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 彼らの裸体をサリーは美しいと思った。

「サリー、ハエトリガミと箱を出す前に、我々にローブを出してくれ」

 ロバートの声だ。

「あっ……」

 その手があったことに今更気づいたサリーはクスっと笑った。

「男性用の真っ白なローブよ2枚出てこい! え~い!」

 再び霞が立ち込め、はらりとローブが床に落ちる。

「助かった」

 マーカスがすぐに拾い上げ、一枚をロバートに渡した。
 ベッドの上で、黒い塊がじわっと動く。
 一瞬でも気を抜けば即死だと肌で感じるほどの緊張感に、サリーは眩暈を覚えた。

『イース殿下! 私を励ましてちょうだい! 頑張れって言って~』

 サリーが脳内で叫んだ。

『頑張れ! 頑張るんだサリー! 君は強い! 絶対に負けない!』

 イースの声が一番大きいが、全員の声が聞こえる。
 王が叫んでいる。
 王妃の涙声も聞こえる。
 トーマスのしゃがれた声がサリーの名を連呼した。

『ありがとう! 絶対に負けない!』

 サリーは猫の姿のまま、邪神を睨んだ。
 邪神は予想より遥かに小さいと思ったサリーは、一瞬だけ気を抜いてしまった。

「危ない! 油断するな!」

 サムの声だ。

「ごめん!」

 
「サリー! 引け! もう大丈夫だ。後は任せろ」

 ウサキチの声が部屋に響いた。
 その声とほぼ同時にサリーの体がふわっと浮き上がる。
 慌てて上を見ると、マーカスに抱き上げられていた。

「サリー、頑張れるか?」

「もちろんよ。出すわよ! ハエトリガミ」

「おう!」

 サリーは巨大なハエトリガミをイメージした。

「出てこい!え~~~~~い!!」

 茶色の紙が天井からふわふわと落ちてきた。
 ロバートがその角を必死で掴む。
 サリーを降ろしたマーカスも、急いで反対側の角を掴んだ。

「それっ!」

 二人はベッドに駆け寄り、ハエトリガミを邪神の上に被せようとした。
 成功したかに見えたその刹那、スパっという音と共に、二人の体が床に転がった。
 チラッと視線をずらしたウサキチが叫ぶ。

「ダメだ、被せる前に切られてしまう。引け!」

 二人は上半身にハエトリガミをくっつけたまま立ち上がって廊下に逃れる。
 それを確認したサリーは自分に掛けた魔法を解いて邪神に相対した。
 サリーは神々しいほどの裸体を惜しげも無く晒している。

「二人は逃げて。戦況を報告してちょうだい!」

 ロバートとマーカスは、ローブごとハエトリガミを脱ぎ捨てた。

「ダメだ。君も一緒でないと帰らない!」

 ロバートが叫んだ。

「ライラが! ライラが待っているわ!」

 サリーが悲痛な声を出す。
 マーカスが続けた。

「そうだ。君は行け! 戻って予防医学の発展のために全てを捧げてくれ! それが君にできる唯一だ!」

 ロバートが顔を顰めてサリーに手を伸ばした。

「まはりくまはりたやんばらやんやんや~ん! ロバートよチーターになれ!」

 ロバートの姿が哺乳類最速の生物へと変化した。

「サリー! 必ず戻れ!」

 ロバートチーターが廊下を駆け抜けた。

「よくやった! お前たちも戻れ!」

 サムの声が響く。
 しかし、その場から動こうとする者は一人もいなかった。
 廊下からはまだ鍔迫り合いの音が聞こえている。
 志願兵たちが必死で侵入を防いでいるのだ。
 部屋には信者の幹部と思しき男と、妻の首を刈り取られて呆然とするサルーン伯爵、そしてガタガタと震えているライラの両親しか残っていない。

「雑魚は任せるぞ」

 サムは静かに言った。

「心置きなく」

 廊下の制圧を完了した近衛兵が応えた。

「サム、行くぞ。サリーは下がれ! それより二人とも何か着ろ! 気が散って敵わん」

 ウサキチがお道化たように言った。
 後から来た兵士が、サーコートを脱いでサリーに掛けた。
 マーカスも他の騎士から受け取って、素肌の上に羽織る。

「ありがとう。もしかして……見た?」

 騎士が慌てて首を横に振る。
 イースの声が響いた。

『後で使命と所属を報告せよ』

 サリーは吹き出した。

『大丈夫です。イース殿下、誰も見てないって言ってます』

『…………』

 イースの唸り声が響いたとほぼ同時に、ウサキチが宙に跳ねた。

「今回は随分小さいなぁ! やる気あんのかぁ!」

 シューンは少し離れたところで剣を投げ捨てると、上着のボタンを寛げた。

「シューン?」

「今からいっぱい吸い込むからね。楽にしておかないと入らないでしょう? さっきおいしいサンドイッチをたくさん食べたから」

 シューンがものすごく無邪気な顔で微笑んで見せた。
 
「そうね、一緒に頑張ろうね」

 サリーはそれしか言えない自分を情ないと思った。
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