62 / 97
62
しおりを挟む
辺境伯の後ろに回った妹の姿を確認したオースティンは、大きな声をあげながら辺境伯に正面から切りかかった。
「やあぁぁぁぁ!」
廊下の部下たちを振り返ろうとした辺境伯だったが、オースティンの気迫に視線を戻す。
一瞬でも判断が遅れていたら危なかったというタイミングで、オースティンの剣を避けた辺境伯の視線の端にレモンが映った。
レモンの手には長剣が握られており、凄まじい気迫を漲らせている。
「待った! ここまでで十分だ!」
辺境伯は低い声でオースティンとレモンを制した。
二人は動きを止めたが、殺気は放ったままだ。
「わかった。あながちお前たちもバカでは無かったということがわかった。話し合おうではないか」
シュラインがニコッと笑って辺境伯の前に進んだ。
「提案できる立場だとお思いですか? まずはその剣を僕に渡してください。ああ、無駄なことは考えない方がいい。レモンは勿論だが、皇太子の侍従であるオースティンの剣技も侮れないですからね。それに僕は時間が惜しいのですよ」
フンッと鼻を鳴らした辺境伯が、剣の柄をシュラインに向けた。
「お前ごときに剣を奪われる日が来るとはな。私も年を取ったものだ」
シュラインに剣を渡そうと手を伸ばし、それをシュラインが受け取った瞬間、シュラインは笑顔のままで握った剣の柄を押し出した。
「ぐふっ……きさま……」
シュラインが柄から手を離し、自分の腹に刺さった長剣に手を添えた辺境伯を冷めた目で見た。
「詰めが甘いんだよ! おっさん! さっさと逝ってくれ! 国王が待ちわびているんじゃないか?」
口から血を流し、恨みがましい目でシュラインを睨みつけていた辺境伯だったが、堪らずその場で膝をつく。
その肩を思い切り蹴り飛ばしたシュラインは、返り血のついた掌をハンカチで拭きながら投げ捨てるような言葉を吐いた。
「大人しくしていれば天寿を全うできたんだ。何をいまさら出張ってきた? 娘たちを送り込んで地固めでもしていたつもりか? あんたの娘たちは言いなりになってたかもしれないが、如何せん頭が悪すぎたんだよ! あんたには家族に対する情ってもんが無いのか?僕はあんたの孫で、アルバートは甥だろ? このクソジジイが!」
廊下で二人の護衛を難なく切り捨てたサミュエルが、剣の血を拭きながら戻ってきた。
オースティンもレモンも苦しそうな顔をしている。
サミュエルがシュラインを見た。
「もう良いか?」
「ええ、もう十分すぎますよ」
シュラインが言い終わった瞬間、辺境伯の首が落ちた。
本人のマントにそれを包み、サミュエルが立ち上がる。
「行くぞ」
四人は何も言わずその場を去った。
廊下を進みながらレモンが馬車の中で聞いたエドワードの計画を話した。
「だったらシェリーの様子を確認してから行こう。全てを信じるのは危険だ。そのメイドというのが本当に味方なのか見極めなくては」
シュラインがそう口にすると、レモンがサッと顔色を変えた。
「仰る通りです。申し訳ございません」
「いや、君も攫われた状態で冷静な判断は難しかったと思う。ところでシェリーは?」
「侍女長の部屋に向かったはずです」
四人は頷きあって侍女長の仕事部屋に向かった。
「邪魔するぞ」
オースティンが声を掛けてドアを開ける。
そこにはシェリーと二人の戦闘メイドが優雅にお茶を楽しんでいた。
「ご無事でしたか、妃殿下」
「良く分からないけれど、片付いたの?」
「ええ、舐め切っていたのでしょう。簡単でした」
不思議そうな顔でシェリーが首を傾げたが、時間が無いとばかりにレモンが前に進み出た。
「妃殿下、主力はイーサン卿のところに集中しているはずです。我々はそちらに向かいます。妃殿下は……」
最後まで言わせずシェリーが声を出した。
「私も行きます。アルバートと話をしないといけません」
「妃殿下?」
「とにかくそうします。このままメイド服で行きますから時間は取らせません」
シュラインとサミュエルは顔を見合わせた。
肩を竦めて見せたのはシュラインだった。
「では僕がここに残りましょう。辺境伯は地下牢に入れておきますが、尋問など無駄でしょうからしませんよ。進軍の噂を聞きつけた貴族達が集まってくるでしょうから」
「ああ、わかった。ではシェリー妃殿下、行きましょうか」
結局シュラインとオースティンが王宮に残り、登城してくる貴族たちに対応することになった。
サミュエルとシェリー、そしてレモンと二人の戦闘メイドが馬車に乗り込む。
走り出した馬車の中でふとサミュエルが言った。
「おいおい! 私以外は全員女性じゃないか!」
クスクスと笑い声が車内に響いたが、流れる空気は重たいものだった。
「やあぁぁぁぁ!」
廊下の部下たちを振り返ろうとした辺境伯だったが、オースティンの気迫に視線を戻す。
一瞬でも判断が遅れていたら危なかったというタイミングで、オースティンの剣を避けた辺境伯の視線の端にレモンが映った。
レモンの手には長剣が握られており、凄まじい気迫を漲らせている。
「待った! ここまでで十分だ!」
辺境伯は低い声でオースティンとレモンを制した。
二人は動きを止めたが、殺気は放ったままだ。
「わかった。あながちお前たちもバカでは無かったということがわかった。話し合おうではないか」
シュラインがニコッと笑って辺境伯の前に進んだ。
「提案できる立場だとお思いですか? まずはその剣を僕に渡してください。ああ、無駄なことは考えない方がいい。レモンは勿論だが、皇太子の侍従であるオースティンの剣技も侮れないですからね。それに僕は時間が惜しいのですよ」
フンッと鼻を鳴らした辺境伯が、剣の柄をシュラインに向けた。
「お前ごときに剣を奪われる日が来るとはな。私も年を取ったものだ」
シュラインに剣を渡そうと手を伸ばし、それをシュラインが受け取った瞬間、シュラインは笑顔のままで握った剣の柄を押し出した。
「ぐふっ……きさま……」
シュラインが柄から手を離し、自分の腹に刺さった長剣に手を添えた辺境伯を冷めた目で見た。
「詰めが甘いんだよ! おっさん! さっさと逝ってくれ! 国王が待ちわびているんじゃないか?」
口から血を流し、恨みがましい目でシュラインを睨みつけていた辺境伯だったが、堪らずその場で膝をつく。
その肩を思い切り蹴り飛ばしたシュラインは、返り血のついた掌をハンカチで拭きながら投げ捨てるような言葉を吐いた。
「大人しくしていれば天寿を全うできたんだ。何をいまさら出張ってきた? 娘たちを送り込んで地固めでもしていたつもりか? あんたの娘たちは言いなりになってたかもしれないが、如何せん頭が悪すぎたんだよ! あんたには家族に対する情ってもんが無いのか?僕はあんたの孫で、アルバートは甥だろ? このクソジジイが!」
廊下で二人の護衛を難なく切り捨てたサミュエルが、剣の血を拭きながら戻ってきた。
オースティンもレモンも苦しそうな顔をしている。
サミュエルがシュラインを見た。
「もう良いか?」
「ええ、もう十分すぎますよ」
シュラインが言い終わった瞬間、辺境伯の首が落ちた。
本人のマントにそれを包み、サミュエルが立ち上がる。
「行くぞ」
四人は何も言わずその場を去った。
廊下を進みながらレモンが馬車の中で聞いたエドワードの計画を話した。
「だったらシェリーの様子を確認してから行こう。全てを信じるのは危険だ。そのメイドというのが本当に味方なのか見極めなくては」
シュラインがそう口にすると、レモンがサッと顔色を変えた。
「仰る通りです。申し訳ございません」
「いや、君も攫われた状態で冷静な判断は難しかったと思う。ところでシェリーは?」
「侍女長の部屋に向かったはずです」
四人は頷きあって侍女長の仕事部屋に向かった。
「邪魔するぞ」
オースティンが声を掛けてドアを開ける。
そこにはシェリーと二人の戦闘メイドが優雅にお茶を楽しんでいた。
「ご無事でしたか、妃殿下」
「良く分からないけれど、片付いたの?」
「ええ、舐め切っていたのでしょう。簡単でした」
不思議そうな顔でシェリーが首を傾げたが、時間が無いとばかりにレモンが前に進み出た。
「妃殿下、主力はイーサン卿のところに集中しているはずです。我々はそちらに向かいます。妃殿下は……」
最後まで言わせずシェリーが声を出した。
「私も行きます。アルバートと話をしないといけません」
「妃殿下?」
「とにかくそうします。このままメイド服で行きますから時間は取らせません」
シュラインとサミュエルは顔を見合わせた。
肩を竦めて見せたのはシュラインだった。
「では僕がここに残りましょう。辺境伯は地下牢に入れておきますが、尋問など無駄でしょうからしませんよ。進軍の噂を聞きつけた貴族達が集まってくるでしょうから」
「ああ、わかった。ではシェリー妃殿下、行きましょうか」
結局シュラインとオースティンが王宮に残り、登城してくる貴族たちに対応することになった。
サミュエルとシェリー、そしてレモンと二人の戦闘メイドが馬車に乗り込む。
走り出した馬車の中でふとサミュエルが言った。
「おいおい! 私以外は全員女性じゃないか!」
クスクスと笑い声が車内に響いたが、流れる空気は重たいものだった。
27
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!
れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。
父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。
メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。
復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*)
*なろうにも投稿しています
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜
王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。
彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。
自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。
アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──?
どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。
イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています!
※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)
話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。
雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。
※完結しました。全41話。
お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる