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赤を通り越して最早紫色になりつつある王妃を前に、アルバートは笑っている。
その二人を一歩下がったところから見ていた護衛騎士たちが、恐怖に震えていたその時、馬車の後ろで金属音がした。
「敵襲! 王妃殿下を守れ!」
その声を聞いたアルバートがキースに聞く。
「お前んとこの?」
「いや、お前んとこだろ」
緊迫感の鍔迫り合いの中、妙ななすり合いを繰り広げている二人に、馬上から声がかかった。
「間に合ったか! 父上は?」
その声の主はシュラインだった。
キースがニヤッと笑いながら言う。
「ほら、やっぱりお前んとこじゃん」
アルバートが肩を竦めて見せながら、シュラインに向き直った。
「どうします? 兄上」
「書類は回収したか?」
「確認はしましたが回収はまだです。兄上の仕込み通り偽印でしたから焦る必要も無いかと思いまして」
「なんと言うか……ここまで見事にハマると拍子抜けするな」
平和な国とはいえ、そこは王族を守る近衛騎士達だ。
少数精鋭を自負していたグリーナの騎士達を次々に捕縛している。
その様子を見ていたキースが声を出した。
「殺さないでくださいね。今はやる気がないだけで本当は優秀な騎士達ですから」
そんな軽口を叩きながらも、キースの目は王妃を捉えていた。
たった数人の騎士に守られながら、ジリジリと馬車の方へ後退する王妃。
その顔に焦りはなかった。
砕けた扇子を投げ捨て、王妃が言う。
「宣戦布告の日時より早い開戦とは……どこまでも卑怯な国じゃ! 国際法に乗っ取って裁いてくれようぞ」
シュラインが言い返す。
「そもそも宣戦布告などしておりませんし、これは攫われた我が国の王を奪還するための正当な行動ですよ? しかも皇太子にまで剣を向けたのです。そちらこそ相応な覚悟は決めてください」
「何を申すか! 攫ってなどおらぬわ! そちらが勝手に来たのであろうが!」
シュラインとアルバートが同時に首を横に振る。
「そんなことは聞いていません」
キースが一歩前に出る。
「義母上……いいえ、王妃殿下。これで終わりです。今までご苦労様でした。でもあなたはやり過ぎたんだ。あなたが打ち出した帝国化政策のせいで国民は疲弊しきっている。終わりにしましょう。後は僕が引き受けますよ」
「何を言うか!」
「あなたのやったことは宰相であるグルックが責任をとってくれます。あなたはどうしますか? ここで散りますか? それとも国に帰って晒されますか?」
グリーナ国王妃がグッと歯を食いしばった。
一瞬の沈黙が流れる。
その隙をついて、狙いすましたような一太刀が王妃の首に届いた。
剣を振り降りしたのは、先ほどまで王妃を守っていた護衛騎士。
肩章で騎士団長だとわかる。
「天誅です、王妃殿下。あなたの我儘のために散っていった我が部下たちの無念を思い知っていただきたい。あの者たちにも愛する者がいたんだ! 生活があったんだ! それを気まぐれで壊していったあなたの罪は重すぎる」
王妃は首から血を吹き出しながら、崩れるように倒れた。
数秒の静けさが流れた後、あちこちで聞こえていた金属音が止んだ。
キースが剣を握ったまま涙を流している騎士隊長の肩に手を置き、シュラインに聞いた。
「お宅のはどうします?」
王は馬車の中で蹲ったまま微動だにしていなかった。
その二人を一歩下がったところから見ていた護衛騎士たちが、恐怖に震えていたその時、馬車の後ろで金属音がした。
「敵襲! 王妃殿下を守れ!」
その声を聞いたアルバートがキースに聞く。
「お前んとこの?」
「いや、お前んとこだろ」
緊迫感の鍔迫り合いの中、妙ななすり合いを繰り広げている二人に、馬上から声がかかった。
「間に合ったか! 父上は?」
その声の主はシュラインだった。
キースがニヤッと笑いながら言う。
「ほら、やっぱりお前んとこじゃん」
アルバートが肩を竦めて見せながら、シュラインに向き直った。
「どうします? 兄上」
「書類は回収したか?」
「確認はしましたが回収はまだです。兄上の仕込み通り偽印でしたから焦る必要も無いかと思いまして」
「なんと言うか……ここまで見事にハマると拍子抜けするな」
平和な国とはいえ、そこは王族を守る近衛騎士達だ。
少数精鋭を自負していたグリーナの騎士達を次々に捕縛している。
その様子を見ていたキースが声を出した。
「殺さないでくださいね。今はやる気がないだけで本当は優秀な騎士達ですから」
そんな軽口を叩きながらも、キースの目は王妃を捉えていた。
たった数人の騎士に守られながら、ジリジリと馬車の方へ後退する王妃。
その顔に焦りはなかった。
砕けた扇子を投げ捨て、王妃が言う。
「宣戦布告の日時より早い開戦とは……どこまでも卑怯な国じゃ! 国際法に乗っ取って裁いてくれようぞ」
シュラインが言い返す。
「そもそも宣戦布告などしておりませんし、これは攫われた我が国の王を奪還するための正当な行動ですよ? しかも皇太子にまで剣を向けたのです。そちらこそ相応な覚悟は決めてください」
「何を申すか! 攫ってなどおらぬわ! そちらが勝手に来たのであろうが!」
シュラインとアルバートが同時に首を横に振る。
「そんなことは聞いていません」
キースが一歩前に出る。
「義母上……いいえ、王妃殿下。これで終わりです。今までご苦労様でした。でもあなたはやり過ぎたんだ。あなたが打ち出した帝国化政策のせいで国民は疲弊しきっている。終わりにしましょう。後は僕が引き受けますよ」
「何を言うか!」
「あなたのやったことは宰相であるグルックが責任をとってくれます。あなたはどうしますか? ここで散りますか? それとも国に帰って晒されますか?」
グリーナ国王妃がグッと歯を食いしばった。
一瞬の沈黙が流れる。
その隙をついて、狙いすましたような一太刀が王妃の首に届いた。
剣を振り降りしたのは、先ほどまで王妃を守っていた護衛騎士。
肩章で騎士団長だとわかる。
「天誅です、王妃殿下。あなたの我儘のために散っていった我が部下たちの無念を思い知っていただきたい。あの者たちにも愛する者がいたんだ! 生活があったんだ! それを気まぐれで壊していったあなたの罪は重すぎる」
王妃は首から血を吹き出しながら、崩れるように倒れた。
数秒の静けさが流れた後、あちこちで聞こえていた金属音が止んだ。
キースが剣を握ったまま涙を流している騎士隊長の肩に手を置き、シュラインに聞いた。
「お宅のはどうします?」
王は馬車の中で蹲ったまま微動だにしていなかった。
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