愛すべきマリア

志波 連

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 カーチスはわざとらしいほどの盛大な溜息を吐いた。

「相変わらずだねぇ。クールというか無関心というか。兄上に同情してしまうよ」

 マリアがクスッと笑った。

「アラバス殿下もきっと同じだと思いますわよ?」

「うん、そうかもね。クールな君たちが国王夫妻になったら、この国の平均気温が下がるんじゃないか?」

「それはどうかしら? でも冷害などは起こさないことをお約束しますわ」

「ははは! それは何よりだ」

 二人が国王夫妻の前に到着すると、マリアの婚約者であるアラバス第一王子と、兄のトーマス、そして先ほど呼びに来たアレンも揃っていた。
 マリアはゆっくりと視線を下げて淑女の正式な礼をする。

「王国の偉大なる太陽と、美しき月にアスター侯爵家が娘、マリアがご挨拶申し上げます。本日は誠におめでとう存じます」

 アラバスよりも先に王妃が声を掛けた。

「待たせて悪かったわね。一人で寂しかったでしょう?」

 マリアがカーテシーの姿勢を解いて微笑む。

「いえ、いろいろとお相手をして下さるご令嬢がおられましたので、退屈は致しませんでしたわ」

 トーマスが肩を竦めてアラバスを見た。

「ふんっ! くだらんな」

 半年ぶりに聞いた婚約者の声に、マリアはピクッと肩を揺らした。

(ほかに言うことが無いのかしら。ただいまとか、会いたかったとか久しぶりだねとか)

 そう思ったが、口にも態度にも出さないのは当たり前の事。

「お帰りなさいませ、アラバス殿下」

「ああ。マリアも息災で何よりだ」

 国王が二人を交互に見ながら声を出した。

「マリアは後一年ほど学生だろう? 実は頼みがあってねぇ、それで来てもらったんだ」

「シラーズ王国からのお客様のことでございましょうか?」

 国王がチラッとカーチスを見た。

「ああ、その件だ。彼女の名前はラランジェ。側妃腹だが第二王女だよ。年齢はマリアやカーチスと同じ十六歳だそうだ」

 マリアは表情も変えずにカーチスに聞いた。

「ご留学とのことでしたが、期間はどれくらいの予定なのでしょうか」

 チラッと兄王子の顔を見たカーチスが茶化すように答える。

「三か月って聞いているけれど、本当のところはどうなのだろうね。王宮に運び込まれた荷物の量を見ると、永住するんじゃないかってくらいだったけれど」

 ふと見ると、トーマスとアレンが吹き出しそうな顔で耐えていた。

「まあ! それほどですの?」

「うん、きっと一日三回着替えても三か月では半分も着れないんじゃないかな? しかもアクセサリーや夜会用のドレスはすべて兄上の色ときてるんだ。本当に笑わせてくれるよ」

「アラバス様のお色?」

 マリアは改めて自分の婚約者を見た。
 留学からの帰還を機に、立太子するだろうと言われているアラバス・ワンダーは、少し癖のある濃紺の髪で、吸い込まれるような水色の瞳をしている。
 顔の作りは王国一の美女と言われた王妃によく似ており、その体つきは鍛え上げた騎士のようだ。

「それは……なんと申し上げて良いのでしょうか」

「放っておけ。俺は相手にする気などない」

「はあ、左様でございますか」

 国王の横で微笑んでいた王妃が口を開いた。

「でもこの子の色を纏うというなら、マリアと被ってしまうわねぇ。困った王女様だこと」

 困ったと口では言いながらも、かなり面白がっているのは一目瞭然だ。

「兄上の色というなら僕とも同じでしょう? 誤解されたら嫌だな」

 カーチスの声に全員が頷いた。

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