43 / 66
43 民族衣装に身を包む
しおりを挟む
バリ島でも高級なランクとされるこのホテルでも数少ないツーベッドルームスイートとコネクティングルームを三人で使っている小夜子たちは、ホテルスタッフから皇族のような扱いを受けていた。
コネクティングルームは山中が使い、入り口側のベッドルームを美奈が使っている。
そしてその並びのスイートルームを使用しているのが山本親子だ。
「先生にも声を掛けますか?」
「後でね。まだ呼ばないでちょうだい」
「畏まりました」
小夜子が昨日ホテルのセレクトショップで購入した薄いピンク色の民族衣装クバヤを身につけた。
「よくお似合いです。本当にすごく素敵だわ」
美奈が感嘆の声をあげる。
「そう? ピンクっていうのが少し恥ずかしいけれど」
「いえ、お嬢様にぴったりです。素晴らしいわ」
「あなたも買ったでしょう? あれを着る?」
「引き立て役はごめん被りますよ。私はこのままで」
「そう? 素敵な紫のレースでよく似合ってたわよ?」
言い返そうとする美奈の後ろでドアを叩く音がした。
小夜子は美奈に頷いて見せて、自分は鏡に視線を戻す。
やってきた客は通訳を連れているのか、流暢な日本語が聞こえた。
「お嬢様、いらっしゃいました」
美奈が小夜子の寝室に顔を出す。
「すぐに行くわ」
小夜子はもう一度全身を鏡に移してから背筋を伸ばした。
「イヴゥ! イヴ・パラメタ・メラ・ムダ……イヴクゥ……ああ……」
ジャスミンの花束を握ったまま膝をついた来訪者は、サム・ワン・チェンだった。
その横には通訳として同行したブディが立っている。
小夜子はゆっくりと近づき、サムに手を伸ばした。
「初めまして。私は斉藤小夜子です。おじさまとお呼びしても?」
ブディが通訳し、サムが顔を上げた。
立ち上がりながらサムが言った言葉を小夜子に伝えるブディ。
「私はブディと申します。インドネシア駐日大使館員です。仕事でこちらにいましたので、大使からの要請で通訳として同行しています。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。先ほどはなんと仰ったのでしょうか?」
「お母さん! パラメタ母さん、私のお母さんと言いました」
「そんなに似ているのかしら」
不思議そうな顔をする小夜子に、サムが何度も頷いて見せた。
「クバヤもとてもお似合いで、生き写しのようだと言っています」
小夜子は困惑したような表情を浮かべながら山中を見た。
「私はその方にもサクラさんにも会ったことは無いですが、小百合さんと小夜子さんはよく似てますからね。きっとそうなのでしょうね」
そう言って山中はサムとブディをソファーに案内した。
タイミングよくルームサービスが運ばれ、ワゴンを受け取った美奈がアイスティーを配って回る。
じっと小夜子の顔を見ていたサムが、思い出したように花束を差し出した。
「これはインドネシアの国花です。良い香りがするのでお茶にも使われます」
「ありがとうございます。本当に良い香りですね」
受け取った小夜子が花束に顔を埋めるようにして香りを楽しむ。
気を利かせた美奈が飾ってある花瓶に水を満たした。
山中が口を開く。
「早速ですが邪魔が入らないうちに始めましょうか」
ブディが伝えるとサムは真剣な顔で頷いた。
コネクティングルームは山中が使い、入り口側のベッドルームを美奈が使っている。
そしてその並びのスイートルームを使用しているのが山本親子だ。
「先生にも声を掛けますか?」
「後でね。まだ呼ばないでちょうだい」
「畏まりました」
小夜子が昨日ホテルのセレクトショップで購入した薄いピンク色の民族衣装クバヤを身につけた。
「よくお似合いです。本当にすごく素敵だわ」
美奈が感嘆の声をあげる。
「そう? ピンクっていうのが少し恥ずかしいけれど」
「いえ、お嬢様にぴったりです。素晴らしいわ」
「あなたも買ったでしょう? あれを着る?」
「引き立て役はごめん被りますよ。私はこのままで」
「そう? 素敵な紫のレースでよく似合ってたわよ?」
言い返そうとする美奈の後ろでドアを叩く音がした。
小夜子は美奈に頷いて見せて、自分は鏡に視線を戻す。
やってきた客は通訳を連れているのか、流暢な日本語が聞こえた。
「お嬢様、いらっしゃいました」
美奈が小夜子の寝室に顔を出す。
「すぐに行くわ」
小夜子はもう一度全身を鏡に移してから背筋を伸ばした。
「イヴゥ! イヴ・パラメタ・メラ・ムダ……イヴクゥ……ああ……」
ジャスミンの花束を握ったまま膝をついた来訪者は、サム・ワン・チェンだった。
その横には通訳として同行したブディが立っている。
小夜子はゆっくりと近づき、サムに手を伸ばした。
「初めまして。私は斉藤小夜子です。おじさまとお呼びしても?」
ブディが通訳し、サムが顔を上げた。
立ち上がりながらサムが言った言葉を小夜子に伝えるブディ。
「私はブディと申します。インドネシア駐日大使館員です。仕事でこちらにいましたので、大使からの要請で通訳として同行しています。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。先ほどはなんと仰ったのでしょうか?」
「お母さん! パラメタ母さん、私のお母さんと言いました」
「そんなに似ているのかしら」
不思議そうな顔をする小夜子に、サムが何度も頷いて見せた。
「クバヤもとてもお似合いで、生き写しのようだと言っています」
小夜子は困惑したような表情を浮かべながら山中を見た。
「私はその方にもサクラさんにも会ったことは無いですが、小百合さんと小夜子さんはよく似てますからね。きっとそうなのでしょうね」
そう言って山中はサムとブディをソファーに案内した。
タイミングよくルームサービスが運ばれ、ワゴンを受け取った美奈がアイスティーを配って回る。
じっと小夜子の顔を見ていたサムが、思い出したように花束を差し出した。
「これはインドネシアの国花です。良い香りがするのでお茶にも使われます」
「ありがとうございます。本当に良い香りですね」
受け取った小夜子が花束に顔を埋めるようにして香りを楽しむ。
気を利かせた美奈が飾ってある花瓶に水を満たした。
山中が口を開く。
「早速ですが邪魔が入らないうちに始めましょうか」
ブディが伝えるとサムは真剣な顔で頷いた。
3
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる