消された過去と消えた宝石

志波 連

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43 民族衣装に身を包む

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 バリ島でも高級なランクとされるこのホテルでも数少ないツーベッドルームスイートとコネクティングルームを三人で使っている小夜子たちは、ホテルスタッフから皇族のような扱いを受けていた。
 コネクティングルームは山中が使い、入り口側のベッドルームを美奈が使っている。
 そしてその並びのスイートルームを使用しているのが山本親子だ。

「先生にも声を掛けますか?」

「後でね。まだ呼ばないでちょうだい」

「畏まりました」

 小夜子が昨日ホテルのセレクトショップで購入した薄いピンク色の民族衣装クバヤを身につけた。

「よくお似合いです。本当にすごく素敵だわ」

 美奈が感嘆の声をあげる。

「そう? ピンクっていうのが少し恥ずかしいけれど」

「いえ、お嬢様にぴったりです。素晴らしいわ」

「あなたも買ったでしょう? あれを着る?」

「引き立て役はごめん被りますよ。私はこのままで」

「そう? 素敵な紫のレースでよく似合ってたわよ?」

 言い返そうとする美奈の後ろでドアを叩く音がした。
 小夜子は美奈に頷いて見せて、自分は鏡に視線を戻す。
 やってきた客は通訳を連れているのか、流暢な日本語が聞こえた。

「お嬢様、いらっしゃいました」

 美奈が小夜子の寝室に顔を出す。

「すぐに行くわ」

 小夜子はもう一度全身を鏡に移してから背筋を伸ばした。

「イヴゥ! イヴ・パラメタ・メラ・ムダ……イヴクゥ……ああ……」

 ジャスミンの花束を握ったまま膝をついた来訪者は、サム・ワン・チェンだった。
 その横には通訳として同行したブディが立っている。
 小夜子はゆっくりと近づき、サムに手を伸ばした。

「初めまして。私は斉藤小夜子です。おじさまとお呼びしても?」

 ブディが通訳し、サムが顔を上げた。
 立ち上がりながらサムが言った言葉を小夜子に伝えるブディ。

「私はブディと申します。インドネシア駐日大使館員です。仕事でこちらにいましたので、大使からの要請で通訳として同行しています。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。先ほどはなんと仰ったのでしょうか?」

「お母さん! パラメタ母さん、私のお母さんと言いました」

「そんなに似ているのかしら」

 不思議そうな顔をする小夜子に、サムが何度も頷いて見せた。

「クバヤもとてもお似合いで、生き写しのようだと言っています」

 小夜子は困惑したような表情を浮かべながら山中を見た。

「私はその方にもサクラさんにも会ったことは無いですが、小百合さんと小夜子さんはよく似てますからね。きっとそうなのでしょうね」

 そう言って山中はサムとブディをソファーに案内した。
 タイミングよくルームサービスが運ばれ、ワゴンを受け取った美奈がアイスティーを配って回る。
 じっと小夜子の顔を見ていたサムが、思い出したように花束を差し出した。

「これはインドネシアの国花です。良い香りがするのでお茶にも使われます」

「ありがとうございます。本当に良い香りですね」

 受け取った小夜子が花束に顔を埋めるようにして香りを楽しむ。
 気を利かせた美奈が飾ってある花瓶に水を満たした。
 山中が口を開く。

「早速ですが邪魔が入らないうちに始めましょうか」

 ブディが伝えるとサムは真剣な顔で頷いた。
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