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「皇太子妃殿下、お手紙でございます」
アルバートと再会して数日後、何事もなかったかのように平静を装っていたシェリーの執務室に手紙が届けられた。
「ありがとう、誰かしら?」
受け取った手紙を開封し、さっそく読み始める。
「少し休憩なさいませんか?」
シェリーの斜め前の机に座っていた文官が、立ち上がりながらそう言った。
「ええ、そうね。お茶にしましょうか」
シェリーはそう言いつつも執務机から動かず、手紙を読んだ。
『親愛なるシェリー様
ご無沙汰しております。私は学園時代に親しくお話をしていただいていたレイバート子爵家が次女のレモンでございます』
「レモン?」
そう声に出したシェリーの方に文官が顔を向ける。
「ああ、ごめんなさい。随分懐かしい名前だったものだから。先に休んでて? これを読んでからいただくから」
まるで覚えのない名前に戸惑いつつも読み進める。
『卒業してから体調を崩し、療養のために領地に帰っておりましたが、この度兄を頼って王都へ戻ることに致しました。つきましてはご尊顔を拝しつつ、懐かしい思い出を語り合いたくお手紙を差し上げた次第でございます。兄は皇太子殿下の従者として王城に務めておりますので、お返事は兄に託していただければと存じます。ぜひお時間を賜りたく、心よりお願い申し上げます。
レモン・レイバート』
レイバートといえば……誰からの手紙かすぐにわかったシェリーは手紙を引き出しに仕舞い、ソファーに移動した。
「お友達からですか?」
文官が意味もなく質問を口にする。
「ええ、学園時代のお友達よ。お兄様が皇太子殿下の従者として勤めているのですって。彼女の実家は遠いからご兄弟のことまでは知らなかったわ」
「へぇ、誰です?」
「オースティン・レイバートよ」
「へぇぇ、彼って妹がいたんだ。私も知りませんでした。良い奴ですよね、人が嫌がる仕事も率先してやるし、皇太子殿下の覚えもめでたんじゃないかな? 頻繫にお供を仰せつかっているようですね」
「そうね、私も皇太子殿下の執務室や私室で会ったことがあるわ。背の高いシュッとした感じのひとよね。彼は独身なの?」
「ええ、多分そうですよ? まあ皇太子殿下が重用されているようですから恋をする暇も無いのではないですか?」
「まあ、それは気の毒ね」
二人は笑いあった。
「直近で調整できそうな日はあるかしら?」
「明日なら三時以降、それを逃すと来週でしょうか」
「急だけれど明日はどうかって返事を書くわね。もし都合が良ければ調整をお願い」
「畏まりました」
シェリーは胸の鼓動を抑えきれなかった。
愛していたという自覚は無い。
しかし裏切られたと思った時、とても苦しくて悲しかった。
そのことで自分の気持ちを知ったようなものだ。
シェリーは机に戻り返事をしたためて、メイドに持たせた。
「これを皇太子殿下の侍従であるオースティン・レイパードに渡してきて。本人がいなかったら託けず持ち帰ってちょうだい」
メイドがすぐに出て行く。
それを見送ったシェリーが文官に言った。
「明日の時間調整の件で宰相閣下にお会いしたいと伝言をお願い」
ひとつ頷いて文官が立ち上がった。
閉まるドアを見ながら、シェリーは早鐘を打つ自分の心臓に意識を向けた。
「信じるのよ。あなたの夫を信じるの。できるわね? シェリー」
誰もいなくなった部屋で、自らに言い聞かせるシェリーだった。
アルバートと再会して数日後、何事もなかったかのように平静を装っていたシェリーの執務室に手紙が届けられた。
「ありがとう、誰かしら?」
受け取った手紙を開封し、さっそく読み始める。
「少し休憩なさいませんか?」
シェリーの斜め前の机に座っていた文官が、立ち上がりながらそう言った。
「ええ、そうね。お茶にしましょうか」
シェリーはそう言いつつも執務机から動かず、手紙を読んだ。
『親愛なるシェリー様
ご無沙汰しております。私は学園時代に親しくお話をしていただいていたレイバート子爵家が次女のレモンでございます』
「レモン?」
そう声に出したシェリーの方に文官が顔を向ける。
「ああ、ごめんなさい。随分懐かしい名前だったものだから。先に休んでて? これを読んでからいただくから」
まるで覚えのない名前に戸惑いつつも読み進める。
『卒業してから体調を崩し、療養のために領地に帰っておりましたが、この度兄を頼って王都へ戻ることに致しました。つきましてはご尊顔を拝しつつ、懐かしい思い出を語り合いたくお手紙を差し上げた次第でございます。兄は皇太子殿下の従者として王城に務めておりますので、お返事は兄に託していただければと存じます。ぜひお時間を賜りたく、心よりお願い申し上げます。
レモン・レイバート』
レイバートといえば……誰からの手紙かすぐにわかったシェリーは手紙を引き出しに仕舞い、ソファーに移動した。
「お友達からですか?」
文官が意味もなく質問を口にする。
「ええ、学園時代のお友達よ。お兄様が皇太子殿下の従者として勤めているのですって。彼女の実家は遠いからご兄弟のことまでは知らなかったわ」
「へぇ、誰です?」
「オースティン・レイバートよ」
「へぇぇ、彼って妹がいたんだ。私も知りませんでした。良い奴ですよね、人が嫌がる仕事も率先してやるし、皇太子殿下の覚えもめでたんじゃないかな? 頻繫にお供を仰せつかっているようですね」
「そうね、私も皇太子殿下の執務室や私室で会ったことがあるわ。背の高いシュッとした感じのひとよね。彼は独身なの?」
「ええ、多分そうですよ? まあ皇太子殿下が重用されているようですから恋をする暇も無いのではないですか?」
「まあ、それは気の毒ね」
二人は笑いあった。
「直近で調整できそうな日はあるかしら?」
「明日なら三時以降、それを逃すと来週でしょうか」
「急だけれど明日はどうかって返事を書くわね。もし都合が良ければ調整をお願い」
「畏まりました」
シェリーは胸の鼓動を抑えきれなかった。
愛していたという自覚は無い。
しかし裏切られたと思った時、とても苦しくて悲しかった。
そのことで自分の気持ちを知ったようなものだ。
シェリーは机に戻り返事をしたためて、メイドに持たせた。
「これを皇太子殿下の侍従であるオースティン・レイパードに渡してきて。本人がいなかったら託けず持ち帰ってちょうだい」
メイドがすぐに出て行く。
それを見送ったシェリーが文官に言った。
「明日の時間調整の件で宰相閣下にお会いしたいと伝言をお願い」
ひとつ頷いて文官が立ち上がった。
閉まるドアを見ながら、シェリーは早鐘を打つ自分の心臓に意識を向けた。
「信じるのよ。あなたの夫を信じるの。できるわね? シェリー」
誰もいなくなった部屋で、自らに言い聞かせるシェリーだった。
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