そして愛は突然に

志波 連

文字の大きさ
上 下
37 / 97

37

しおりを挟む
 シュラインが声を出す。

「我が母親である側妃はすでにいない。アルバートの母親である王妃は、ミスティ侯爵の別荘で軟禁状態だ。皇太子印と皇太子妃印は国王の手元にある。まあどちらもダミーだけど。にもかかわらず、皇太子と皇太子妃の名において悪政を進め、グリーナ国への宣戦布告の準備が進んでいるんだ」

「国家転覆罪ですわ」

 シェリーが口に出した。

「うん、このままではアルバートとシェリーが罪を被ることになる。そして次期国王は王弟であるサミュエル叔父だ。サミュエル叔父は剣は強いが政治には疎い。そこを補うのが私という絵だね」

 一度シュラインはワインを口に含んだ。

「叔父上と僕は父王の言いなりになると誤解させている。これはずっと努力をしてきた結果なんだけどね。実は私と叔父上は父を幽閉するためにかなり前から動いていたんだ。弟は国王になるんだから手を汚させない方がいいと思ってね。でも今回の件でアルバートが捨て身の作戦を決行してしまった。情報共有ができていなかったから焦ったよ」

 アルバートが口角を上げた。

「僕は叔父上と兄上は国王の手先だと思ってましたからね」

 二人はフッと笑った。

「お互い様だ。お前こそ兄上の言いなりだと思っていたんだ」

「でも、お互いに目的は同じでしたね」

「ああ、そういうことだ」

 三人は頷きあった。
 シェリーが改めて確認するように口を開いた。

「国王陛下の目的は?」

 アルバートが静かに言う。

「グリーナ王国を自分の愛した女の子供の手に渡すこと。そしてバローナ王国を併吞し三国を束ねて帝国化し、自らが初代皇帝となる」

「はぁぁぁぁ」

 シェリーは心からの溜息を吐いた。
 
「サミュエル様がゴールディの国王になって、アルバート殿下は?」

「うん、多分僕がバローナの国王だろうね。バローナは国を挙げてオピュウムの栽培をするという計画なんじゃないかな。君を僕の妃にしたということはそういうことだ」

「なるほど。私って人質なんですのね? それで? 皆さんの目指すところは?」

 キースが答える。

「私はグリーナ王国を国家として安定させることです。今の王妃では不正と賄賂が横行する低俗な国になってしまいます」

「それは結果的には国王が目指している着地点と同じでは?」

「全く違いますよ。属国になる気はありませんからね」

 シェリーが頷いた。
 アルバートが続ける。

「ゴールディ王国は現国王を更迭する。オピュウムは純然たる医薬品として扱うべきだ。扱い方さえ間違えなければ我が国の主力商品となる。しかしバローナは今のままでは崩壊するだろうね……」

「ロナードは自分が王になる気満々みたいだぜ?」

 シュラインが皮肉っぽい声を出した。

「させるか!」

 アルバートが声を荒げた。
 シェリーがアルバートを宥めながら言った。

「一旦はゴールディが後見となり、王家の立て直しに尽力しつつというところでしょうか」

「そうだね。それが正しい道だ」

 サミュエルが何度も頷きながらシェリーの言葉に賛成した。
 レモンが小さく手を上げながら発言する。

「これからどう動きますか?」

 キースが口を開いた。

「兄上はすでに廃人と化しているし、父王も同様だ。王妃はちょっとしたスキャンダルで失脚して幽閉という道を歩んでもらいましょう。準備は整っていますが、こちらと足並みをそろえて実行しないといけません」

 アルバートが何度も頷いた。

「当面は元婚約者を連れ歩いて妻を蔑ろにしているバカ皇太子を続けるよ。ローズが死んだときにミスティ侯爵の堪忍袋の緒が切れた。全面的に協力してくれる。ロナードは消えてもらうさ。こちらは早急にね」

 サミュエルがレモンの顔を見なが言う。

「女嫌いの私がレモン嬢に夢中になっていると兄に思わせなくてはいけない。レモン嬢は王妃になりたいと思っているという噂を撒いて、それを叶えようとしているってね」

「では私はまだサミュエル殿下のお近くに居られますの?」

「そうだね。私では不服だろうが我慢して欲しい」

 レモンがブンブンと顔を横に振って真っ赤な顔をした。
 ずっと黙っていたレモンの兄オースティンが口を開く。

「誤解するなよ。お前はアルバート殿下の影武者みたいなものだ。それにサミュエル殿下とお前じゃあ月とすっぽん、提灯と釣鐘、宮廷料理と屋台の串焼きほどの差がある」

 レモンが頬を膨らせた。
 さすがにサミュエルが慌てる。

「オースティン、言い過ぎだ」

「いえ、悔しいですが納得です。見た目も身分も剣技も殿下の足元にも及びませんから」

「レモン嬢……私はあなたをとても可愛らしい人だと思っているよ」

 サミュエルの言葉に、レモンの顔が赤を通り越して紫になってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜 王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。 彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。 自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。 アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──? どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。 イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。 *HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています! ※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)  話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。  雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。 ※完結しました。全41話。  お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...