どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

文字の大きさ
上 下
4 / 77

しおりを挟む
 少し頬を紅潮させて席に座ったサマンサが、ルルーシアの視線に気付き驚いた顔をする。
 ルルーシアは慌てて目礼を返し、視線を外した。

「ルル! ランチに行こう!」

 昼休みになるとすぐにアマデウスがやってきた。
 アマデウスは王家特有の少し癖のある銀髪と濃いブルーの瞳でとても目立つ存在だ。
 常に後ろに控えているアラン・フェリシア侯爵令息の優れた容姿と黒髪黒瞳も、多くの女生徒達の視線を集めるので、二人が行動するととにかく目立つ。

「はい、すぐに参ります」

 ルルーシアはアリアに目配せをして準備を急いだ。
 教室を出ると、扉から少し離れた壁際で、顔を寄せ合って話しているアマデウスとサマンサの姿が目に飛び込み、ルルーシアは急いで視線を伏せて気付かない振りをした。

「今日は拙いんだ。夜は来客があって出られない」

「そう……残念だけれど仕方がないわね」

 聞くともなしに聞こえてくる会話に、ルルーシアの胃は鉛を飲み込んだように重たくなる。
 ルルーシアが立っていることに気づいたサマンサはすっとアマデウスから離れた。

「あっ! ルル、行こうか」

 何事もなかったようにアマデウスがルルーシアに腕を差し出す。
 ほんの少しその腕を見つめた後、にっこりとほほ笑んで手を添えるルルーシア。
 その姿を後ろから見ていたアリアは、不敬罪で捕まってもおかしくないほど憎々しい視線を皇太子の背中に投げていた。

「アリア嬢、何か誤解をしていないか?」

 後ろを歩くアランがアリアに囁いた。

「誤解? 昨日といい今日といい、何なの? 学園中で噂になっているじゃない。ルルの耳に入らないわけ無いでしょう? あんたが止めないでどうするのよ!」

「噂? ああ、殿下がフロレンシア嬢と恋仲というあれか? バカバカしい。殿下はルルーシア嬢にぞっこんだ。間違いない」

「はいはい、そうですか。では昨日の夜はどちらにしけ込まれたのかしらね? 今日はお断りになったご様子だけれど、毎日毎日乳繰り合わないと死ぬ病気なの?」

「おい! それは言い過ぎだ! 不敬だぞ」

「フンッ!」

 後ろの険悪な雰囲気など気にもせず、アマデウスは大好きなルルーシアとの初めての学園ランチに浮かれていた。

「ルル、学園の食堂にはいろいろなメニューがあるんだよ。僕はいつもスペシャルを注文するのだけれど、友人の話によるとレディースセットというのもなかなか旨いらしい」

「レディースセットでございますか? ということはご友人は女子生徒ですわね?」

 いつも控えめなルルーシアにしてはかなり突っ込んだつもりの発言だ。

「うん、聞いたのはルルと同じクラスのサマンサだ。彼女とは良く話をするんだよね。趣味が同じで話が合うんだ。今度紹介するね、ルルもきっと気に入ると思うよ」

「さ……左様でございますか。それは楽しみですわ」

「ああ、いい機会だから今日一緒にランチする? うん、それが良い。ねえアラン、サマンサを呼んできてくれないか。ルルに紹介しておきたいんだ」

 アランが目を見開き、アリアがゴフッと咽た。

「いや……殿下。今日はルルーシア嬢にとって初めての学園ランチですので……」

「そう? まあそうだね。ルルは初めてだものね。紹介はまた今度にしよう。どうせ毎日一緒にランチするでしょう?」

「毎日一緒に……そうですわね……殿下は今まではどのように?」

「僕はアランと一緒に食堂に行っていたよ。空いてる席に座って食べていた」

「では今後もそのようになさってはいかがですか? 学園でないとなかなかできない経験でございましょう?」

「まあそうだけど……やっとルルが登校できるようになったんだもの。一緒に食べたいな」

「ありがとうございます。でもどうぞご無理なさらず」

「無理? そんなものするわけ無いだろ? 僕は君と一緒にいたいんだ」

 アランが手配していた上位貴族テラスのテーブルに落ち着いた4人は、当たり障りのない会話をしながらランチを楽しんだ。
しおりを挟む
感想 969

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【本編完結】独りよがりの初恋でした

須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。  それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。 アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。 #ほろ苦い初恋 #それぞれにハッピーエンド 特にざまぁなどはありません。 小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...