58 / 61
57
しおりを挟む
彼らの裸体をサリーは美しいと思った。
「サリー、ハエトリガミと箱を出す前に、我々にローブを出してくれ」
ロバートの声だ。
「あっ……」
その手があったことに今更気づいたサリーはクスっと笑った。
「男性用の真っ白なローブよ2枚出てこい! え~い!」
再び霞が立ち込め、はらりとローブが床に落ちる。
「助かった」
マーカスがすぐに拾い上げ、一枚をロバートに渡した。
ベッドの上で、黒い塊がじわっと動く。
一瞬でも気を抜けば即死だと肌で感じるほどの緊張感に、サリーは眩暈を覚えた。
『イース殿下! 私を励ましてちょうだい! 頑張れって言って~』
サリーが脳内で叫んだ。
『頑張れ! 頑張るんだサリー! 君は強い! 絶対に負けない!』
イースの声が一番大きいが、全員の声が聞こえる。
王が叫んでいる。
王妃の涙声も聞こえる。
トーマスのしゃがれた声がサリーの名を連呼した。
『ありがとう! 絶対に負けない!』
サリーは猫の姿のまま、邪神を睨んだ。
邪神は予想より遥かに小さいと思ったサリーは、一瞬だけ気を抜いてしまった。
「危ない! 油断するな!」
サムの声だ。
「ごめん!」
「サリー! 引け! もう大丈夫だ。後は任せろ」
ウサキチの声が部屋に響いた。
その声とほぼ同時にサリーの体がふわっと浮き上がる。
慌てて上を見ると、マーカスに抱き上げられていた。
「サリー、頑張れるか?」
「もちろんよ。出すわよ! ハエトリガミ」
「おう!」
サリーは巨大なハエトリガミをイメージした。
「出てこい!え~~~~~い!!」
茶色の紙が天井からふわふわと落ちてきた。
ロバートがその角を必死で掴む。
サリーを降ろしたマーカスも、急いで反対側の角を掴んだ。
「それっ!」
二人はベッドに駆け寄り、ハエトリガミを邪神の上に被せようとした。
成功したかに見えたその刹那、スパっという音と共に、二人の体が床に転がった。
チラッと視線をずらしたウサキチが叫ぶ。
「ダメだ、被せる前に切られてしまう。引け!」
二人は上半身にハエトリガミをくっつけたまま立ち上がって廊下に逃れる。
それを確認したサリーは自分に掛けた魔法を解いて邪神に相対した。
サリーは神々しいほどの裸体を惜しげも無く晒している。
「二人は逃げて。戦況を報告してちょうだい!」
ロバートとマーカスは、ローブごとハエトリガミを脱ぎ捨てた。
「ダメだ。君も一緒でないと帰らない!」
ロバートが叫んだ。
「ライラが! ライラが待っているわ!」
サリーが悲痛な声を出す。
マーカスが続けた。
「そうだ。君は行け! 戻って予防医学の発展のために全てを捧げてくれ! それが君にできる唯一だ!」
ロバートが顔を顰めてサリーに手を伸ばした。
「まはりくまはりたやんばらやんやんや~ん! ロバートよチーターになれ!」
ロバートの姿が哺乳類最速の生物へと変化した。
「サリー! 必ず戻れ!」
ロバートチーターが廊下を駆け抜けた。
「よくやった! お前たちも戻れ!」
サムの声が響く。
しかし、その場から動こうとする者は一人もいなかった。
廊下からはまだ鍔迫り合いの音が聞こえている。
志願兵たちが必死で侵入を防いでいるのだ。
部屋には信者の幹部と思しき男と、妻の首を刈り取られて呆然とするサルーン伯爵、そしてガタガタと震えているライラの両親しか残っていない。
「雑魚は任せるぞ」
サムは静かに言った。
「心置きなく」
廊下の制圧を完了した近衛兵が応えた。
「サム、行くぞ。サリーは下がれ! それより二人とも何か着ろ! 気が散って敵わん」
ウサキチがお道化たように言った。
後から来た兵士が、サーコートを脱いでサリーに掛けた。
マーカスも他の騎士から受け取って、素肌の上に羽織る。
「ありがとう。もしかして……見た?」
騎士が慌てて首を横に振る。
イースの声が響いた。
『後で使命と所属を報告せよ』
サリーは吹き出した。
『大丈夫です。イース殿下、誰も見てないって言ってます』
『…………』
イースの唸り声が響いたとほぼ同時に、ウサキチが宙に跳ねた。
「今回は随分小さいなぁ! やる気あんのかぁ!」
シューンは少し離れたところで剣を投げ捨てると、上着のボタンを寛げた。
「シューン?」
「今からいっぱい吸い込むからね。楽にしておかないと入らないでしょう? さっきおいしいサンドイッチをたくさん食べたから」
シューンがものすごく無邪気な顔で微笑んで見せた。
「そうね、一緒に頑張ろうね」
サリーはそれしか言えない自分を情ないと思った。
「サリー、ハエトリガミと箱を出す前に、我々にローブを出してくれ」
ロバートの声だ。
「あっ……」
その手があったことに今更気づいたサリーはクスっと笑った。
「男性用の真っ白なローブよ2枚出てこい! え~い!」
再び霞が立ち込め、はらりとローブが床に落ちる。
「助かった」
マーカスがすぐに拾い上げ、一枚をロバートに渡した。
ベッドの上で、黒い塊がじわっと動く。
一瞬でも気を抜けば即死だと肌で感じるほどの緊張感に、サリーは眩暈を覚えた。
『イース殿下! 私を励ましてちょうだい! 頑張れって言って~』
サリーが脳内で叫んだ。
『頑張れ! 頑張るんだサリー! 君は強い! 絶対に負けない!』
イースの声が一番大きいが、全員の声が聞こえる。
王が叫んでいる。
王妃の涙声も聞こえる。
トーマスのしゃがれた声がサリーの名を連呼した。
『ありがとう! 絶対に負けない!』
サリーは猫の姿のまま、邪神を睨んだ。
邪神は予想より遥かに小さいと思ったサリーは、一瞬だけ気を抜いてしまった。
「危ない! 油断するな!」
サムの声だ。
「ごめん!」
「サリー! 引け! もう大丈夫だ。後は任せろ」
ウサキチの声が部屋に響いた。
その声とほぼ同時にサリーの体がふわっと浮き上がる。
慌てて上を見ると、マーカスに抱き上げられていた。
「サリー、頑張れるか?」
「もちろんよ。出すわよ! ハエトリガミ」
「おう!」
サリーは巨大なハエトリガミをイメージした。
「出てこい!え~~~~~い!!」
茶色の紙が天井からふわふわと落ちてきた。
ロバートがその角を必死で掴む。
サリーを降ろしたマーカスも、急いで反対側の角を掴んだ。
「それっ!」
二人はベッドに駆け寄り、ハエトリガミを邪神の上に被せようとした。
成功したかに見えたその刹那、スパっという音と共に、二人の体が床に転がった。
チラッと視線をずらしたウサキチが叫ぶ。
「ダメだ、被せる前に切られてしまう。引け!」
二人は上半身にハエトリガミをくっつけたまま立ち上がって廊下に逃れる。
それを確認したサリーは自分に掛けた魔法を解いて邪神に相対した。
サリーは神々しいほどの裸体を惜しげも無く晒している。
「二人は逃げて。戦況を報告してちょうだい!」
ロバートとマーカスは、ローブごとハエトリガミを脱ぎ捨てた。
「ダメだ。君も一緒でないと帰らない!」
ロバートが叫んだ。
「ライラが! ライラが待っているわ!」
サリーが悲痛な声を出す。
マーカスが続けた。
「そうだ。君は行け! 戻って予防医学の発展のために全てを捧げてくれ! それが君にできる唯一だ!」
ロバートが顔を顰めてサリーに手を伸ばした。
「まはりくまはりたやんばらやんやんや~ん! ロバートよチーターになれ!」
ロバートの姿が哺乳類最速の生物へと変化した。
「サリー! 必ず戻れ!」
ロバートチーターが廊下を駆け抜けた。
「よくやった! お前たちも戻れ!」
サムの声が響く。
しかし、その場から動こうとする者は一人もいなかった。
廊下からはまだ鍔迫り合いの音が聞こえている。
志願兵たちが必死で侵入を防いでいるのだ。
部屋には信者の幹部と思しき男と、妻の首を刈り取られて呆然とするサルーン伯爵、そしてガタガタと震えているライラの両親しか残っていない。
「雑魚は任せるぞ」
サムは静かに言った。
「心置きなく」
廊下の制圧を完了した近衛兵が応えた。
「サム、行くぞ。サリーは下がれ! それより二人とも何か着ろ! 気が散って敵わん」
ウサキチがお道化たように言った。
後から来た兵士が、サーコートを脱いでサリーに掛けた。
マーカスも他の騎士から受け取って、素肌の上に羽織る。
「ありがとう。もしかして……見た?」
騎士が慌てて首を横に振る。
イースの声が響いた。
『後で使命と所属を報告せよ』
サリーは吹き出した。
『大丈夫です。イース殿下、誰も見てないって言ってます』
『…………』
イースの唸り声が響いたとほぼ同時に、ウサキチが宙に跳ねた。
「今回は随分小さいなぁ! やる気あんのかぁ!」
シューンは少し離れたところで剣を投げ捨てると、上着のボタンを寛げた。
「シューン?」
「今からいっぱい吸い込むからね。楽にしておかないと入らないでしょう? さっきおいしいサンドイッチをたくさん食べたから」
シューンがものすごく無邪気な顔で微笑んで見せた。
「そうね、一緒に頑張ろうね」
サリーはそれしか言えない自分を情ないと思った。
45
お気に入りに追加
1,028
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。


オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる