そして愛は突然に

志波 連

文字の大きさ
上 下
54 / 97

54

しおりを挟む
 今更ですが……
 『恋愛』から『ファンタジー』にジャンル変更します。
 恋愛系のお話しが少ないとのご指摘を多々いただきまして……
 寛大なお心でご了承くださいませ。
                  志波 連





 イーサンが肩を竦めてシェリーの座ったソファーの正面に腰かけた。

「僕があれからどうしていたかを話そうと思ったんだ」

 シェリーは黙って頷いた。

「自暴自棄になって領地に引っ込んだ僕の元に、エドワードさんが訪ねて来たんだよ。剣士なら誰でも知っている『黒狼』だ。もちろん話を聞いたさ。するとまるで訳の分からないことを言い出したんだ『数日後に王妃からの使いが来る。ブラッド家嫡男に招集令状が出るから、身代わりを申し出ろ』という内容だと言うんだよ。面食らっていたら今度はブルーノがやってきてね」

 仲良しの弟の名前にシェリーの心が跳ねた。

「三人で話し合ったよ。結局僕がブルーノの代わりに出兵することにして、バローナ国へブルーノが作った薬を秘密裏に届けることになった。準備もあるから一度王都に戻ったら王弟殿下が来られて説得されたけど断った。あの段階では誰が誰の味方なのかわからなかったからね。でも僕としては君の安全が第一だったから……」

 シェリーはギュッと掌を握った。

「うん、その話はサミュエル殿下から聞いたわ。あなたらしいって思ったの。だから疑いもしなかった。それにしてもブルーノはそっち側だったのね」

「君に悟らせるわけにはいかないだろ? そこは責めないでやって。あの時点ではアルバート殿下の動きは把握していたんだ。ローズ嬢の状態も分かっていたしね」

「アルバート殿下と王妃は、もう仲間だったということ?」

「いや、仲間ではないな。同じ目的を持っているのだとお互い認識していた程度だよ。何より王妃が辺境伯には見放されていると思っていたからね。まあ、今もそう思っているだろうけれど」

「なぜ?」

「辺境伯が……救いの手を差し伸べなかったからだ」

「どうして助けなかったの? 実の妹でしょう? しかも随分齢が離れた末妹なのに」

「領地を離れるわけにはいかなかったそうだ。ロナードが怪しい動きをしていたからね」

「それにしても……」

「そして僕は戦場に向かったことにして、替え玉と成り代わったんだ。彼は前の戦争の時一緒だった。彼は僕の命の恩人さ。僕を逃がそうとして怪我をしたんだ」

「まあ! そんなことが?」

「うん、彼にはシルバー侯爵家の領地に来てもらっていたんだけど、教会の下働きではなく子供たちに字や計算を教えてもらっていた。その時に出会った女性が奥さんだよ。彼らは詳しい事情は知らないけれど、僕の替え玉になることを了承してくれた」

 シェリーは黙ったまま話の続きを促した。

「僕は戦争で行方不明ってことになって、その通りの報告が為されたはずだ」

「ええ、そう聞いたわ。アルバートが酷く狼狽えて、私を慰めようと必死だった」

「そうなの? 彼は……優しい?」

「ええ、とても気遣ってくれるわ」

「さっき……彼を信じて着いて行くと言ったね」

「ええ、そう言ったわ」

「僕との未来は……無い?」

「イーサン?」

「ははは……ごめん。未練がましいね……ごめん、ホントごめん」

「イーサン、私たちは引き裂かれるような形で別れたでしょう? 心が残っていて当たり前だし、私も時間が戻せるならと何度も考えた。でもね……私はもうアルバート・ゴールディの妻なの。これが現実なの」

「そうだよね、うん。それでこそ僕の愛したシェリーだね。ごめんね、こんな時って男の方が未練がましいって言うけど本当みたいだ。うん……ちゃんと振ってくれてありがとうシェリー……明日から死ぬ気で頑張らないといけないって思ってさ……どうしても確認したかったんだ」

「うん……イーサン……ごめんね」

「絶対に成功させましょう、皇太子妃殿下」

「ええ、国民の暮らしのために死力を尽くしましょう、シルバー卿」

 イーサンがスッと立ち上がり最敬礼をした。
 その姿にシェリーも渾身のカーテシーで応える。
 涙を堪える二人の横で、レモンと戦闘メイド二人が目を真っ赤にしていた。
 部屋を出たイーサンの足音が遠ざかる。
 レモンから差し出されたハンカチで、シェリーは自分が泣いていたことに気付いた。

「そもそも攫われてきたんだもの。荷造りなんて必要ないわね」

「着替えは用意して貰ってますものね」

 シェリーとレモンは顔を見合わせて笑いあった。
 ジューンとジュライが移動用の服を持ってきた。
 レモンは辺境伯軍の騎士服だ。

「私は騎士服ではないの?」

 ジュライが無表情のまま応える。

「妃殿下に合うようなサイズはございませんので、こちらで」

 差し出されたのは王宮の侍女服だった。

「なぜこれがここに?」

 ニコッと笑っただけで答えは無い。
 シェリーは肩を竦めて侍女服を受け取った。
 シェリーとレモンは早めにベッドに横になることにした。
 少し離れたベッドに座ったレモンに話しかける。

「ここにきてふかふかのベッドは初めてなのに、今日が最後なのね。慌ただしいこと」

「やっとゆっくり眠れますね。どうぞ安心してお休みください」

「あなたもね」

 レモンはニコッと笑って頭を下げた。
 眠ろうと思ってすぐに眠れるほどシェリーは図太くない。
 レモンの寝息も聞こえない。
 暮れなずむ空を見ながらシェリーはイーサンのことを考えた。
 どれほど悲しかっただろうか……
 どれほど傷ついただろうか……
 どれほど絶望しただろうか……
 その答えを知っているのはイーサンとシェリーだけだ。
 それでも明日はやってくるし、この国に暮らす人々の生活は守らなくてはならない。
 シェリーは小さな溜息を吐いて目を瞑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜 王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。 彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。 自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。 アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──? どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。 イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。 *HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています! ※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)  話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。  雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。 ※完結しました。全41話。  お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...