僕の魂は君と出会うためだけに存在していたんだ

志波 連

文字の大きさ
8 / 63

8 僕がここに来た理由

しおりを挟む
 僕の暮らしていた世界は、今いるこの世界よりほんの少し時間の経過が遅い。
 ここでの一年があちらでの一日くらいかな?
 この世界ではサーフェスという名前にしたが、どうもこの地の人の一般的な名前ではなかったので、西洋人と呼ばれる人種に見えるように姿を変えた。
 僕の本当の名前は「さかしなのふえすみずやれのみこ」だ。
 きっと難しすぎて受け入れられないだろう?
 
 住んでいる人々の暮らしぶりも価値観も、近いようでやはり違う。
 景色はとても近いけれど、建物の形や日常的な服装も全く違っている。
 それでもこの世界が懐かしいと感じるのは、僕の祖先がこの地に降り立った最初の「神」だったからかもしれない。
 もちろん、僕の祖先が降り立った時にも人は暮らしていた。
 その頃の人々は、日々の暮らしのことしか考えていなくて、隣り合った集落との小競合いはあったものの、征服とか侵略などという概念は持っていなかったと聞いている。

 ではなぜそうなったのか…。
 それは最初の「神」である僕の祖先が来たからだ。
 彼らはこの地を統治して、生産性の高い中央集権型の国を作ろうとしたのだ。
 それは、このままでは人といえど、自然界の動物の一種と変わらず、文明の発達もとんでもなく時間がかかりそうだったかららしい。

 早い段階で手を出さないと、大陸から侵略されてしまうのは目に見えていたんだ。
 それを阻止して、この自然を守るためには自立させなくてはいけないと判断した。
 この地は僕の祖先からしたらパラダイスだったのだ。
 つかれた体と心を癒すために訪れる観光地のようなものだ。
 長期休暇を使って「ヒノモト」にバカンスに行くのは一種のステータスだったそうだ。

 しかし、最初の「神」から何代目かの「神」が禁忌を犯したんだ。
 この世界の女性との間に子供を作ってしまったんだ。
 それはあちらの世界とこちらの世界を行き来するルールのようなもので、ミックスの血統はゲートを通過できないのだ。
 ゲートが通過できない神など存在してはいけない。
 だから子孫は残さないというおきてがあったんだ。

 しかしできてしまったものは仕方がない。
 神の子を身籠った娘の親は、その娘を遠く離れた僻地に隠し、死んだと言い張った。
 まあ隠しても誰かがばらすのはいつの時代も同じだ。
 都に定めた場所から遠く離れた山間で、神が作った政権とは別の政権が発足した。
 
 ちょうどその頃、僕たちの世界でもちょっとした内乱があった。
 人と交わること禁忌への反対派と賛成派の対立のような個のだ。
 結局、多数決で反対派が勝利したけれど、ヒノモトに行く者は激減したそうだ。
 そしてやがて疎遠となり、神とのミックス種がヒノモトでの神として政権を運営するようになった。
 もうそれでいいはずだったんだ。
 二度と行き来することなど無いはずだった。
 でもあの事件が起こったんだ。

 神の血を引く男が起こした理不尽な事件。
 こちらの世界に戻らず、木や草や川や物に身を変えてヒノモトに残ることを選択していた神達が、手を出してしまうほどの事件。
 そしてその時に命を奪われたあの娘の魂が輪廻により再誕したことによって、風化したはずの事件が再び動き出してしまった。
 
 僕の妹を奪うために、あの男の魂がこちらの世界にやってきたのだ。
 あの男の魂は、あの事件の時にその場にいた神によって分断され、半分は消滅したが半分は存在し続けた。
 おそらく存在しつづけることができたのは、神の子孫であったことが理由だろう。
 
 男は魂を半分にされた事で人型を維持できなくなっていた。
 消滅した魂を戻すには、それを切り裂いた神が憑いていた形代を破壊することが必要だ。
 そしてその形代は僕の世界に保管されていた。
 男は僕たちの世界には入ってこられない。
 そこであの男は、過去の事件を思い出したのだ。

 今は僕の妹となっている自分が殺した魂と自分の魂を共鳴させ、引き寄せさせたのだ。
 妹は自分の魂の過去のことなど記憶にないから、その男が現れたとき息が止まるほど驚き、恐怖した。
 抗うこともできず、ただ無残に貪られようとしていた時、僕の中に鋭い声が響いたんだ。
『あの娘を助けてくれ!守ってくれ!』
 その声が誰のものかなど、考える暇もなく僕は妹の部屋に走った。
 その男が妹に襲い掛かろうとするその刹那、僕はその男を蹴り倒した。
 その男は輪郭を持たない影のような形なのに、確かに個体として存在していた。
 その男は姿を消した。
 目的の形代である神刀オオクニヌシを盗んで…。

 僕は他の神たちと相談して神刀オオクニヌシを取り戻すために、この世界へと降り立った。
 神がこの地に降りるのは実に千六百年以上ぶりだ。
 しかし、この地に来てもオオクニヌシの気配はまったく感じなかった。
『抜けたか?』
 そう思ったが、万が一ということもあるし、あの男をこのまま野放しにするわけにはいかない。
 そこで、僕はあの事件に関連する人々の魂が輪廻している人間のもとに向かった。
 そう、あの事件の最大の被害者である娘の夫だった男の魂が宿る人間だ。

「まさか高校生とは思わなかった」

 僕は仕方なく自分も高校生となり、その人間に近づいた。
 きっと魂が呼び合ったのだろう、その人間も僕に興味を持ち近づいてきた。
 できれば巻き込みたくは無いが、あの男は絶対にここに来ると確信を持っていた。
 僕が守らなくては…
 
 僕たちは仲の良い友として高校生活を楽しんでいた。
 今は情報収集を優先するべきだと判断したからだ。
 焦っても仕方がない…そう思っていたのに、僕は二つの重大な事実に気づいたんだ。

 あの男の手に渡る瞬前に神刀オオクニヌシから抜けた神の魂が、新たに依り代として選んだものの正体。
 そして、あの男が異常なほどあの娘に執着してしまう理由。
 予想外の展開だが、こうなっては自分だけではどうしようもない。
 可哀想だが、この青年にも覚悟を決めてもらうしかないだろう。
 さて、どこから話せば良いだろうか…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

処理中です...