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その頃、ゴールディ国王執務室では不穏な会話がされていた。
「奴らの動きは?」
「相変わらずぬるいことを計画していますよ」
「あれじゃ王は務まらんな」
国王が軽い溜息を吐いた。
「バローナは後回しで良かろう。まずはグリーナだ」
「王妃殿下はどうなさるおつもりでしょうか?」
「あれはもうダメだろう。このまま自由にさせていても支障は無い。なんならこのままミスティの別荘で飼殺せ」
「畏まりました」
真っ黒なマントを羽織った男が、深々と礼をして部屋を出ようとしている。
男はチラッと国王を振り返ったが、すでに何の興味も示していないようだった。
肩から背中に流していたフードを被り、扉の前に控えていた護衛騎士に向かって、何やら小声で呪文のような言葉を呟いた。
「………………」
「うっ……」
護衛騎士は一瞬だけ苦しそうな顔をしたが、ブルっと顔を震わせた後、何事も無かったかのように無表情に戻った。
「ご苦労様です」
男の言葉に騎士は無言のまま頭を下げ、視線をまっすぐ前に向けた。
男はゆっくりと歩き出す。
まるで自分の城のように、廊下の真ん中を悠々と歩いた。
数人の使用人とすれ違うが、誰一人として男を見咎めるものはいない。
男が声を掛けなければ、その存在さえ気付かないようだった。
その姿を回廊の角から見ている二人の人間がいた。
「相変わらず鮮やかなもんだな」
「あれって魔法ですか?」
「魔法って……そんなわけあるか」
ふざけるような口調だが、その目は笑っていなかった。
回廊を曲がり男の姿が見えなくなる。
緊張を解いたのか、フッと息を吐く音がした。
「完璧に気配を消しているんだよ。あの兄弟は侮れんな」
「皇太子殿下はご存じなのでしょうか」
「もちろん知っているだろうよ。あいつは捨て身だ」
「ではわざと側に置いている?」
その問いには答えず、踵を返しながら言った。
「行こう」
「待ってくださいよぉ。サミュエル殿下」
歩き出したサミュエルの後を騎士服のレモンが慌てて追う。
「それにしてもサミュエル殿下って、私がドレスを着ているときは優しいのに騎士服だと冷たいですよね」
「お互い制服を纏っている時にイチャついていたら示しがつかんだろ?」
「それはそうですが……」
「不満か?」
「いえ! とんでもないです。なれなれしい口をきいてしまい申し訳ありませんでした」
「責めているわけでは無いんだ。けじめだと思ってほしい。それに今の君はどこから見ても男だぜ? まさか腕を組んでエスコートするわけにはいかないだろう? 違う方向でスキャンダルだ」
「そうですよね。それにしても兄は女装して妹の私は男装って……」
「歪んでるな」
「ええ、歪んでますよね」
サミュエルが目を細めた。
「君は何を着ていても凛として美しいよ」
レモンは顔を真っ赤に染めた。
二人は上官と部下の適切な距離感を保ったまま、シュラインの執務室を訪れた。
「今いいだろうか」
「ああ叔父上。どうぞ、おかけください」
仲間内ではお道化た口調のシュラインだが、さすがに一国の宰相だ。
執務室での威厳は只者ではない。
シュラインは侍従にお茶の用意を命じ、側近や文官に休憩をとるように促した。
「君も座りなさいよ」
サミュエルの後ろに立ってたレモンに笑顔を向ける。
「いえ、今日はここで」
レモンは騎士としての態度を崩さなかった。
「来てましたか?」
「ああ、兄上と話してさっさと帰って行ったよ」
「いつまでいるのですかね。ローズももういないし、王妃は別荘でしょう? 滞在理由がわからない」
「もしかしたら違うものを狙っているのかもな」
「違うもの?」
サミュエルが紅茶を一口含んだ。
「レモン。君には覚悟を決めてもらわねばならんかもしれない」
レモンがぴしっと姿勢を正した。
「仰せのままに」
その言葉を聞いたサミュエルの顔が一瞬だけ苦しそうな表情を浮かべた。
「奴らの動きは?」
「相変わらずぬるいことを計画していますよ」
「あれじゃ王は務まらんな」
国王が軽い溜息を吐いた。
「バローナは後回しで良かろう。まずはグリーナだ」
「王妃殿下はどうなさるおつもりでしょうか?」
「あれはもうダメだろう。このまま自由にさせていても支障は無い。なんならこのままミスティの別荘で飼殺せ」
「畏まりました」
真っ黒なマントを羽織った男が、深々と礼をして部屋を出ようとしている。
男はチラッと国王を振り返ったが、すでに何の興味も示していないようだった。
肩から背中に流していたフードを被り、扉の前に控えていた護衛騎士に向かって、何やら小声で呪文のような言葉を呟いた。
「………………」
「うっ……」
護衛騎士は一瞬だけ苦しそうな顔をしたが、ブルっと顔を震わせた後、何事も無かったかのように無表情に戻った。
「ご苦労様です」
男の言葉に騎士は無言のまま頭を下げ、視線をまっすぐ前に向けた。
男はゆっくりと歩き出す。
まるで自分の城のように、廊下の真ん中を悠々と歩いた。
数人の使用人とすれ違うが、誰一人として男を見咎めるものはいない。
男が声を掛けなければ、その存在さえ気付かないようだった。
その姿を回廊の角から見ている二人の人間がいた。
「相変わらず鮮やかなもんだな」
「あれって魔法ですか?」
「魔法って……そんなわけあるか」
ふざけるような口調だが、その目は笑っていなかった。
回廊を曲がり男の姿が見えなくなる。
緊張を解いたのか、フッと息を吐く音がした。
「完璧に気配を消しているんだよ。あの兄弟は侮れんな」
「皇太子殿下はご存じなのでしょうか」
「もちろん知っているだろうよ。あいつは捨て身だ」
「ではわざと側に置いている?」
その問いには答えず、踵を返しながら言った。
「行こう」
「待ってくださいよぉ。サミュエル殿下」
歩き出したサミュエルの後を騎士服のレモンが慌てて追う。
「それにしてもサミュエル殿下って、私がドレスを着ているときは優しいのに騎士服だと冷たいですよね」
「お互い制服を纏っている時にイチャついていたら示しがつかんだろ?」
「それはそうですが……」
「不満か?」
「いえ! とんでもないです。なれなれしい口をきいてしまい申し訳ありませんでした」
「責めているわけでは無いんだ。けじめだと思ってほしい。それに今の君はどこから見ても男だぜ? まさか腕を組んでエスコートするわけにはいかないだろう? 違う方向でスキャンダルだ」
「そうですよね。それにしても兄は女装して妹の私は男装って……」
「歪んでるな」
「ええ、歪んでますよね」
サミュエルが目を細めた。
「君は何を着ていても凛として美しいよ」
レモンは顔を真っ赤に染めた。
二人は上官と部下の適切な距離感を保ったまま、シュラインの執務室を訪れた。
「今いいだろうか」
「ああ叔父上。どうぞ、おかけください」
仲間内ではお道化た口調のシュラインだが、さすがに一国の宰相だ。
執務室での威厳は只者ではない。
シュラインは侍従にお茶の用意を命じ、側近や文官に休憩をとるように促した。
「君も座りなさいよ」
サミュエルの後ろに立ってたレモンに笑顔を向ける。
「いえ、今日はここで」
レモンは騎士としての態度を崩さなかった。
「来てましたか?」
「ああ、兄上と話してさっさと帰って行ったよ」
「いつまでいるのですかね。ローズももういないし、王妃は別荘でしょう? 滞在理由がわからない」
「もしかしたら違うものを狙っているのかもな」
「違うもの?」
サミュエルが紅茶を一口含んだ。
「レモン。君には覚悟を決めてもらわねばならんかもしれない」
レモンがぴしっと姿勢を正した。
「仰せのままに」
その言葉を聞いたサミュエルの顔が一瞬だけ苦しそうな表情を浮かべた。
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