1 / 43
プロローグ
しおりを挟む
もうずっと、まるで水の中にいるような感じだ。
体は冷たく、うまく喋ることもできない。
唯一の心の癒しだった小鳥の囀りが聞こえなくなって何日くらい経つのだろう。
昨日よりずっと何も感じなくなっているから、そろそろかなと考えていたら、誰かが部屋に入ってきたような気配を感じたが、うっすらとした光りしか感じなくなったこの目では、確認もできない。
少しだけ指先が温かいような気がするが何だろう。
誰かが手を握っているのだろうか。
また殴られるのだろうか。
今の自分には抵抗する力はおろか、叫ぶことさえできないというのに。
まあ叫んだところで、だれも駆けつけてはくれないが……。
もういい。
もう全部終わりにしてほしい。
私が何をしたというのだろう……。
お祖母様の具合はどうなのだろう。
お父様は約束を守ってくれたのだろうか。
ごめんなさい、お祖母様。
きっともう会えないわ。
先に行ってお祖父様とお母様と一緒に待ってるね。
あら? あの光は何かしら。
ああ、なんだかとても温かい。
『マリア……お前を迎えに来た。本来ならすぐにでも連れて行くところだが、辛い思いばかりだったお前に、願いをひとつだけ叶えてやろうと思って私が自らきたのだよ。さあ、何なりと言ってみるがいい』
『願い? あなたはどなた?』
『私は森羅万象を司る者』
『願い……』
『何を望む? お前をこんな目に合わせた奴ら全員に罰を与えるか? 誰かの愛を手に入れるのも思いのままだぞ。一人になって自由に生きることも選べるし、この国の女王にもしてやろう。ただし叶えてやれるのはひとつだけだ』
『ひとつだけ……私は……今すぐ全部終わって欲しい。本当にそれだけなのです……』
『それは願わずとも……あいわかった。すぐに連れて行ってやろう』
マリアの指先がピクッと動き、ゴフッと大きく息を吐いた。
それと同時に心臓は止まり、彼女の肺は静かに動かなくなった。
体は冷たく、うまく喋ることもできない。
唯一の心の癒しだった小鳥の囀りが聞こえなくなって何日くらい経つのだろう。
昨日よりずっと何も感じなくなっているから、そろそろかなと考えていたら、誰かが部屋に入ってきたような気配を感じたが、うっすらとした光りしか感じなくなったこの目では、確認もできない。
少しだけ指先が温かいような気がするが何だろう。
誰かが手を握っているのだろうか。
また殴られるのだろうか。
今の自分には抵抗する力はおろか、叫ぶことさえできないというのに。
まあ叫んだところで、だれも駆けつけてはくれないが……。
もういい。
もう全部終わりにしてほしい。
私が何をしたというのだろう……。
お祖母様の具合はどうなのだろう。
お父様は約束を守ってくれたのだろうか。
ごめんなさい、お祖母様。
きっともう会えないわ。
先に行ってお祖父様とお母様と一緒に待ってるね。
あら? あの光は何かしら。
ああ、なんだかとても温かい。
『マリア……お前を迎えに来た。本来ならすぐにでも連れて行くところだが、辛い思いばかりだったお前に、願いをひとつだけ叶えてやろうと思って私が自らきたのだよ。さあ、何なりと言ってみるがいい』
『願い? あなたはどなた?』
『私は森羅万象を司る者』
『願い……』
『何を望む? お前をこんな目に合わせた奴ら全員に罰を与えるか? 誰かの愛を手に入れるのも思いのままだぞ。一人になって自由に生きることも選べるし、この国の女王にもしてやろう。ただし叶えてやれるのはひとつだけだ』
『ひとつだけ……私は……今すぐ全部終わって欲しい。本当にそれだけなのです……』
『それは願わずとも……あいわかった。すぐに連れて行ってやろう』
マリアの指先がピクッと動き、ゴフッと大きく息を吐いた。
それと同時に心臓は止まり、彼女の肺は静かに動かなくなった。
59
お気に入りに追加
2,497
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた--
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は--
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる