59 / 97
59
しおりを挟む
待たせていた馬まで歩くブルーノの横にイーサンが並ぶ。
「大丈夫か? イーサン」
「ああ、なんとか上手くやっているつもりだ。少々気になることはあるが、側を離れないようにするから安心してくれ」
「うん、僕は君を信じているよ」
「ああ、その信頼に全力で応えよう。気は抜くなよ。最終局面だ」
「うん、頑張ろう」
二人は目線だけで挨拶を交わし別れた。
それから辺境伯団はそのまま林の中でひっそりと隠れるように日を過ごし、約束の二日目に出立した。
その頃王城では……
「ブルーノは上手く辺境伯と会えたらしい」
シュラインが紅茶のカップを持ち上げながら言った。
「後はミスティ侯爵家だな」
サミュエルが真面目な顔で呟いた。
「ここで始末するのは簡単だが全てを刈り取るには悪手だね」
アルバートがスコーンを手で割りながら言う。
「妄想癖の強いグルックだけでも先に消しましょうか」
四人は今日の天気を話題にしている程度の緊張感の無い空気を醸していた。
「それにしてもシェリーとレモンを人質に取られたのは拙かったな」
シュラインの言葉にオースティンが応えた。
「むしろ辺境伯領に残っていた方が安全ですよ。恐らく主戦力はこちらに来るでしょうからね。雑魚の集団ならなんとでもなります」
「そろそろですかね」
オースティンの言葉にサミュエルが口を開く。
「ブルーノは一週間の猶予をもぎ取るって言ってたから……あと三日か? そろそろ帰ってくるだろう」
言い終わる前に扉が開いた。
入ってきたのはブルーノだ。
「ただいま帰りました……って、吞気だなぁ。僕は夜通し駆けて、途中で父にも会って段取りしてきたっていうのに」
旅塵で汚れたままのブルーノが、テーブルのスコーンに手を伸ばす。
「あっ! おまっ! 手ぐらい洗えよ」
アルバートが顔を顰めた。
「まあまあ義兄さん。固いこと言わずに」
シュラインが笑いながら言った。
「ご苦労さん。せめて座って食えよ、ブルーノ。お茶を淹れ代えよう」
その時激しい足音が廊下に響き、宰相の側近が入ってきた。
「宰相閣下、ミスティ侯爵夫人が危篤との連絡です。王妃殿下が付き添われているそうですが、予断を許さない状況とのことです」
五人が顔を見合わせて頷きあった。
「さすが狼王だ。予定より1日早い」
「まあ想定内だ。配置は?」
兄弟の会話に叔父が加わる。
「奴らのルートは抑えてある」
ブルーノがニコッと笑った。
「では狼狩りを始めましょうか」
五人は立ち上がった。
アルバートとキースがミスティ侯爵家に向かうために準備を始め、オースティンが馬車の手配に走る。
サミュエルは捕縛部隊と合流するために近衛騎士団に向かい、シュラインとブルーノはそれぞれの準備のためにいるべき場所に向かうために部屋を出た。
廊下を並んで歩きながら二人は小声で会話をしている。
「僕は先に王妃だと思ってました」
「ああ、俺もそう思ってた……ってことは、これは演技ではなくホントに危篤?」
「いや、ミスティ侯爵経由の父情報ではほとんど平癒していたらしいですからフェイクニュースでしょうね」
「裏があるのかな」
「宰相閣下の読み通り、黒狼が動き出しましたかね」
「そうだとしたら面倒だな。あいつの動きは読み切れん」
宰相の執務室の前までやってきた。
「どちらにしてもここまで来たんだ。今更変更はないさ」
「ええ、頑張りましょう」
二人は握手をして別れた。
「大丈夫か? イーサン」
「ああ、なんとか上手くやっているつもりだ。少々気になることはあるが、側を離れないようにするから安心してくれ」
「うん、僕は君を信じているよ」
「ああ、その信頼に全力で応えよう。気は抜くなよ。最終局面だ」
「うん、頑張ろう」
二人は目線だけで挨拶を交わし別れた。
それから辺境伯団はそのまま林の中でひっそりと隠れるように日を過ごし、約束の二日目に出立した。
その頃王城では……
「ブルーノは上手く辺境伯と会えたらしい」
シュラインが紅茶のカップを持ち上げながら言った。
「後はミスティ侯爵家だな」
サミュエルが真面目な顔で呟いた。
「ここで始末するのは簡単だが全てを刈り取るには悪手だね」
アルバートがスコーンを手で割りながら言う。
「妄想癖の強いグルックだけでも先に消しましょうか」
四人は今日の天気を話題にしている程度の緊張感の無い空気を醸していた。
「それにしてもシェリーとレモンを人質に取られたのは拙かったな」
シュラインの言葉にオースティンが応えた。
「むしろ辺境伯領に残っていた方が安全ですよ。恐らく主戦力はこちらに来るでしょうからね。雑魚の集団ならなんとでもなります」
「そろそろですかね」
オースティンの言葉にサミュエルが口を開く。
「ブルーノは一週間の猶予をもぎ取るって言ってたから……あと三日か? そろそろ帰ってくるだろう」
言い終わる前に扉が開いた。
入ってきたのはブルーノだ。
「ただいま帰りました……って、吞気だなぁ。僕は夜通し駆けて、途中で父にも会って段取りしてきたっていうのに」
旅塵で汚れたままのブルーノが、テーブルのスコーンに手を伸ばす。
「あっ! おまっ! 手ぐらい洗えよ」
アルバートが顔を顰めた。
「まあまあ義兄さん。固いこと言わずに」
シュラインが笑いながら言った。
「ご苦労さん。せめて座って食えよ、ブルーノ。お茶を淹れ代えよう」
その時激しい足音が廊下に響き、宰相の側近が入ってきた。
「宰相閣下、ミスティ侯爵夫人が危篤との連絡です。王妃殿下が付き添われているそうですが、予断を許さない状況とのことです」
五人が顔を見合わせて頷きあった。
「さすが狼王だ。予定より1日早い」
「まあ想定内だ。配置は?」
兄弟の会話に叔父が加わる。
「奴らのルートは抑えてある」
ブルーノがニコッと笑った。
「では狼狩りを始めましょうか」
五人は立ち上がった。
アルバートとキースがミスティ侯爵家に向かうために準備を始め、オースティンが馬車の手配に走る。
サミュエルは捕縛部隊と合流するために近衛騎士団に向かい、シュラインとブルーノはそれぞれの準備のためにいるべき場所に向かうために部屋を出た。
廊下を並んで歩きながら二人は小声で会話をしている。
「僕は先に王妃だと思ってました」
「ああ、俺もそう思ってた……ってことは、これは演技ではなくホントに危篤?」
「いや、ミスティ侯爵経由の父情報ではほとんど平癒していたらしいですからフェイクニュースでしょうね」
「裏があるのかな」
「宰相閣下の読み通り、黒狼が動き出しましたかね」
「そうだとしたら面倒だな。あいつの動きは読み切れん」
宰相の執務室の前までやってきた。
「どちらにしてもここまで来たんだ。今更変更はないさ」
「ええ、頑張りましょう」
二人は握手をして別れた。
27
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!
れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。
父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。
メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。
復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*)
*なろうにも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる