁いだらめっちゃ幸せになりました

花月
恋愛
わたしはアリシア=ヘイストン18歳。侯爵家の令嬢だ。跡継ぎ競争に敗れ、ヘイストン家を出なければならなくなった。その為に父親がお膳立てしたのはこの国の皇子との婚姻だが、何と13番目で名前も顔を分からない。そんな皇子に輿入れしたがいいけれど、出迎えにくる皇子の姿はなし。そして新婚宅となるのは苔に覆われた【苔城】で従業員はほんの数人。 はたしてわたしは幸せな結婚生活を送ることが出来るのだろうか――!?  *【sideA】のみでしたら健全ラブストーリーです。  綺麗なまま終わりたい方はここまでをお勧めします。 (注意です!) *【sideA】は健全ラブストーリーですが【side B】は異なります。 因みに【side B】は【side A】の話の違った面から…弟シャルルの視点で始まります。 ドロドロは嫌、近親相姦的な物は嫌、また絶対ほのぼの恋愛が良いと思う方は特にどうぞお気を付けください。 ブラウザバックか、そっとじでお願いしますm(__)m

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

初恋ガチ勢

あおみなみ
キャラ文芸
「ながいながい初恋の物語」を、毎日1~3話ずつ公開予定です。  

こちら救世の魔女です。成長した弟子が私のウェディングドレスをつくっているなんて聞いていません。

雨宮羽那
恋愛
 私、リラは国一番の魔女。  世界を救って15年振りに目が覚めたら、6歳だった私の可愛い弟子が、ミシンをカタカタさせながら私のウェディングドレスを作っていました。  挙句、「師匠が目覚めるのを待っていました」「僕と結婚してください」と迫ってくる始末。  無理。無理だから!  たとえ21歳の美青年で私の好みに成長していようと、私にとっては可愛い愛弟子。あなたの想いには応えられないので溺愛してこないでください!  15年ぶりの弟子との生活(アプローチ付き)に慣れたと思ったのもつかの間、今度は元婚約者の王太子(現国王)が現れて……? ◇◇◇◇ ※カクヨム様に同タイトルで中編版がありますが、微妙に異なる部分があります。 ※こちらのver.は10万字前後予定の長編です。 ※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」様にも掲載予定です。(アルファポリス先行)

Owl's Anima

おくむらなをし
SF
◇戦闘シーン等に残酷な描写が含まれます。閲覧にはご注意ください。 高校生の沙織は、4月の始業式の日に、謎の機体の墜落に遭遇する。 そして、すべての大切な人を失う。 沙織は、地球の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。 ◇この物語はフィクションです。全29話、完結済み。

責任取って!

鬼龍院美沙子
恋愛
未亡人になり身寄りがなくなり1人暮らしを続けてる女。 男との秘め事は何十年もない!アダルト動画に妄想が走る。

処理中です...