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すみません 予約投稿の設定ミスをしていました。申し訳ありませんでした。
シェリーは周りの気配を伺いながら静かに目を開けた。
しかし、本当に自分が目を開けたのかどうかわからないほどの暗闇に慄く。
ここで騒いでは悪手だと腹を決め、じっと耳を澄ませると少し離れている場所で人の息遣いがした。
見張りの者かそれともレモンか……
判断に迷ったシェリーはまだ覚醒していないふりを決め込んだ。
身じろぎもせず全神経を耳に集中する。
先ほど感じた人の気配からコソコソと衣擦れの音がした。
ドレスのレースが擦れ合う音だ。
「レモン?」
「妃殿下! ご無事ですか」
「ええ、私は無事よ。あなたは? 酷く殴られていたから心配だわ」
「あの程度のことは何でもありません。ただ武器を奪われてしまいました。申し訳ございません」
「命があればそれでいいわ。私はなぜだか結婚指輪を奪われたの。動ける? 私は縛られているみたいで動けないのよ」
「私もです。後ろ手に拘束され、足首も縛られています」
「言うとおりにしたのに酷いわね」
「殺されなかっただけ良かったかと」
「そうね……ここはどこかしら。心当たりがある?」
「かなり長時間移動したのは確かですが、ここはどこなんでしょう……急なことだったので何も手掛かりを残すことができませんでした」
「仕方がないわ。今は夜中なのかしら。あなたの顔が見たいわ」
コソコソと会話をしていた時、コツコツという足音が耳に届いた。
「妃殿下……」
レモンが注意を促す。
シェリーは緊張した。
静かにドアが開き、廊下の灯りが部屋に伸びた。
入ってきた人間は男のようだが顔は見えない。
迷うことなくまっすぐにシェリーに向かって歩いてくる。
伸ばされた手に怯えたシェリーがひゅっと息を吞んだ。
「気付いたのかシェリー……ああ、良かった。怪我はないね?」
「その声は……イーサン? イーサンなの?」
「ああ、僕だよシェリー。会いたかった」
「なぜあなたがここに?」
「うん、いろいろあってね。ここはヌベール辺境伯の屋敷だ」
「私たちを攫った覆面の男はあなたなの?」
「そうだ。正確には三人いたけど、僕もその中にいたよ。攫った……そうだね。攫ったことは確かだけれど、僕たちは君の命を守ろうとしたんだ。あのまま王宮に居たら、それこそ国王の魔手に掛かっていたからね」
「意味が分からないわ。それよりこの拘束を解いて! 痛くて仕方がないの。彼女の拘束もよ」
「ああ、そうしてやりたいのは山々だけれど、今は難しい。もう少し待っていてくれ。必ず悪いようにはしないから」
「イーサン……あなた、怪我をしたって聞いたわ」
「うん、右目と右手を負傷して記憶喪失になったって話だろ? それは間違いない。でもそれは僕じゃない」
「えっ?」
「まあ後でゆっくり話すよ。食事を用意させよう」
イーサンはレモンには目もくれず、ゆっくりと部屋を出た。
シェリーは何が何やらわからないまま、呆然としている。
「皇太子妃殿下? 大丈夫ですか?」
レモンの声にやっと息を吸うことができたシェリーは、先ほど来た男についてレモンに説明を始めた。
シェリーは周りの気配を伺いながら静かに目を開けた。
しかし、本当に自分が目を開けたのかどうかわからないほどの暗闇に慄く。
ここで騒いでは悪手だと腹を決め、じっと耳を澄ませると少し離れている場所で人の息遣いがした。
見張りの者かそれともレモンか……
判断に迷ったシェリーはまだ覚醒していないふりを決め込んだ。
身じろぎもせず全神経を耳に集中する。
先ほど感じた人の気配からコソコソと衣擦れの音がした。
ドレスのレースが擦れ合う音だ。
「レモン?」
「妃殿下! ご無事ですか」
「ええ、私は無事よ。あなたは? 酷く殴られていたから心配だわ」
「あの程度のことは何でもありません。ただ武器を奪われてしまいました。申し訳ございません」
「命があればそれでいいわ。私はなぜだか結婚指輪を奪われたの。動ける? 私は縛られているみたいで動けないのよ」
「私もです。後ろ手に拘束され、足首も縛られています」
「言うとおりにしたのに酷いわね」
「殺されなかっただけ良かったかと」
「そうね……ここはどこかしら。心当たりがある?」
「かなり長時間移動したのは確かですが、ここはどこなんでしょう……急なことだったので何も手掛かりを残すことができませんでした」
「仕方がないわ。今は夜中なのかしら。あなたの顔が見たいわ」
コソコソと会話をしていた時、コツコツという足音が耳に届いた。
「妃殿下……」
レモンが注意を促す。
シェリーは緊張した。
静かにドアが開き、廊下の灯りが部屋に伸びた。
入ってきた人間は男のようだが顔は見えない。
迷うことなくまっすぐにシェリーに向かって歩いてくる。
伸ばされた手に怯えたシェリーがひゅっと息を吞んだ。
「気付いたのかシェリー……ああ、良かった。怪我はないね?」
「その声は……イーサン? イーサンなの?」
「ああ、僕だよシェリー。会いたかった」
「なぜあなたがここに?」
「うん、いろいろあってね。ここはヌベール辺境伯の屋敷だ」
「私たちを攫った覆面の男はあなたなの?」
「そうだ。正確には三人いたけど、僕もその中にいたよ。攫った……そうだね。攫ったことは確かだけれど、僕たちは君の命を守ろうとしたんだ。あのまま王宮に居たら、それこそ国王の魔手に掛かっていたからね」
「意味が分からないわ。それよりこの拘束を解いて! 痛くて仕方がないの。彼女の拘束もよ」
「ああ、そうしてやりたいのは山々だけれど、今は難しい。もう少し待っていてくれ。必ず悪いようにはしないから」
「イーサン……あなた、怪我をしたって聞いたわ」
「うん、右目と右手を負傷して記憶喪失になったって話だろ? それは間違いない。でもそれは僕じゃない」
「えっ?」
「まあ後でゆっくり話すよ。食事を用意させよう」
イーサンはレモンには目もくれず、ゆっくりと部屋を出た。
シェリーは何が何やらわからないまま、呆然としている。
「皇太子妃殿下? 大丈夫ですか?」
レモンの声にやっと息を吸うことができたシェリーは、先ほど来た男についてレモンに説明を始めた。
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