そして愛は突然に

志波 連

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 待たせていた馬まで歩くブルーノの横にイーサンが並ぶ。

「大丈夫か? イーサン」

「ああ、なんとか上手くやっているつもりだ。少々気になることはあるが、側を離れないようにするから安心してくれ」

「うん、僕は君を信じているよ」

「ああ、その信頼に全力で応えよう。気は抜くなよ。最終局面だ」

「うん、頑張ろう」

 二人は目線だけで挨拶を交わし別れた。
 それから辺境伯団はそのまま林の中でひっそりと隠れるように日を過ごし、約束の二日目に出立した。

 その頃王城では……

「ブルーノは上手く辺境伯と会えたらしい」

 シュラインが紅茶のカップを持ち上げながら言った。

「後はミスティ侯爵家だな」

 サミュエルが真面目な顔で呟いた。

「ここで始末するのは簡単だが全てを刈り取るには悪手だね」

 アルバートがスコーンを手で割りながら言う。

「妄想癖の強いグルックだけでも先に消しましょうか」

 四人は今日の天気を話題にしている程度の緊張感の無い空気を醸していた。

「それにしてもシェリーとレモンを人質に取られたのは拙かったな」

 シュラインの言葉にオースティンが応えた。

「むしろ辺境伯領に残っていた方が安全ですよ。恐らく主戦力はこちらに来るでしょうからね。雑魚の集団ならなんとでもなります」

「そろそろですかね」

 オースティンの言葉にサミュエルが口を開く。

「ブルーノは一週間の猶予をもぎ取るって言ってたから……あと三日か? そろそろ帰ってくるだろう」

 言い終わる前に扉が開いた。
 入ってきたのはブルーノだ。

「ただいま帰りました……って、吞気だなぁ。僕は夜通し駆けて、途中で父にも会って段取りしてきたっていうのに」

 旅塵で汚れたままのブルーノが、テーブルのスコーンに手を伸ばす。

「あっ! おまっ! 手ぐらい洗えよ」

 アルバートが顔を顰めた。

「まあまあ義兄さん。固いこと言わずに」

 シュラインが笑いながら言った。

「ご苦労さん。せめて座って食えよ、ブルーノ。お茶を淹れ代えよう」

 その時激しい足音が廊下に響き、宰相の側近が入ってきた。

「宰相閣下、ミスティ侯爵夫人が危篤との連絡です。王妃殿下が付き添われているそうですが、予断を許さない状況とのことです」

 五人が顔を見合わせて頷きあった。

「さすが狼王だ。予定より1日早い」

「まあ想定内だ。配置は?」

 兄弟の会話に叔父が加わる。

「奴らのルートは抑えてある」

 ブルーノがニコッと笑った。

「では狼狩りを始めましょうか」

 五人は立ち上がった。
 アルバートとキースがミスティ侯爵家に向かうために準備を始め、オースティンが馬車の手配に走る。
 サミュエルは捕縛部隊と合流するために近衛騎士団に向かい、シュラインとブルーノはそれぞれの準備のためにいるべき場所に向かうために部屋を出た。
 廊下を並んで歩きながら二人は小声で会話をしている。

「僕は先に王妃だと思ってました」

「ああ、俺もそう思ってた……ってことは、これは演技ではなくホントに危篤?」

「いや、ミスティ侯爵経由の父情報ではほとんど平癒していたらしいですからフェイクニュースでしょうね」

「裏があるのかな」

「宰相閣下の読み通り、黒狼が動き出しましたかね」

「そうだとしたら面倒だな。あいつの動きは読み切れん」

 宰相の執務室の前までやってきた。

「どちらにしてもここまで来たんだ。今更変更はないさ」

「ええ、頑張りましょう」

 二人は握手をして別れた。

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