そして愛は突然に

志波 連

文字の大きさ
上 下
88 / 97

88

しおりを挟む
 微笑むアルバートを眩しそうに見て、シェリーが言う。

「ええ、アルバート。私もあなたのことを愛しているわ」

「でも僕は……君を母親にはしてやれないんだ」

「知ってるわ」

「知ってたの? でも……それでも良いの?」

「もちろんよ。あなたと私の子供に会いたいという気持ちはあったけれど、それが全てでは無いでしょう? いればいた人生だったのだろうし、居なければいない人生よ。どちらも私の人生でしょう?」

「そうだね。でも僕はもう君のいない人生は考えられないな。君がいなくなるならこのまま目覚めるを止めたいくらいさ」

「義兄様や叔父様が困るわよ?」

「困らせればいいよ。僕は君さえよければそれでいい」

「あらあら、王様失格ね」

「ははは! ねえシェリー、このままここでずっと二人だけで暮らさない?」

 シェリーがふと笑った。
 爽やかな風がアルバートの銀髪を揺らす。
 顔にかかったその髪を指先で弄びながら、シェリーがもう一度アルバートに口づけた。

「本当にそれでいいの?」

「ダメかな……」

「ダメでしょう? あなたは国王としてゴールディを立て直さなくちゃ」

「君がいないと無理だし嫌だ」

「もちろんあなたの横にずっと居るわ」

「一緒のベッドで毎日眠ってくれる?」

「もちろんよ」

「夜会や視察は全部兄上と叔父上に任せよう」

「それも良いわね。あなたは頭脳労働だけ担えば良いんじゃない?」

「君の負担が増えるね」

「即位はするんでしょう? 表舞台は国王代理のサミュエル殿下に任せましょう。私は王妃として出席しなくてはいけないものだけ出るわ。後はずっとあなたと一緒にいる」

「では執務室は一緒にしようか」

「そうね。大きな部屋にして休憩するためのベッドも置きましょうね。今までのような簡易ベッドではなく、きちんと眠れるようなベッドが良いわ」

「うん、そうしよう。僕は足と一緒になんとかという器官も切除しているから、疲れやすいし体調を崩しやすいんだって医者が言ってたよ」

「同意してくれて良かったわ。ねえ? こうやっている時間も、きっと仕事がたまっているでしょう? そろそろ戻る?」

「もうちょっとだけこのまま」

「どこかで区切りをつけないと、本当に戻れなくなっちゃうわよ?」

「まだ大丈夫だよ。必ず戻るから。ここなら君と僕はただの男と女だ。戻ると王と王妃だろ? もう少しこのまま……ね? お願いだよ」

「いいわ。あと一日はこうしていましょうか」

「うん、戻ったら一番に何をする?」

「そうね……アルバートは?」

「僕は……君にプロポーズしたい」

「もう夫婦になってるのに?」

「そうだよ。だって僕は君にプロポーズしてないよ?」

「そういえばそうね」

「だから現実に戻ったら、一番に君に愛を告げるよ」

「うん、楽しみにしてる」

 二人は笑い合って何度も軽いキスを楽しんだ。
 二人の頭上でカラカラと木の実が揺れる音がする。
 まるで二人のことを囃し立てるかのようなその音を、シェリーは死ぬまで忘れないと思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勇者様にいきなり求婚されたのですが

富樫 聖夜
ファンタジー
 魔王に攫われた美しい姫君を救い出して勇者が凱旋した。二人の間に恋が芽生えたに違いないと、ベタな王道を期待する人々を目の前に、勇者は求婚した――――姫の侍女Aに。「貴女を愛しています」「わ、私モブキャラなんですけど!?」。モブなのに一躍主役級に引き上げられてしまった侍女Aのお話。

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

処理中です...